米中2強時代

「G2」という呼び方がある。昔は米ソ、今は米中を意味する。

政治や経済の世界では、すでに「米中2強時代」を世界が意識している。しかし、科学技術の分野ではまだその認識は薄い。だから今朝の日経の記事に目が止まった。

「世界の科学技術「米中2強」に 中国、論文4分野で首位」という記事である。引用する。

技術革新の源泉となる科学研究論文で、コンピューター科学や化学など4分野で中国が世界トップにたったことが文部科学省所管の科学技術振興機構の調査でわかった。主要8分野を米国と分け合った形で、米国1強から「米中2強」の時代に突入した。科学技術予算の急増のほか、海外在住の中国人研究者の獲得や若手教育などの政策が功を奏している。

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3年連続のノーベル賞受賞に湧く日本は低迷。技術革新や産業競争力で後れをとりかねない。

世界の学術論文を収めたデータベースを使い、他の論文に引用された回数でみた影響力を分析。引用回数が上位10%の論文から、米国、英国、ドイツ、フランス、中国、日本に所属する研究者の顔ぶれを割り出した。

2015年時点で「コンピューター科学・数学」「化学」「材料科学」「工学」で中国が首位。米国は「物理学」「環境・地球科学」「臨床医学」「基礎生命科学」で1位だった。

中国の躍進ぶりを象徴するのが、スーパーコンピュータや暗号技術など安全保障に関わるコンピューター科学だ。21%が中国の研究者の成果で、17%の米国を抜いた。2000年時点では3%にすぎず、米国の20分の1以下だった。スパコンの性能でも2013年から中国製が世界1位。16年は1、2位を独占した。

米国のお家芸といわれる物理学分野でも20%に上昇、26%の米国を猛追する。中国は60億ドル(約6700億円)以上を投じて世界最大の加速器を建設する。質量の源ヒッグス粒子を発見した欧州の巨大加速器「LHC」の2倍で、最先端の素粒子物理学でも世界の中心になる可能性がある。

躍進を支えるのが潤沢な資金と人材への投資だ。研究費は00年ごろは官民合わせても5兆円ほどだったが、14年には38兆円と急拡大。18兆~19兆円前後で推移する日本の2倍で、米国の46兆円に迫る。先進国で学んだ中国人研究者を呼び戻しているほか、留学や派遣を通じて海外の研究人脈と太いパイプを築く。

分析に関わった同機構の伊藤裕子研究員は「中国が多くの分野で米国を抜くとは予想外だ」と指摘する。当分、米国優位は続くとみられるが、トランプ大統領は科学予算を大幅に減らす方針を示しており、中国の存在感が一層増しそうだ。

日本は得意としてきた化学分野で5位と低迷。他の分野も5~6位だ。ノーベル賞受賞者は21世紀に入って17人と米国に次ぐが、30年以上前の研究がほとんど。世界に取り残されつつある。』

ノーベル賞の受賞は20年ほど前の研究に対して与えられる。このところノーベル賞ラッシュにわく日本だが、それはバブル時代、基礎研究に企業が金を使ったためだ。ノーベル賞の受賞者数で中国に差をつけ溜飲を下げている日本人は、20年後間違いなく悔しい思いをするだろう。

中国の受験戦争は激しい。中国の難関校に比べたら東大入試など楽だと、中国から受験生が押し寄せる。日本人に比べて中国人受験生の学力は高いという。だから、日本の大学の外国人枠を巡り中国人同士の激しい競争が展開される。

日本の温室から出ようとしない日本人の若者に対して、中国人は世界中の一流校に留学している。その差は広がるばかりだ。

日本の電機メーカーの苦戦を横目に中国では巨大市場を背景としたIT企業が大きく育っている。豊富な資金力を使い研究開発にも力を注ぐ。もはや世界の下請け工場ではない。

これから最も成長が見込まれる「AI」の分野ではすでに中国企業が世界をリードしつつあるという見方さえある。最先端の戦略分野に資金と人材を集中投入する中国が、科学技術の分野でアメリカを凌駕する日が来ても驚かない。

そうした日本の科学技術の現状に警鐘を鳴らす記事が去年の末、同じく日経新聞に載った。「躍進中国の背中遠く スパコン世界首位今は昔 国際共同の研究乏しく」という記事、こちらも引用する。

『 日本の科学技術力に危険信号がともっている。3年連続でノーベル賞受賞者が決まる一方で、研究水準の低下を懸念する声があがる。最近の研究現場は短期的な成果を求められ、じっくり取り組む環境が乏しくなっている。イノベーションを目指す企業の研究開発にも陰りがみえる。このまま衰退していくのか、立て直す道はあるのか。実情を探った。

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科学技術立国ニッポンの存在感は世界でも薄れてきた。科学技術分野でも中国の躍進が鮮明だ。

11月、世界の優れたスーパーコンピューターのランキングが米国ユタ州の国際会議で発表された。半期ごとに性能を競うが、世界最速は2013年から連続して中国製。16年はランキング1位と2位を独占した。世界のトップ500台に占める国別シェアでも、最新調査では34.2%と、米国と肩を並べた。

スパコンは最先端の研究に欠かせない。性能向上は各国の科学技術水準を映すともされ、これまでは米国が圧倒してきた。日本も一時期、トップの座を奪い、先進国が長らく牙城を守ってきた。

スパコンの省エネ性能でかつて首位になった「菖蒲(しょうぶ)」を開発したPEZY Computing(ペジーコンピューティング、東京・千代田)の斉藤元章社長は、中国の強さを「自動車に例えれば、日米は誰もが乗れる高級乗用車を、中国はレース用のF1車をつくっている」と話す。

中国はスパコンを操作できるソフトウエア技術者も大量に養成している。日本最速のスパコンは東京大学と筑波大学が共同利用する富士通の機種で世界では6位。国別シェアは5.4%にとどまる。斉藤社長は「単純な性能や設置台数で日本は中国に太刀打ちできないだろう」と展望する。

中国はエネルギー・資源の制約、経済発展、公衆衛生の向上などを重要課題とし、解決に向け科学技術に巨費を投じる。軍事利用や国威発揚の目的も含むが、着実に研究の力をつけてきた。

論文数で見劣り

 だが、日本の低迷は中国の躍進だけでは説明がつかない。先進国の中でも日本の停滞ぶりが際立つからだ。文部科学省科学技術・学術政策研究所による論文データベースの分析によると、事態は深刻だ。

世界で引用数の多い上位1%の注目論文に限ると、中国のシェアは15.7%で米国の50.3%に次ぐ世界第2位で、10年前の10位(3.4%)から急上昇した。一方、日本のシェアは5.5%で世界の12番目、10年前の5位(6.4%)から大きく下げた。

英独仏など欧州の主要国も注目論文の順位は中国に抜かれたが、シェアはおおむね堅調に推移する。日本も注目論文の数は10年前の491本から693本へと増えたが、世界はもっと活発に論文を出している。

科技政策研の伊神正貫室長は「世界は他国の研究者と協力した論文、新分野に挑戦した論文も多い。日本は潮流に乗り遅れている」と分析する。

欧州各国は自国でできない研究は国際共同研究に活路を見いだす。中国も共同研究相手の多くが米国だ。一方、日本は国内の研究にこだわる傾向がある。政府予算は日本の成長戦略を意識した研究に手厚く、短期志向の成果主義が広がる。国際共同研究の乏しさが影を落とし、国際競争から取り残されている。

10年前には「中国発の論文は質が伴っていない。まだ日本の方が勝っている」との見方があった。主要な学術誌に掲載される論文数からは、中国が実力をつけ、日本が伸び悩む構図が透けて見える。

量子通信も後手

 科学技術力は、最先端研究の主導権争いを左右する。次世代の暗号として注目される「量子通信」用の実験衛星も中国が8月、世界に先駆けて打ち上げた。第一人者がいるウィーン大学を中心に欧州で研究が検討されていたが実現せず、同大で博士号を取得した中国科学技術大学の潘建偉教授が、自国に戻り恩師の夢をかなえた。

日本で量子暗号の基礎実験を続ける情報通信研究機構の佐々木雅英主管研究員は「一気に世界のトップランナーにのし上がってきた」ととらえる。中国は世界最大級の量子暗号通信網を作ろうとしている。中国が将来、量子通信の標準化を唱えれば「主導権を握られてしまうだろう」(佐々木主管研究員)と日本の研究者は危機感を抱く。

日本の科学技術はアジアのナンバーワンで、世界3極の一角を占める認識はもう古い。覚悟を決めて強化しなければいけない。』

「量子通信」とは、解読不能な暗号ネットワークだという。サイバー戦争を想定した時、重要な意味を持つ。

どれだけの日本人がこうした危機感を持っているだろうか。所管の文科省は、加計学園の文書を隠している暇があったら、こうした問題にこそ手を打つべきだろう。

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