仮想通貨リブラ

このところちょっと冴えない動きが続いていたフェイスブックが、世界中の注目を集めている。

本業のSNSではなく、仮想通貨リブラの発行計画が波紋を呼んでいるのだ。

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フランスで開かれたG7財務相会議でも、リブラの規制について早急な対応が必要という認識で一致した。

アメリカ議会の公聴会でも、リブラを巡ってフェイスブックの幹部が呼ばれ議員たちの質問責めにあい、当局の承認が得られるまで発行しないと約束した。

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リブラはなぜこれほどまでに注目されるのか?

解説を聞けば聞くほど、これは人類の歴史に大変革をもたらす可能性があることに気づく。

貨幣の概念の大変革である。

私たちは、生まれた時からお金を使って生きてきた。

お金とは、紙幣やコインである。

でも、なぜ紙幣やコインに物と交換できる価値があるのか?

そんなことを考えることもなく当たり前に使ってきた。

なぜ私たちは、紙幣やコインに価値があると思うのか? 先日たまたま見たテレビ番組は、そんな哲学的な問いがテーマで思わず引き込まれてしまった。

その番組は、BS1スペシャル「欲望の資本主義 欲望の貨幣論2019」。

日本を代表する経済学者・岩井克人さんの貨幣論を中心に海外の一流の研究者などのインタビューを織り交ぜながら、貨幣とは何かを問う番組だ。

ちゃんと中身を覚えていないし、途中で居眠りしてしまったので、番組の内容をここに書くことは差し控える。

ただ、貨幣とは何か?、お金とは何か?と考えるきっかけにはなった。

1万円札はただの紙であり、その紙そのものに1万円の価値があるわけではない。「この紙は1万円分の商品と交換できますよ」という共通の合意がみんなの中に成立しているので、1万円札を出すと1万円分の物を買うことができるのだ。

だとすると、それは紙やコインでなくてもよい。実際に、クレジットカードやスマホ決済など、すでに現物の貨幣を使わずに物の売り買いをすることに私たちは慣れてきている。

別に現物の貨幣など必要ないのだ。それはむしろコストでしかない。人々がデータのやり取りだけで経済活動を行うようになれば、紙幣やコインを作ったり、危険を冒して銀行まで持って行ったり、金庫の中に大事にしまっておく必要がなくなる。

給料はとっくの昔に銀行振込が普通になっている。私たちは、口座に給料が振り込まれた明細を見て納得しているのだ。

中国の一部都市では、キャッシュレスがすごく進んでいると日本でも話題になる。むしろ日本人ほど現物の貨幣に愛着のある国民も少ないとも言われる。

そう遠くない将来、お金の形は全てデータに変わるのだろう。

問題は、それがどういう形になるのか?、そして誰がコントロールするのか?今後の焦点はその部分である。

リブラの場合はどうか?

リブラのサイトには、このように書いてある。

『リブラは、みんなのためのものです。』

そして、こうも書いてある。

『世界中にお金を移動するのは、テキストメッセージを送信するのと同じくらい簡単で安価なはずです。どこに住んでいても、何をしても、いくら稼いでも。』

その特徴が6つ書かれている。

モバイル

「リブラは、エントリレベルのスマートフォンとデータ接続を持つ誰にでもアクセス可能になります。」

安定している

「リブラは、その価値を安定に保つために作られた準備金によって後押しされています。」

速い

「リブラの取引は、あなたがどこにあなたのお金を送っているか、あるいは費やしているかにかかわらず、迅速かつ簡単です。」

世界のために

「リブラは、世界中で利用可能になる世界的な暗号通貨です。」

スケーラブル

「リブラは、人々が日常生活の中でリブラを使用するのを助けるために作られた製品とサービスのエコシステムを育成するでしょう。」

安全

「リブラは、セキュリティを念頭に置いて設計されたブロックチェーン上に構築された暗号通貨です。」

手軽に手数料も安く、どこからでもお金をやり取りできるデジタルの通貨。これができれば、便利なのは間違いないだろう。私のように外国に旅行する人間にとっては、いちいち両替をしなくてみいいだけでありがたい。

セキュリティの問題は気になるだろうが、スマホさえ持っていれば、世界中どこでも生きていけるというのは素晴らしい。特にアフリカなど銀行が発達していない発展途上国ではあっという間に普及するだろう。

でも課題は、誰が通貨の安定性を保証するのかという点だ。ビットコインは投機の対象となり、もはや通貨としての役目を果たせなくなっている。リブラはどのようにして安定性を確保するのだろうか?

フェイスブックは、安定性を確保するためにリブラ協会という団体を作るという。この協会には、世界の有力企業がこぞって参加するとされる。でも、それだけで安定性が確保できるのかについては、専門家の意見も懐疑的だ。

そして何より問題なのは、リブラが既存の秩序を破壊することだ。

もしリブラが世界的に利用されるようになると、貨幣の流通で手数料を稼いでいた「銀行」が必要なくなる。金融機関というものは、何も生産せずにトップクラスの利益を上げてきた。それだけ現物の貨幣には、コストがかかっていたのだ。

もしリブラが現物貨幣を駆逐すると、銀行が担っていた仕事は全てIT企業が担うことになる。成功したIT企業は必ず金融事業に乗り出すが、それだけITと金融は親和性があるのだろう。

世界中の銀行が潰れた時、どんな世界が待っているのか、ちょっと想像もできない。

それ以上に重大なのは、「国家」の力がすごく弱くなることだ。

現在の貨幣は、それぞれの国家が発行しコントロールしている。それは国家が行う一番大きな仕事の一つであり、国家の力の源泉でもある。もしリブラのようなデジタル通貨が流通し、世界中の人がリブラで決済するようになると、国家が金融政策で通貨をコントロールすることは不可能になる。

自国からどんどん資金が流出しても、どうしようもなくなる。おそらく破綻する国家も続出するだろう。さらに言えば、国家という概念が崩壊するかもしれない。

でも、崩壊するリスクがあるようなデジタル通貨を国家は認めないだろう。既存の国家権力と戦ってリブラのような新しい通貨を普及することができるのか、非常に懐疑的だ。もし実現したら、世界は恐ろしいほど変わるだろう。

個人的には怖いもの見たさで、生きている間にそういう時代を見てみたいとも思う。その時、何が起きるのか、私には全く予想もつかない。

国境のない戦争のない世界が訪れれば最高だが、人間の性としてそんな競争のない争いのない世界が実現できるとは思えないのだ。

もしフェイスブックの計画が国家権力によって潰された場合、中国が代わりにやるだろうという見方もある。確かに、ありえそうだ。

欧米諸国や日本は、中国主導の通貨体制を受け入れないだろうが、アフリカやアジア諸国は中国が作るデジタル通貨圏に入るかもしれない。

トランプさんはGAFAに厳しい姿勢だが、アメリカの国益を考えれば、アメリカ主導のデジタル通貨圏を構築しようと思うのが自然だとも思う。

デジタル通貨の主導権を握ると、他国の通貨安誘導などに惑わされることはない。今以上に世界の経済をコントロールする権限を手に入れることができるのだ。今以上の権力集中。それこそが私が恐れる未来だ。

権力というものは、ある程度、分散していた方がいい。

アメリカ、ヨーロッパ、日本、中国、ロシア・・・。

意見が対立して誰かの思い通りいかないぐらいが、いいような気がする。

人類の歴史上、誰もなしえなかった「世界征服」が、単一通貨が登場することによってかつてなくリアリティーを持ち始めている。

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1件のコメント 追加

  1. wildsum より:

    仮想通貨が世界支配するとなれば、この世の中は何も実感のない世界になるでしょう。現金の実在感が全く消えるなんて予想できません、そして、その仮想通貨はITに長けた人間が金儲けできる社会になりそうです。銀行強盗はITを駆使し簡単に金を盗むことができるような社会になりそうです。恐ろしいことです。

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