トランプ慣れ

明日でトランプ大統領誕生から1年。メディアでは様々な総括記事が踊る。

その中で、私が気に入ったフレーズが「トランプ慣れ」。

就任以来、トランプさんはあまり変わった様子もなく唯我独尊を押し通しているが、それを見守る周囲は当初に比べて反応薄になっている気がする。そう言う私も、かなり「トランプ慣れ」してしまっている。

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その「トランプ慣れ」という表現を使っていたのは日経新聞のワシントン支局長、小竹洋介氏だ。彼が書いた「「トランプ慣れ」危うい秩序 盟主なき世界」という記事を引用させていただく。

『 「米国第一」の看板を掲げたトランプ米大統領の就任から1年。内向きで排他的な政策は国内社会の分断を深め、戦後の国際秩序を根底から揺さぶった。見過ごせないのはこの異端児に慣れてしまい、グローバル化の停滞や民主主義の劣化に鈍感になり始めた米国と世界の姿だ。

オバマ前大統領は2017年1月20日の退任間際に手紙を書き、ホワイトハウスの執務机の引き出しにしまった。米国民を成功に導く階段づくり、米国の指導力と国際秩序の維持、民主主義の擁護――。歴代大統領の慣例に従い、自身の後任に助言を残したのだ。

オバマ氏が抱いた懸念の多くは現実になった。だが最悪の事態は免れたと言ってもいい。トランプ氏は曲がりなりにも貿易・通貨戦争を回避した。北朝鮮の核問題やテロとの戦いには関与し、「世界の警察官」の役割を捨てきらずにいる。

世界の経済政策不確実性指数をみると、過去最高を記録した17年1月の305から、17年12月には144まで低下した。保護貿易、移民制限、孤立主義の公約が思ったほど具体化せず、内外の緊張は緩みがちだ。

しかし米国の変質は疑いようがない。環太平洋経済連携協定(TPP)や温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱で鮮明になった超大国の引きこもり。トランプ氏はこれを「偉大な再覚醒」と自賛する。

自己の保身と国益、嘘と真実の境界が曖昧な政権運営への批判も絶えない。米政治学者のトーマス・マン氏は「独裁政治」「収奪政治」「悪徳政治」がはびこっていると断じた。米ジャーナリストのデビッド・ネイワート氏は、事実や論理を超えた「オルト・アメリカ(もうひとつの米国)」の扉が開いたと話す。

そんな混沌への免疫がつき、米国全体の目線が下がり気味なのではないか。保守とリベラル、白人と非白人、支配層と被支配層――。トランプ氏が社会の分断をあおるあまり、誰もが寛容さを失い、憎悪や嫌悪の感情をため込みつつある。』

そして小竹氏は記事の最後をこう結んでいる。

『 米政治学者のフランシス・フクヤマ氏が言う。「我々は確かに悪い皇帝を選んだ。これは株式市場の調整のようなもので、民主主義そのものが挫折したわけではない。ただしトランプ政権が2期8年間も続けば、取り返しのつかないダメージを負う恐れがある」

「トランプ慣れ」がもたらすニューノーマル(新常態)の秩序は危うい。』

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就任1年を前にトランプ大統領は自身のツイッターで「フェイクニュース大賞」を発表した。11のニュースを名指しし、1位は大統領選当日ニューヨークタイムズ紙が報じた「トランプ大統領の下では経済は決して回復しない」という記事だった。

私もトランプ氏当選を知り、401Kの株を全部売った。その後、世界的に株価は上がり続け、ニューヨーク市場も史上最高値を更新し続けている。

世界経済が好調なのはトランプさんのおかげなのか? 全く関係ないのか? 少しは影響しているのか? そのあたりをしっくり解説してくれる記事になかなかお目にかかれない。

トランプさんの発言は無茶苦茶だと思うが、経済を冷ますような政策は一切やっていないように見える。オバマさんの場合、地球環境やら福祉問題やら核廃絶やら、経済よりも優先させる政策があり、それが経済にマイナスの影響を与えることがあった。しかしトランプさんはすべて「経済最優先」「マネーファースト」である。そこには何の理想も哲学もなく、「それはアメリカにとって得か? 儲かるか? 雇用につながるか?」それがすべてなのだ。その意味では少なくとも短期的にはアメリカ経済にはいい影響があるのだろう。公約通り、大規模な法人減税も実施した。

経済についての私の予測は、ニューヨークタイムズ同様、完全に外れた。

もう一つ、トランプ大統領の暴挙がらみで意外だったことがある。パレスチナだ。

トランプさんが「エルサレムにアメリカ大使館を移転する」と発表した時、私は悪夢を見る思いだった。すぐさまガザ地区などで紛争が再燃すると思った。しかし、パレスチナでは限定的な抗議活動は起こったが、私が予想したような大規模衝突には発展していない。

パレスチナの人たちは世界がトランプ氏の決定を批判しているのを意識して、過激な行動を抑制したように見える。日常的にイスラエルと対決する日々が終わり一度平穏な日常を経験したパレスチナの人たちが再び銃や石を手に街に出るのは容易ではない。武力闘争には全てを失う覚悟が必要だ。まだ事態はそこまで行っていないのだろう。

ここでも私の予測は完全に外れた。

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NHKでは、このフェイクニュース大賞に絡んでアメリカの世論調査を紹介していた。その結果が興味深い。

メディアを信頼するかという問いに対して、民主党支持層の72%が信頼すると答えたのに対し、トランプ大統領の与党共和党の支持層では、メディアを信頼するとした人はわずか14%しかいなかった。

自分が聞きたいニュースしか聞かない時代。「フェイクニュース」という言葉が、そんな自己中心的な風潮にお墨付きを与えたことは間違いない。

ただ、トランプさんのような非常識が大統領が誕生しない限り、わからないこともある。トランプさんがどんなに無茶なことを言っても、政府も社会もそれなりに機能していくということだ。皮肉なことに、世界が一昔前に比べて「成熟した」ことが、トランプ大統領の1年間で見えたような気もする。

この考え方は、ちょっと楽観的すぎだろうか。

こんな私の感想も「トランプ慣れ」の一つの症状なのかもしれない。

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