<日々是勉強> 日産のブランドキャンペーンから見る、「ブランド」のつくり方

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幕張メッセで開かれている「販促・マーケティング総合展」をのぞいた。

聞きたかったのは、ゴーン元会長の逮捕で注目を集める日産の人の講演だった。

講師は、日産自動車のLCVグローバルマーケティング部の森島幸彦部長。

「やっちゃえ、日産」キャンペーンを統括した責任者である。

森島さんの講演は、「会長が逮捕された日産の森島です」という自虐から始まった。連日ニュースが続く中でポジティブなバズを発信してもゴーンさんの話でかき消されると厳しい状況を認めながらも、今は日産の変革期であり、「日本人としての誇りをどうするかが問われている」と日産内部の空気というか社内の考え方を説明した。

森島さんは「この講演の依頼を受けたのはゴーン氏逮捕の前だった」と言い訳しつつ話し始めたのだが、その中身は「ブランドづくり」という難しいテーマについて大変勉強になる充実したものだった。

その講演内容から、私が面白いと思った部分を書き留めさせていただく。

 

『ブランドづくりとは「信者」を増やす活動だと思っている。そのためには「大義」と「科学」が必要』と述べた後で、一本のCMを流した。

自動運転車を4台使って流鏑馬をするCM。実にインパクトのあるCMだったが、あまり見たことがない。それもそのはず、ウェブで流し始めて1週間で国交省からストップがかかったのだという。ハンドルから手を離して矢を射るのは危ないというのが理由だった。

『日産の広告の作り方は、「Slice if life 普段の生活を切り取る」ではなくて、「Larger than life 人生を面白くする」だ。

ここで次のデジタルムービーを流す。

日本旅館で活躍する「動くスリッパ」の動画。客が脱ぎ捨てたスリッパが縦列駐車の要領で自動的に整然と並美、外国人観光客が見て喜んでいる映像だ。座布団も自分で元の位置に動く。

この「動くスリッパ」を作るのに6000万円かかったそうだ。でも、とても面白いし、その動きは誰が見ても自動車の技術を連想させる。素晴らしい。

こうしたキャンペーンを始めたのは、2015年に行った調査がきっかけだった。

2015年時点で、日産には他社を上回るイメージがなかった。調査をしてみると、「昔、流行ったメーカー」「企業として何を目指しているのかわからない」「日本人が頑張っている会社に思えない」といったネガティブなイメージが多かった。

森島さんはこれを「2015年、大義のない会社だった」と分析した。

『アメリカには「ゴールデンサークル」という考え方がある。中心にWHYがあり、その外側にHOWがあり、さらにその外にWHATがあるという考え方だ。中心にあるWHYとは「会社としての大義」である。例えばアップルには世界を変革していくというWHYがあり、それに共感してお客さんは買ってくれる。「うちの商品はハイスペックでとても安い」というWHATだけでは物は売れない。』

こうした考え方を取り入れ、日産では「ブランドピラー」を作った。

『社内で聞き取りをして日産が他社に勝るのは「制御力」だということになった。これを軸にブランドピラーを作ることにした。

一番下に「チャレンジ精神」を置き、WHYの所に「ZERO  EMISSION 地球の未来を守りたい」(=地球環境を守る)と「ZERO  FATALITY 人の未来を守りたい」(=交通事故で死ぬ人をなくす)という2つを置いた。

それにアタックするためのHOWが「ニッサンインテリジェントモビリティ」であり、「電気自動車」と「自動運転」の2つでWHYを叶えていこうと考えた。

そしてお客様に提供するWHATに当たるのが「人生を面白くする商品」であり、それを実現するのが「技術の日産」だと定義した。』

こうしたブランドピラーをもとに日産のすべてのキャンペーンを始めた。「それで利益が出るのか」という社内の声に対しては、日本人ならではの答えを用意した。

『「信者」という漢字の「信」と「者」を合わせると「儲」という漢字になる。』

この話は結構効くらしい。

そして具体的なブランド戦略がスタートする。

<コピー>

「やっちゃえ」というコピーを考えたが、女子社員から「嫌いだ」という意見が出た。性的暴力などネガティブなイメージがあることがわかった。そこで考えたのは、「やっちゃえ、日産」と日産を後ろにつけ、矢沢永吉さんにそのコピーを言ってもらう、そして印刷物にはこのコピーは使わないという対策を考え、問題をクリアした。

<コーポレートTVCF>

『大義はコーポレートCMでないと伝わらない』

社内の反対はあったが、個別車種の販売リスクを覚悟してもコーポレートCMにお金をかけることを決めた。

GTーRのCMでは、通常のテレビサイズの16:9ではなく、あえて横長の16:6.5のシネマサイズで作った。「映画のような質感でメッセージを使えるため」と動画に対するこだわりが強い。

「自動運転と言ってはいけない」「手放ししてはいけない」という社内や監督官庁からの制約に対しては、「同一車線自動運転技術」という言葉を考え、ハンドルをたたく矢沢永吉さんという表現で乗り切った。

ガソリンを使って電気を作り自動車を走らせる「ノートe-POWER」と「リーフ」をどう共存させるかという問題を解決するためには、「どこまでも走れる電気自動車の新しいカタチ」というコピーを考えた。

「自動運転搭載の車は限られている」「他の車のマーケティングをしないのか」という問題をクリアするために、「自動運転化技術」という言葉を編み出し、完全な自動運転車でなくてもその技術を使っていることを強調して同じ方向性でCMを作った。

<色を科学する>

いろんなことを調査した。例えば・・・

日本人は車を選ぶ時に色を重視する国民だそうで、実際に売れる車は白と黒とシルバーだが、それだと店頭が水墨画のようになってしまう。では何色必要なのかを調べてみた。8色、12色、15色で調査すると、12色が印象度や購入検討が増えることがわかった。

どの色が必要かという調査をしてみると、黒、白、シルバーの次に必要だとされたのは意外なことにオレンジ色だった。そのため「なんとなくオレンジ作戦」というラインナップを用意した。

<テレビ広告を科学する>

30秒広告と15秒広告では通常15秒広告の方が効率がいいとされていた。A県とB県で15秒広告と30秒広告を出し分けて調査したところ、30秒広告の方が印象が強いことがわかった。そこで発売直後に30秒広告を流し、その後15秒広告に切り替えて継続するパターンを作った。

P&Gが提唱した「7秒ルール」というのがある。CMの前半7秒以内にブランド名を入れた方が広告効果が高いということだが、これも調べた。結果として7秒ルールの効果が確認されたので、すべてのCMで冒頭の7秒以内にブランド名を入れるように徹底している。

CM制作は8ヶ月前から始め事前調査は必ずやる。「アニマチック」と呼ばれるアニメを使った試作版の段階で、認知効率、購入検討、メッセージ伝達、日産ブランド伝達という4つの指標で合格点を取らないと実際の撮影に進めない。こうして制作したCMを事後調査すると、日産ブランドへの影響度、日産ブランドを好き度が確実に向上している。

お客様はどの車が新しい車かわからない。「最近テレビでよくやっている」というのが新車のイメージを決めていることがわかった。だからテレビでやり続ける必要がある。

<コーポレートTVCF>

広告費の効果を科学するとテレビを使ったコーポレートCMが最も効果が高い。

ファンの数ではまだトヨタがぶっちぎりだが、2位のホンダを追い上げていて、特に電気自動車と自動運転のイメージ調査では日産がトップになった。そして、2017年度の年間登録車数でノートがプリウスを超えナンバー1になるなど、コーポレートCMが販売にも繋がっている。

今、全世界にこの「ニッサンインテリジェントモビリティ」というキャンペーンを広げている。動画を制作し、それを各国にばらまいて、各国で制作するCMもそれに沿って作ってもらっている。

ブランドを作るには、外からではなくまず中から。そのブランドを支える技術がどういうものがあるのかを理解してもらい、楽しんで広めてもらう。

 

そして、森島さんが日産ブランドキャンペーンから学んだことは・・・

『ブランド作りには「大義」と「科学」で信者を増やす活動である。ブランドは目で見える形から始める。画像など目で見える形で示していかないと変わっていかない。ブランドは継続なり。コーポレートCMを一旦始めたら広げるしかない。

一番大切なのは、進化させることは始めることより難しい。次から次へと壁にぶつかるので、それをどう乗り越えるかが本当に大変。

ブランドは中から、モチベーションは外から。中の社員が信用しない限り、絶対に外のお客様には伝わらない。逆にモチベーションは社長から褒められても上がらない。外のお客さんや家族から「いい仕事したね」と評価してもらって初めてモチベーションは上がることがわかった。』

 

テレビ屋としては、テレビ広告をこれほど評価してくれている人の話を聞いたのも久しぶりで嬉しかったし、これからの仕事のヒントもいろいろいただいた気分だ。

やはり映像の力は、何者にも変えがたい。その力を本当に発揮できる作品を作らないといけない。

そして、個別の商品ではなく、会社そのものを好きになってもらう取り組みというものは今後日本企業にもどんどん広がっていくだろうという予感がした。

まだまだ日本人にできることはたくさんありそうだ。

 

 

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