どこから撮るか?

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定年の挨拶を考えながら脳の底に沈んでいた記憶を探るうち、一つの言葉を思い出した。

入社して最初に配属された報道カメラマンの先輩から教えられた言葉だ。

「デモの取材をする時に、警官隊の後ろから撮るか、デモ隊の側から撮るかで印象がまったく変わる。NHKは警官隊の側から撮るかもしれないが、我々はデモ隊の側、弱い者たちの側から撮影するのだ。」

正確ではないが、だいたいそんな感じだったと思う。

入社したのは1982年。まだ世の中が全体的にリベラルだった時代だ。視聴者もリベラルなニュースを歓迎した。

それから35年が経ち、日本人の考え方も変わった。当時中立的とされた番組が今では「極左」と呼ばれることもある。

私が中堅社員になった頃には、テレビ局の雰囲気も随分と変わった。青臭い議論は少なくなり、視聴率やコンプライアンス、予算管理や残業削減といったテーマが管理職に与えられた。

これらのテーマも時代の要請であり、ビジネスとしては当然のことなのだが、メディアという特殊な立場ではやはり青臭い議論も絶対に必要である。

私たちは、どこにカメラを据え、どちらの側から撮影するのか?

入社当時は、「反権力こそがメディアの役割」という雰囲気があったが、それは違うだろうと私は思う。

政権が正しいと思えることをしていれば堂々と応援すればいい。しかし、間違ったことをしていると判断した場合は、権力の圧力によって痛めつけられる弱い立場の人に寄り添うことがメディアの使命だ。

権力側からの情報は常に大きい。放っておいてもみんなに聞こえる。

だからメディアは、あえて「デモ隊の側」にカメラを据えることが重要なのだ。同じ事案が権力の反対側からはどう見えるのか、ジャーナリストたちが弱い立場の人たちの側に立って物事を見ることで初めてバランスが取れた報道ができると思う。

「デモ隊の側から撮影する」という教えは、そういう意味だと60歳になった私は考えている。

世界各国で「強い権力者」が次々に登場している時代。今こそ、「デモ隊の側から見る報道」が必要である。

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