🇱🇺ルクセンブルク 2019年8月8日〜12日
ルクセンブルク政府は昨年、全国の公共交通機関を2020年から無料化すると発表しました。もちろん世界初の試みです。
理由は渋滞緩和と環境対策。さらには、都市交通の改革です。
実はEUの小国ルクセンブルクは、一人当たりのGDPが世界一というお金持ちの国。2018年からは未成年者の公共交通機関無料を実現しています。
そもそもルクセンブルクの公共交通機関は全て国営で運営されていて、ずっと赤字です。それでもあえて無料化に踏み切る背景が、実際に現地で交通機関を利用して少し見えてきました。
1回2ユーロ、1日4ユーロ

ドイツとフランスに挟まれた小国ルクセンブルク。三方を高い崖に囲まれた旧市街は、昔から要塞都市として発展し、今では世界遺産にも登録される風光明媚な街です。
そんなルクセンブルクの公共交通機関の料金体系は、驚くほどシンプルです。
1回分のシングルチケットは国外に出ない限り全国一律2ユーロ。しかも2時間の間であれば、乗り換えも自由です。
さらに1日券を買うと、一日中何回乗り降りしようが一律4ユーロ。バスでも鉄道でも路面電車のトラムでも同じです。

こちらが一日乗車券。ただの印字された紙のチケットです。
よく見ると、有効期限が翌朝の4時となっています。私は勝手に購入から24時間有効だと思って使っていましたが、正確には午前4時を過ぎると新しい切符を買わなければならないようです。

切符は駅の窓口やキオスクなどでも買えるようにですが、私たちはバス停に設置された自動販売機で購入しました。
クレジットカードも使えて、簡単に買えます。
改札がない
驚くのは、ルクセンブルクには改札というものが一切ないことです。

主要な交通機関はバスですが、車両はピカピカなのに乗車時の運転手による切符のチェックもありません。
切符を持っていない人だけ、運転手に言って乗車時に支払いますが、ほとんどの人はバスの好きなドアからただ乗り込み、目的地に着いたら黙って降りていくだけです。

欧州司法裁判所などEU関連の施設が立ち並ぶキルシュベルグ地区を走る路面電車もピカピカ。
こちらも誰も切符をチェックに来ません。

唯一の例外は、外国につながっている鉄道です。
日本のような駅の改札はありませんが、車内で車掌が回ってきて検札がありました。
でも、ルクセンブルク国内の移動であれば、1日券の紙切れさえ持っていれば何の問題ありません。
とにかく日本では信じられないような実に簡単なシステムです。無賃乗車しようと思えば楽勝。もともと儲けようという発想がないのだと感じます。
2020年トラムが中央駅へ

現在、ルクセンブルクの中心街では大掛かりな工事が行われています。
私たちの宿に近い旧市街の「Hamilius」バス停近くは、幹線道路のロワイヤル通り沿いの建物が一斉に建て直されていました。
道路の拡張工事のようです。

工事は、旧市街から中央駅へと伸びるリベルテ通りでも各所で行われていて、「何だろう?」と疑問に思っていました。

その謎は、工事現場に描かれていた完成予想図を見て解けました。
路面電車ルクストラムが2020年に旧市街から中央駅まで延伸するのです。

こんな看板もありました。
2017年に再開発エリアのキルシュベルグ地区で部分開業したルクストラムは、2018年に旧市街に近い「Etoire」まで延伸しました。
そしていよいよ来年2020年に、最も利用客の多い旧市街と中央駅まで乗り入れる計画です。
将来的には、ルクセンブルク空港まで伸びる予定で、そうなると空の玄関である空港からEU機関が集まるキルシュベルグ地区や世界遺産の観光地・旧市街を経て、陸の玄関である中央駅まで、一本のトラムで結ばれることになります。

これまでバスに頼っていたルクセンブルクの公共交通に革命的な変化をもたらすことになるでしょう。
このトラム計画は、1990年代から計画され2008年に正式に決定されました。
ルクセンブルク政府は、「mobil 2020計画」を実行に移していて、目標は公共交通のシェアを25%まで高めることです。
無料化の背景とは
ルクセンブルクはなぜ公共交通の無料化という世界初の試みを決断したのでしょうか?
その背景には、深刻な交通渋滞があると言います。
私の滞在中はサマーバケーション中だったのか、そんな激しい渋滞には遭遇しませんでした。
ただ、人口11万人のルクセンブルク市には毎日近郊から40万人が通勤し、その多くがマイカーを使うのだそうです。
さらに、国境を完全に開放しているルクセンブルクには、隣国のフランス、ドイツ、ベルギーから毎日17万人が通勤しており、交通渋滞に拍車をかけています。
公共交通機関のためにルクセンブルク政府は年間9億ユーロの予算を使っていますが、運賃収入はわずか3000万ユーロしか入らず、完全な赤字だそうです。
どうせ赤字なら、いっそ無料化し、チケット販売にかかる経費を無くし、より多くの人に公共交通機関を利用してもらった方がいいでしょう。
その結果、渋滞の緩和につながり、排気ガスによる環境汚染を改善する効果があるなら万々歳だとルクセンブルク政府は考えたのです。
人口の少ないお金持ち国だからできる政策でしょうが、これからの時代、そうした大胆な発想の転換も必要かもしれません。
小国ルクセンブルクの大いなる挑戦、期待を持って見守りたいと思います。
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