<きちたび>アイルランドの旅〜奇跡の経済成長「ケルトの虎」はなぜ実現できたのか?

🔶「旅したい.com」から転載

<アイルランド>ダブリンぶらぶら散歩!奇跡の経済成長「ケルトの虎」はなぜ実現できたのか?

🇮🇪アイルランド/ダブリン 2019年8月5日~8日

ヨーロッパ諸国の中でアイルランドというのは、あまり目立たない存在です。

ところが、実は豊かな国なのだということを今回の旅で知りました。

2018年の「一人当たり名目GDP」ランキングによると、アイルランドは日本よりずっと上の世界第5位。EU28カ国の中でも、ルクセンブルクに次いで第2位です。

かつては「ヨーロッパの最貧国」と呼ばれ、大量の移民を国外に送り出してきたアイルランドの急成長は「ケルティックタイガー(ケルトの虎)」と呼ばれています。

どうやってアイルランドは豊かな国になったのか? 

首都ダブリンの街をぶらぶらしながら、その成長の理由を探ってみました。

グラフトン・ストリート

ダブリン有数の繁華街「グラフトン・ストリート」。

平日でも多くの人が、歩行者天国のそぞろ歩きを楽しんでいます。

道端では花が売られていて・・・

様々なお店が軒を連ねる、ショッピング街です。

路上ライブにも、いつも人だかりが・・・

エンヤをはじめ、アイルランドはケルティック音楽で人気の国。今回の旅行前に観た映画「ONCE ダブリンの街角で」も、ストリートミュージシャンが主人公の素敵な小品でした。

私たちがたまたま聴いた女性シンガーもとても魅力的だったので、思わず動画を撮ってしまいました。

彼女が歌っていた場所の向かい側には、ダブリンでも有名なちょっと面白い老舗のカフェがありました。

ビューリーズ・カフェ

「ビューリーズ・グラフトン・ストリート Bewley’s Grafton Street」。

「Bewley’s」は1840年創業のアイルランドを代表するコーヒー&紅茶の老舗です。

グラフトンストリート店はビューリーズの旗艦店で、改修工事の後、2017年にリニューアルオープンしたそうです。

入り口を覆うほどの大きな花飾りの下をくぐって店内に入ってみると・・・

左側にテイクアウトのカウンター、右側と奥にテーブルが並んでいました。

並んでいる商品はどれも見た目が美しく、美味しそうです。

せっかくなので、ここで軽めのランチをいただくことにしました。

真っ先に目を引くのは、独特の装飾のステンドグラスの数々。

アールデコ風のちょっと耽美的な雰囲気を漂わせます。

壁際に置かれたゆったりとしたベンチシート。

客の大半は観光客のようです。

ステンドグラスの前には、何やら彫像のようなものが置かれています。

私たちの席のすぐ脇には、こんなリアルな女性の人形が置かれていて、ただならぬ雰囲気を醸し出しています。

ついついこの人形の女性と目が合ってしまいます。

店の公式サイトには、こんなことが書いてありました。

『芸術、工芸、文化は私たちのDNAの中にあります。』

店内に置かれた数々の芸術品。これを鑑賞するための公式ツアーも定期的に開かれているそうです。

このちょっと不思議なお店で私が注文したのは・・・

「Bewley’s Irish Coffee」(9ユーロ)。

アイリッシュ・ウィスキーがたっぷり入った温かい「アイリッシュコーヒー」です。

ボーイさんが席までコーヒーを運んで来てから、生クリームをグラスに注いでくれます。

さすがに、アイルランドの名門店。

この手さばきを見ているだけで期待感が高まってきます。

最後にコーヒー豆のかけらを散らして完成。

これがビューリーズ伝統のアイリッシュコーヒーです。

甘さは控えめ。私の期待値が高まりすぎていたせいか、正直それほど美味しいとは感じませんでした。

一緒に注文したのは、「Bewley’s Apple Pie」(5.50ユーロ)です。

ほとんどがリンゴで、思ったよりあっさりとした味。

これが、この日の私のランチでした。

ちなみに妻は・・・

「Soup & Open Sandwich」(12ユーロ)を頼んでいました。

料理が特別美味しいという印象もありませんが、この老舗カフェは一見の価値があると思います。

そして、グラフトン・ストリート界隈を歩いていると、日本とは一味違った居心地の良さを感じるのです。

目をみはる高層ビルはありませんが、これが豊かさというものなのでしょうか?

ちなみに、アイルランドの一人当たりGDPは日本のほぼ2倍です。

「Bewley’s Grafton Street」
営業時間:
月-水 7:30-19:00
木   7:30-21:00
金   7:30-20:00
土   8:00-20:00
日   9:00-20:00
https://www.bewleys.com/ie/

セント・ステファンズ・グリーン

ダブリン市民の憩いの場「セント・ステファンズ・グリーン」。

私たちが到着したのは月曜のお昼でしたが、宿のすぐ近くにあったこの緑豊かな公園には、のんびりとくつろぐ多くの人たちの姿がありました。

公園の池ではたくさんのカモメたちが羽根を休めていて、それを見守りながらくつろぐ人たちがいます。

「なんだかみんなのどかに暮らしているなあ」、それがアイルランドの第一印象でした。

しかし、ちょっと調べると、この国には12世紀以降続く、隣国イギリスとの長い確執の歴史があることがわかります。

公園の中を歩いていると、こうした説明文が随所に設置されているのに気づきました。

実はこの公園、アイルランド市民たちがイギリスからの独立を求めて武装闘争を展開した1916年の「イースター蜂起」の舞台となったのです。

1週間に渡ったイースター蜂起は鎮圧され、中心メンバーは処刑されました。

しかし彼らが呼び起こした独立への戦いは、1919年からの「アイルランド独立戦争」へと引き継がれ、22年の自治権獲得、戦後1949年の独立達成へとつながっていくのです。

イースター蜂起はアイルランド人にとっての誇りであり、この公園が市民に愛される一つの理由でもあるのでしょう。

だから、イギリスに対する対抗心には強烈なものがあります。

例えば、イギリスが残した郵便ポストも赤ではなく緑。理由はイギリスへの恨みです。

長年イギリスの植民地とされたアイルランドの人たちは、イギリスからの入植者に土地を奪われ、小作人として貧しい暮らしを強いられました。

19世紀には「ジャガイモ飢饉」と呼ばれる大飢饉が起き、人口の20%以上が餓死、10−20%が移民として国外に逃れるという悲劇を経験しました。

現在、国外に暮らすアイルランド系の人たちはアメリカを中心に8000万人。ケネディ大統領を筆頭に、レーガン、クリントン、オバマの米歴代大統領もアイルランドの血を引いているといいます。

それに対して、本国アイルランドの人口はわずか460万人ほど。

本国をはるかに上回る海外ネットワークの大きさは、悲しい歴史の裏返しでもありますが、近年アイルランドが飛躍する原動力ともなりました。

「ケルトの虎」と呼ばれる奇跡的な経済成長を主導したのは、ITをはじめとするアメリカ企業の進出でした。

アイルランドがEUに加盟しユーロを導入すると、多くのアメリカ企業が英語圏で労働力が安いアイルランドに目をつけ、欧州の拠点を置くようになったのです。そして、アイルランド政府も外資に対する優遇税制を導入して、積極的な誘致を進めました。

その結果アイルランドは、1995年から2007年にかけてEU諸国の中でも最も高い経済成長を達成。「アジアの虎」と呼ばれたシンガポール、香港、台湾、韓国になぞらえて、「ケルトの虎」と呼ばれるようになったのです。

その後、金融危機によるバブル崩壊という苦境も経験しましたが、それを乗り越え今も高い経済成長を継続。ついに一人当たりのGDPが世界5位と、世界で最も豊かな国の仲間入りを果たしました。

トリニティ・カレッジ

アイルランド独特の教育も、経済成長に大きな影響を与えたと言われています。

アイルランド最古の歴史を持つ大学「トリニティ・カレッジ」。1592年、イングランドによって建てられました。

この大学はもともとイギリスからの入植者や役人のために作られた大学で、カトリック教徒の入学が認められるようになったのは200年後のことでした。

ダブリン有数の観光名所となっている「トリニティ・カレッジ図書館」があり、それを目当てに多くの観光客がやってきます。

そのため、誰でもキャンパス内に自由に入ることができます。

大学のキャンパスに入ると、ガイドツアーのチケット売り場がありました。

ちょうどその日最後のツアーがスタートするところだと言います。

朝9時15分から夕方5時50分まで、1日20回行われるツアーは所要時間35分。料金は、15ユーロです。

現役学生がキャンパスを案内してくれるそうで、そのうえお目当の図書館「オールドライブラリー」の入場券もセットになっているというので参加してみることにしました。

ガイドを務めるのは今年大学を卒業するという男子学生で、20人ほどの観光客がグループになってキャンパスを回ります。

ガイド役の学生さんは、破れたような不思議なマントを着ています。

大学の寮に受け継がれるマントのようで、まさにハリーポッターの世界です。

私は当然、彼が図書館も案内してくれるものと思っていましたが、結果的にはそうではありませんでした。

大学の歴史や学生生活のエピソード、キャンパス内の建物の説明などを早口の英語でまくし立てる日本人にはちょっときついツアーです。

おまけに肝心の図書館見学は、このツアー終了後、各自でご自由にどうぞということで、ちょっと拍子抜けしてしまいました。

もし図書館だけが目的なら、直接図書館の入場券売り場に並ぶことをオススメします。

でも、もし時間と気持ちに余裕があれば、このツアーもそう悪くはありません。

英語はよく聞き取れませんでしたが、彼の語り口は爽やかで場慣れしていて、ツアーに参加したお客さんたちには大いに受けていました。

きっと彼が話すエピソードは面白いのでしょう。

青空の下、歴史を感じさせる大学の建物を見て歩くだけでも、とてもいい気分です。英語のヒアリングテストだと思って参加してみるのも悪くはないと思いました。

さて、アイルランドの教育について調べてみました。

イングランドによって建てられたこのトリニティ・カレッジは、今では国立ダブリン大学としてアイルランド教育界の最高峰に君臨しています。

アイルランドでも少子化は進行中ですが、それでもヨーロッパの中では最も出生率が高く、人口の40%が25歳以下という若い国です。

アイルランド政府は早くから教育に力を入れていて、なんと小学校から大学まで授業料はすべて無料という信じられない制度を導入しています。

さらに特筆すべきは、「トランジションイヤー」と呼ばれる1年間です。

日本の中高一貫に当たる「セカンダリースクール」では、4年目となる1年間、生徒たちは通常の授業を離れて、自分の興味がある活動(ボランティア、職業訓練、アルバイト、音楽、演劇、スポーツ、外国語など)に専念することになっています。

高校1年生ぐらいの年齢の時、机の上ではない実体験を積んで自らの進路を考える試みです。

日本の教育にも、とても参考になりそうな制度ではないですか?

こうした独自の試みが、優秀な人材を生み出し、アイルランドの急成長を支えたのです。

アイルランドの課題

ただ、当然いいことばかりではありません。

第一の課題は、格差。

ダブリン市内を走っていると、明らかに貧しそうなエリアも目につきます。

豊かになったアイルランドには、東欧諸国からの移民が流れ込み、貧富の格差が広がっているといいます。

首都ダブリンと地方の格差も開く一方です。

第二の課題は、多国籍企業に対する税制です。

多国籍企業がアイルランドの税制を利用して、本来払わなければならない税金を免れているとの批判も強まっています。

アイルランドの旅から帰国した後、フェイスブックが日本法人の利益をアイルランドに移転しているとして東京国税局から申告漏れを指摘されたとの報道を目にしました。フェイスブックは修正申告に応じたようですが、その額は1億数千万円程度とされます。

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)に代表される巨大IT企業を巡っては、世界中で利益を生み出し、その利益を低税率国に集める租税回避への批判が根強い。欧州を中心に課税強化の動きが活発になっている。

出典:日本経済新聞

そして第3の課題、最も頭が痛いのがイギリスのEU離脱、いわゆるブレグジットの影響です。

ブレグジット最大の難問は、北アイルランドの国境問題。

イギリスがEUを離脱した後、EUに属するアイルランドとイギリス領である北アイルランドの国境管理をどうするかで、両者の対立が解消しないのです。

イギリスに対して強い敵愾心を持つアイルランドですが、隣国イギリスは最大の貿易相手国です。そのイギリスと陸路の国境を接していることで、アイルランドはEU側の窓口という優位性を享受してきたのです。

イギリスがEUを離脱するとアイルランドは優位性を失い、経済的に大きな損失を被ると見られています。

こうした課題を乗り越えて、今後も成長を続けられるのかどうか?

アイルランドの真価が問われるのは、これからです。

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