🇸🇲サンマリノ 2018年8月
最近、小さな国にとても興味がある。
世界一小さな国はバチカン市国、2番はモナコ、3番・4番は南太平洋のナウルとツバル、そして5番目に小さな国が今回訪れたサンマリノ共和国である。
私にとって、85番目の訪問国となる。
ボローニャ中央駅を午前8時に出発する特急列車に乗り、アドリア海に面したリゾート都市リミニへ。
片道1時間10分ほど、料金は16ユーロだった。
リミニの駅前通りを渡って少し右手に行った所に小さなタバコ屋兼土産物屋がある。
注意深く見ると、「TICKET SAN MARINO」と書かれた看板がかかっている。この店でバスのチケットを売っている。
往復で10ユーロ。この店でチケットを買っておくことをオススメする。
切符を買ってさらに右手に進むと、サンマリノ行きのバス停がある。
すでにかなりの人がバスを待っているが、列になっていないので嫌な予感がした。
サンマリノ行きのバスは1日12本。
リミニ駅到着は9時13分。切符を買って9時25分発のバスに乗るのはかなりバタバタだ。
バスは少し遅れていた。ローマ行きのバスが先にやってきた。大きな荷物を持った人たちが乗り込む。サンマリノ行きのバスを待つ人たちの間に、少し緊張が走る。列に並んでいないので、バスが来たら早い者勝ちになることが予想される展開だ。
ローマ行きのバスを追い越すようにして1台のバスが止まった。サンマリノ行きだ。
群衆が一斉にバスに押し寄せる。こういう状況を予想していた私は、のんびりした妻を促して素早く動く。とても写真を撮る余裕などない。若い頃、発展途上国で揉まれた経験から、こういう場面で次に起きる状況を予測する能力を身につけた。
バスの入り口から我先に乗り込む乗客たち。遠慮していたら座席がなくなり、下手をすれば次のバスを待つ羽目になってしまう。何とか妻を押し込み、私も続いて乗り込んだ。
ただ、結果的にはバスは以外に大きくて、全員座ることができた。
ちゃんと並んでいれば、あんなに混乱しなかったのに・・・。
バスは定刻を少し遅れてリミニを出発した。
20分ほど走ると、遠くに岩山が見えて来た。
あのティターノ山の頂にへばりつくように築かれたのが、サンマリノの街である。
不覚にも何も知らず右側の席に座ってしまったが、サンマリノに向かう道中、ティターノ山の写真を撮ろうと思ったら、左側の席に座るべきだ。
30分ほどでバスはティターノ山の麓にたどり着く。岩山の上に築かれた3つの塔がはっきりと見える。
ティターノ山は739m。海岸に位置するリミニから緩やかに登って来た。
「サンマリノ」の標識が見えた。
小さなサンマリノ共和国の首都サンマリノ市は、ティターノ山の山頂にあるのだ。
角を曲がると、黄色の制服を着た警官らしき人影が見え、多くの車が止まっていた。
ここが国境かと思ったのだが、ここは山頂に登るロープーウェイの乗り場で、知らぬ間に国境を通過していた。
イタリアとサンマリノの国境がどこだったのか、バスに乗っていてまったくわからなかった。そう、サンマリノは、文字通り四方をイタリアに取り囲まれた浮島のような独立国なのだ。
バスはつづら折りの山道をノロノロ上がり、リミニからおよそ45分で山頂のバスターミナルに到着した。
リミニでは混乱して撮影できなかったが、サンマリノ行きのバスはこんな感じ、白地のボディーに水色の文字が書かれている。白と水色は、サンマリノの国旗の色である。
バスを降りると、さらに上へと歩く。
バスターミナルもすごい急峻な山の上に造成されていることが上から見るとよくわかる。
また黄色の制服をした警官。
ここがサンマリノ市の正門だ。
サンマリノには信号がない。
正門の前で交通整理に当たる警官の黄色い制服が青空をバックにまぶしい。
そしてこちらが正門に当たる「聖フランチェスコ門」。
門の内側には、世界遺産のプレートが掲げられていた。
「サンマリノの歴史地区とティターノ山」は、2008年に世界遺産に登録された。
聖フランチェスコ門を過ぎると、細い坂道がうねうねと続く。
坂の両脇には商店が並び、フランスのモン・サン・ミシェルに似ている。
売っているのは、きれいな石鹸・・・
革製品・・・
なぜか、アヒルのおもちゃ・・・
これまたなぜか、ミリタリーショップもたくさんあった。
サンマリノは消費税がないため、買い物目的でこの国を訪れる観光客も多いという。
サンマリノを訪れる観光客は年間300万人、その観光収入がGDPの50%を占めているという。
サンマリノは法人税も17%と安い。
いわゆるタックスヘイブンの国であり、この小さな国に11もの金融機関があるという。
その結果、驚くことに人口3万3000人ほどのこの国の国民1人あたりのGDPは世界で13位なのだ。周囲を取り囲むイタリアはもちろん、ドイツ、フランス、イギリスや日本よりも高い。
坂を上がっていくと、窪地になった競技場が現れる。
ここでは伝統的な石弓の競技会が開かれる。
サンマリノの石弓兵は有名だそうで、下から侵略してくる敵をこの石弓で撃退したのだろう。
さらに登ると、ロープーウェイの駅に着いた。
文字通り断崖絶壁の上に作られている。
ロープーウェイは、先ほどバスで通った麓の町ボルゴ・マッジョーレと山頂のサンマリノを結んでいる。
はるか彼方に、イタリアのリミニの町とアドリア海が見える。まさに絶景の地だ。
近くに観光案内所がある。目立たないので、気づかずに通り過ぎてしまった。
ここで5ユーロ払えば、観光ビザをもらうことができる。
別に入国にビザはいらないのだけど、記念に5ユーロ払って取得することにした。
キラキラと光るシールも貼ってくれて、立派なビザである。
サンマリノは、独自の切手やコインも発行していて、これがコレクターたちの間ではレアものとして人気なのだそうだ。
小さな国ででも、知恵を絞れば小さい国だから価値を持つレアな商売があるのだ。
そしていよいよ、サンマリノ旧市街の中心リベルタ広場へ。
広場に面した塔を持つ建物が、サンマリノの政治を司る政庁だ。
こちらがサンマリノ共和国の国旗だ。
1797年に制定されたこの国旗は、白色は純粋さ、水色は空とアドリア海を表現しているそうだ。そして中央の紋章にはティターノ山の3つの塔が描かれ、「自由 LIBERTAS」の文字が添えられている。
サンマリノの歴史は、301年ローマ皇帝のキリスト教迫害を逃れて石工のマリノがティターノ山に立てこもったのが始まりとされる。
その後、外敵の侵略に耐えて領土を守ったサンマリノの人々は、1631年ローマ教皇によって独立を承認された。その時すでに大統領を要する共和制をとっていた。サンマリノが世界最古の共和国と呼ばれる所以だ。
世界最古の共和国サンマリノは、独特の政治スタイルを持っている。
国の元首は「執政」と呼ばれるが、2人いる。元首が2人いるのだ。しかも人気は半年。5年ごとに行われる選挙で選ばれた大評議会議員の互選で選出される。
独裁権力が生まれないユニークな仕組みだ。
それだけ、伝統である共和制への強い誇りを持っているのだろう。
政庁の玄関には、緑色の制服に身を包んだ衛兵が立っている。
しかし、緊張感はまったくない。サンマリノには世界最小規模の軍隊があるというが、それが彼ららしい。実態はイタリアに防衛を委ねている。人口3万人の小国には、現代の戦争など到底無理な話だ。
サンマリノにはこんな大聖堂もある。
その大聖堂の前の坂道をさらに登っていく。
すると、絶壁に突き出すように建てられたレストランを発見した。
時刻は11時半、少し早いがここでランチを食べることにした。
「 NIDO del FALCO 」という名前のこのレストラン。
テラス席からはサンマリノのシンボルである要塞を間近に望むことができる。まだ時間が早いせいか、お客さんがおらず最前列の絶景の席に案内された。
左を見れば、遠くアドリア海を見下ろし・・・
秘儀を見ると、3つのうち一番北に位置する要塞「ロッカ・グアイタ」を望む。
こんな絶景の中だと、何を食べても美味しく感じてしまう。
私が注文したのは「お肉のランチ」(15€)。
妻が頼んだのは、「シーフードサラダ」(14€)だ。
どちらもこの旅行中に食べた食事としては、トップクラスだった気がする。
ここまで登ってくる間にいくつものレストランがあったが、途中で捕まらずこのレストランまで上がってくることをオススメしたい。
とても気持ちのいいお店だった。
食事を終え、坂道を一番上まで登ったところがサンマリノ第一の砦「ロッカ・グアイタ」だ。
4.50ユーロの入場料を払うとこんな可愛らしいプラスチック製の入場券をもらえる。
この山を抱えた聖人が聖マリノなのだろうか?
城壁の中は、きれいに整備されていた。さすが観光立国だ。
ボローニャあたりに比べても、植栽はずっと手入れが行き届いている。
塔に登り、北の窓から眺めると、今来たサンマリノの街並みが見える。
そのはるか彼方に、宿泊しているボローニャの街がある。
一方南側の窓からは、第二の砦「チェスタの塔」。
さらにその向こう側に、第三の砦「ロッカ・モンターレ」がある。
本当によくこんな場所に要塞を築いたものだ。
この城を攻め落とすのは、航空機のない中世には容易でなかっただろう。
ちなみにこの塔、最上階に上がるにはハシゴを登らなければならない。
上りの人と下りの人が同じハシゴを使うため、かなりの渋滞が発生する。それでも登る価値はあるだろう。
要塞を出て、今度は坂道をブラブラと下る。
気温は25℃と表示されていた。確かに下界に比べてかなり涼しい。
街も清潔で、歩いているだけで楽しい。
特別何かがあるというわけではないが、この景色と、この国の歴史と、そしてこんな小さな独立国がなぜ存在できるのかを考えるだけでも意味がある。
我々が当たり前だと思っている「国」という概念が少し変わった気がした。
正門を出て、駐車場へ向かう途中、こんなポスターを見つけた。
そういえばサンマリノは「ルパン三世」の新作の舞台ともなったのだ。またカリオストロの城のモデルと言われる「サン・レオ城」もサンマリノのすぐ近くだ。
サンマリノからリミニに戻るバスも、行きと同様、押し合いへし合いの混乱状態となった。
それでも、サンマリノ共和国には行く価値がある、と私は思った。
ボローニャからの日帰り旅行、時間があれば絶対にオススメである。
<関連リンク>
②旧市街のど真ん中マッジョーレ広場を見下ろす奇跡のコンドミニアムに泊まる
④世界で5番目に小さな国サンマリノは世界最古の不思議な共和国だった
<参考情報>
私がよく利用する予約サイトのリンクを貼っておきます。
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