中央アジアへの旅を終えたばかりだが、もう次の旅行の計画を進めている。
行く先は以前から一度行ってみたかったパプアニューギニアとソロモン諸島。
ラバウルとガダルカナルと言った方が分かりやすいだろう。

ラバウルは太平洋戦争中、旧日本軍の司令部があった南洋の最前線基地である。
私も子供の頃に「ラバウル小唄」を大人が歌うのを聴いた世代だが、それがどこにあるのか、それがどういう場所なのかについてはさほど興味を持ってこなかった。
ラバウルは、パプアニューギニアの東部「ニューブリテン島」のシンプソン湾を望む天然の良港である。
最初はドイツが建設し、第一次大戦後はオーストラリアによって統治されていたが、真珠湾攻撃翌年の1942年1月23日、日本軍がこの島に上陸占領し、ここに「ラバウル要塞」と呼ばれる一大軍事拠点を築いた。

一方のガダルカナルは、無敵を誇った日本陸軍が米軍に初めて大敗を喫した戦場であり、海軍のミッドウェーと並ぶ戦局の大きな転換点となった島だ。
補給路が断たれて多くの日本兵が餓死したことから「餓島」とも呼ばれるガダルカナル。
この島は、ニューギニア島から東へおよそ1000キロ離れたソロモン諸島にある。
ソロモン諸島は歴とした独立国で、最近では中国との関係を深めていることで注目される島国だ。
まだ訪れたことのないパプアニューギニアとソロモン諸島という2カ国を回り、補給を無視した無謀な作戦によって地獄と化した戦場の跡を自分の目で確かめたいというのが今回の旅の目的である。
中央アジアから戻って、すぐに旅行の計画を立て、いつものように予約サイト「エクスペディア」を中心にフライトとホテルを自由に組み合わせて予約していった。

パプアニューギニアは日本からほぼ真南におよそ5000キロ、直行便だと約6時間半と意外に近い。
しかし、あまりビジネス客も観光客も行かないためか、航空券が東南アジアなどに比べてめちゃくちゃ高くてこれまで何度か断念した経緯があった。
ところが、今回エクスペディアでチェックしていると、成田からマニラ経由でパプアニューギニアの首都ポートモレスビー往復10万2760円という飛行機を見つけた。
「このくらいなら」と思い、妻の承諾を得てちゃんとプランも立てないままにこの航空券を予約してしまったのだ。
ところが、その後が大変だった。
ネットで現地の様子を調べてみると、ポートモレスビーは世界で最も危険な首都の一つと紹介されていて、旅行者は昼間でも一人で街を歩かないようにと必ず警告してあるのだ。
おまけに、交通の便も極めて悪く、ラバウルやガダルカナルに行くにはポートモレスビーからの飛行機しかない。
ラバウルは国内線なので一応毎日フライトはあるが、ガダルカナル島にあるソロモン諸島の首都ホニアラへのフライトは週3便しかないことがわかった。

まずはポートモレスビーからホニアラ行きのフライトを手配しなければ始まらない。
そう思ってエクスペディアで調べると、ちょうどマニラから到着した数時間後にホニアラ行きのソロモン航空がある。
これなら治安の悪いポートモレスビーにわざわざ泊まるよりも効率的だと考え、すぐに予約を入れた。
ところが、どうもうまく予約できない。
3日後のホニアラ〜ポートモレスビーのニューギニア航空便はすぐに予約が入るのだが、往路が確定せずエクスペディアに電話で問い合わせることに。
電話で応対してくれた女性スタッフは、確かに行きの便だけ予約が確定していないとして、「申し訳ないが一度キャンセルしてもう一度予約し直してほしい」と言った。
私は言われた通りに再びエクスペディアの画面から同じフライトを予約してみた。
2度目も同じ結果で、復路は即座に予約ができたが、往路は確認中という画面が出続けている。
ひょっとするとソロモン航空のシステムの問題で確定までに時間がかかるのかもしれないと1日待ってみることにした。
しかし翌日になっても画面の表示は変わらず、私は暗い気持ちで再度エクスペディアに電話して状況を確認してもらった。
今度は男性スタッフが応対に出たのだが、彼が言うには往路は予約ができていない一方で、私が1日待ったせいで復路の予約はすでに成立してしまったと言う。
これはややこしい状況になってしまった。
改めてソロモン航空のサイトにアクセスしてみると、フライトの時間が3時間も早まっていて、これではマニラからの便から乗り継ぐことは不可能である。
「これはまずい」と思いつつも、次の策を必死で考え始めるのが私の習性だ。
一旦このフライトは捨てて、新たにガダルカナル行きのフライトを確保しよう。
ソロモン航空はどうも信用できないので、復路ですんなり予約ができたニューギニア航空に絞って飛んでいる日を探してみた。
その結果、火曜の午前にホニアラに飛び、土曜の便でポートモレスビーに戻るのが一番現実的かつ安全だと判断して、往復ともニューギニア航空を選んで予約を入れてみる。
今度はエクスペディアからでもすんなりと予約が完了した。
最初からこうすればよかったのだ。

ホニアラからの便が到着した数時間後にラバウル行きの国内線がある。
これなら効率的に旅ができると判断し、土曜の午後のラバウル行きと合わせて月曜の戻り便も予約した。
このエリアでは航空会社の競争がないためか、運賃はやたらに高くて、国際線となるホニアラ往復は10万円強、国内線のラバウル往復も6万円弱もした。
それでもニューギニア航空のサイトで確認するとちゃんと予約が入っているようで、多少高くついてもすんなり飛行機に乗れるのであれば、それはそれで文句はない。

飛行機のスケジュールが決まったところで、今度はホテルの予約をしていく。
こちらも選択肢が非常に限られていた。
ホテルの数が少ないうえに、治安上のリスクが高いため高くてもセキュリティのしっかりしたホテルに泊まるべきと多くのサイトが警告している。
外国人観光客がよく利用するホテルというとラバウルもガダルカナルも1つしか候補はなく、結局忠告に従って高級リゾートホテルを予約することとなった。
ホニアラの宿は「コーラル シー リゾート & カジノ」、4泊で16万円弱。
ラバウルの宿は「ココポ ビーチ バンガローズ リゾート」、2泊で4万3000円余りである。
まあ、こうなったらリゾート気分でプールサイドでのんびり過ごそう・・・そう腹を括ったのだ。
ところが、である。

昨日私のもとに突然1通のメールが届いた。
差出人は在パプアニューギニア日本国大使館、書き出しは「パプアニューギニアにお住まいの皆様又は渡航中又は渡航予定の皆様へ」という物々しいものだった。
中身を読んでさらに驚愕した。
なんとラバウル空港が暴徒に襲われ、無期限閉鎖になったというのである。
本日9月13日の当地報道によれば、同日未明、東ニューブリテン州ラバウル(トクア)空港が約25名の暴徒化した集団により襲撃され、同空港内ターミナル施設や設備に被害が及ぶ事案が発生したことを受け、同空港の無期限閉鎖が決定され、現在同空港に係る全ての離発着便が運航停止となっている模様です。
暴動の原因等事件の詳細は現段階で不明であり、本件に派生し周辺地域の治安が更に悪化する可能性もあることから、安全が確認されるまで同空港周辺には近づかず、また外出の際は周辺地域の治安の変化に十分ご留意ください。また、同空港発着の航空便に関しても、しばらくの間は欠航等が続くことが予想されます。同地区を訪れる又は同空港を利用される計画のある方は、最新の治安及び航空機運航情報の取得に努め、旅程を再計画して頂く等の安全対策を講じてください。
在パプアニューギニア日本国大使館からのメールより
首都ポートモレスビーに比べれば、ラバウルは多少治安がいいと聞いていた。
だからできればラバウル行きを楽しみにしていたのだが、これはまたやばいかもしれない。
私が旅行予定は10月半ばだが、それまでの事態が改善し普通に観光できる状況まで戻ることはあるのだろうか?

そもそもラバウルについては、1994年に近郊の2つの火山が噴火して街が灰に埋まったままになっているという。
そんな話など全く知らず、旧日本軍の戦跡がそのまま残っていると思っていた。
旧日本軍の拠点だった昔のラバウル空港もこの噴火によって閉鎖されて、今は20キロほど離れたココポという町に新空港と政府機関が移転しているんだそうだ。
そして、その新空港が暴徒の襲撃を受けて破壊され、昨日から無期限の閉鎖となってしまった。
これではラバウル行きは諦めざるを得ない。
今回の旅行、行く前から信じられないぐらいの御難続きである。

これもニューギニアやガダルカナルの戦地で亡くなった20万とも言われる日本兵の呪いなのか?
私もこれまで世界各地を旅しているが、こんなメールを受け取ったのは初めてである。
「行ってはいけない」と何かが私に忠告しているようにさえ感じる。

ただ、今回ラバウルの異変を知らせるメールが私に届いたのは、外務省が運営する「たびレジ」というサービスに登録したおかげだ。
パプアニューギニアの治安が少し気になって一応登録しておいたら、いきなりこんなメールが飛び込んできて驚いたというわけである。
それでももしも「たびレジ」に登録していなければ、ラバウル空港閉鎖のニュースを知らないまま現地に行って真っ青になっていたはずである。
情報を知っていれば、対応も可能だ。
ラバウル空港が再開するのを待ちつつ、ダメな場合は別のオプションを考えることができる。
軽い気持ちで航空券を予約したところから始まった今回の南太平洋への旅。
無事に帰国するまでには、まだまだいくつもの峠が待ち受けている気がしている。