24日のことだ。
この日私はキルギスの首都ビシュケクから空路、隣国ウズベキスタンの首都タシケントに飛んだ。

タシケントは人口200万を超える中央アジア最大の都市。
そしてウズベキスタンは私にとって94番目の訪問国となった。
フライト時間はわずかに1時間程度だったけど、ちょっとしたことがあったので書き残しておこうと思う。

ホテルをチェックアウトしたのは正午。
ロシア版配車アプリ「Yandex Go」を立ち上げて、ロビーのソファーに座りながら空港まで連れて行ってくれる車を探す。
すぐに反応があって3分後には到着されると表示された。
急いでホテルを出て道まで出ると、すぐに車がやって来た。

運転していたのはちょっとオシャレな感じのお兄さんで、車はまたホンダだった。
アプリを見せてお互いを確認してから後部座席に乗り込んだ。
このアプリの使い方にもだいぶ慣れて来た。
交通インフラが未整備な国では本当に便利である。

ビシュケク市内はどこも渋滞していたが、アプリが指示する抜け道を通りながら空港に繋がる片側2車線道路に出た。
この道は市内と比べ見違えるほどに立派で、運転手はそれまでのうさを晴らすかのようにぶっ飛ばした。

こうして40分ほどかかって、ビシュケクの国際空港にたどり着いた。
料金は701ソム、1160円ほど。
720ソムを渡すとお釣りを出そうとするので、取っておいてと仕草で示すとお兄さんは嬉しそうに微笑んだ。
配車アプリでこれほど簡単に車が見つかるということは、それだけ職のない人が多いということでもある。
もうキルギスソムを使うこともないだろうから、こちらとしても大らかな気持ちでチップを払えるというものだ。

空港に着いたはいいが、タシケントへのフライトは午後4時半である。
ビシュケク市内で昼メシでも食ってからとも考えたのだが、前日にオンラインチェックインしたウズベキスタン航空の画面にエラーと表示され、空港スタッフに相談するよう書いてあったため早めに空港に来ることにしたのだ。
ところが、早すぎてウズベキスタン航空のカウンターは空いていない。
さあて、どうするか。

ロビーに売店があったので覗いてみると、昔ロシアで見た赤ちゃんの絵柄がついたチョコレートが目についた。
ロシア製のお菓子が並んでいる。
ソムの小銭を処分しようとビスケットなどを非常食として購入する。
それでも6000ソム、およそ1万円ほどが残っていたが、またカザフスタンのテンゲからキルギスソムに両替したように必要時に換えればいいと軽く考えていた。

しょうがないからラウンジで時間を潰すことにしよう。
そう思って、プライオリティパスのアプリ遠開いてラウンジを検索すると、1ヶ所1階ロビーにあると書いてある。
探して行くと確かに「VIP lounge」と書かれた扉があった。
ここかと思って入ろうとするが扉が開かない。
おかしいなと戸惑いながら立っていると、中から人が出てきたので入ってプライオリティパス遠カウンターで示す。
ところがカウンターの女性は私のカードを見て不審な顔をするばかり。
私がアプリの写真を見せると、それは上の階だと上を指さす。

言われるままに、2階、3階を探してみるが、どこにもラウンジなど見当たらない。
仕方なく、2階の端っこにあったカフェに入ることにした。

カフェのおばさんは当然のごとく英語は通じない。
「シャシリク」と呼ばれる串焼きがあったので、それを指差し、コップに入った謎の飲み物と一緒に注文する。
250ソム、約400円ほどだった。

シャシリクには肉の違いなどいろいろ種類があるようで、私が食べたのは牛の挽肉を丸めて串に刺したもののようだ。
空港のカフェということで何ら期待せずに食べたのだが、これは案外美味しかった。
少なくともキルギスで食べた料理の中では一番である。
そして謎の飲み物はどうやらレモネードらしき味がした。

そうして、私が穏やかに食事をしていると、制服姿の男が私の前に立ち、何かキルギス語で話しかけてきた。
言葉はわからないが、このテーブルを使うからどけと言っているようである。
カフェはさほど混んではおらず、空いた席ならいくらでもあるが、どうやら大人数で使うらしく、テーブルをつなげたいらしいということが分かった。
この手の国では制服組には逆らわない方が身のためである。

私が席を譲って別のテーブルに移ると、制服男は礼も言わずにテーブルのセッティングを始めた。
しばらくして、上司らしき制服の男たちがやって来てその12人がけのテーブル中央に座った。
私をどかせた男も座って店員に命じて何かを持って来させたと思ったら、短時間で出て行ってしまった。
結局、来たのは4人だけ、1つのテーブルで座れたのだ。
昔の社会主義国でよく見かけた光景、久しぶりに見た。
この国は、モニュメントだけでなく、役人たちの意識も昔のままなんだと苦々しく感じた。

カフェを出て、出発カウンターに行くと、ウズベキスタン航空のチェックインが始まっていて、私がアプリのエラー表示を見せると、紙の搭乗券を発行してくれた。
私は航空会社のサイトからではなくエクスペディアから予約したので、このようなエラー表示が出たようで、オンラインのだチェックイン自体はちゃんとできていたらしい。

出国審査はスムーズに終了し、搭乗ロビーに行くと、そこにラウンジの案内が出ていた。
どうやらプライオリティパスのアプリの位置情報が間違っていたようで、普通の空港と同じように搭乗ロビーの上の階にあったのだ。
間違えて入ったラウンジの女性が行っていた上の階というのは嘘ではなかったのである。
もう一言、搭乗ロビーにあると教えてくれればよかったのにとも思うがまあ仕方がないだろう。

ラウンジでビールを飲みながらゆったり時間を過ごし、時間になったらミネラルウォーターを2本買って飛行機に乗り込む。
ここからは普通の流れで、無事にキルギスを出国し、隣国ウズベキスタンに向かったのだ。
余っていたキルギスソムはタシケントの空港で両替するつもりであった。
観光客が多く訪れるウズベキスタンの方がレートがいいのではと考えたからだ。

タシケントの空港はちょっと変わった作りになっていて、通常の到着ロビーがなくて、手荷物の受け取りを行ったら、いきなり外に出てしまうのだ。
そのため、両替所も手荷物のピックアップと同じスペースにあった。
入国審査もビザ無しでスムーズに進み、まっすぐに両替所に向かう。
ところが、私が差し出したキルギスソムは扱っていないというではないか。
仕方なく、ユーロを出してウズベキスタンの通貨スムに換えてもらう。
100ユーロが126万スムだった。
何の予備知識もなかった私はその桁の多さにも驚いたが、何より隣国の通貨を両替してくれない空港の不親切さに驚いてしまった。
仕方ない、街の両替屋で替えてもらおう。

SIMカードも荷物受け取りの隣で買えた。
一番安い12ギガのカードが6万スム、およそ720円だった。
空港の建物を出ると、すぐのところにエアポートタクシーが並び、制服を来た運転手たちがたむろしていた。
少し先にはゲートがあってその外で多くの人が待っている。
家族を迎えに来た人たちの中に白タクの運転手も混じっているんだろうと思ったが、この人混みの中では配車アプリでうまく車と出会うのは難しいだろうと考えた。

多少割高でもエアポートタクシーの方が簡単だと思い、声をかけて来た運転手にホテル名を告げた。
運転手は10万スムだと言った。
ウズベキスタンは観光立国だからエアポートタクシーくらいはメーター制なのかと思ったがやっぱり他の中央アジアの国と変わらないらしい。
とはいえ、10万スムとは日本円で1200ほど、まあいいかと思ってタクシーに乗り込んだ。

エアポートタクシーの運転手はみんな薄いブルーのTシャツに白い帽子というきれいな出立ち。
他の国の白タクとは明らかに身なりが違う。
車もきれいで、車内にはちゃんとエアポートタクシーのQRコードが表示されていた。
運転の仕方もそこまで荒くはないが、市内に入ればどうしても他の車と道を競い合うことになる。

タシケント空港から市の中心部までは比較的近く、タクシーは20分ほどで予約していたホテルに到着した。
両替したばかりの10万スム💴を運転手に渡す。
しかし、ホテルを出て空港に向かう際、配車アプリを利用してみたら、その料金は2万500スム、約250円ほどだったのである。
エアポートタクシーは通常価格の4〜5倍もふっかけていたことが後日分かった。

ホテルにチェックインを済ませ、フロントでキルギスソムを両替したいと伝えると、ティムール広場に面した老舗ホテル「ウズベキスタン」の中に両替所があると教えてくれた。
そのホテルまでは徒歩で10分ほどだった。

ロビーの一角に確かに両替所があった。
私が財布からキルギスソムを出して渡すと、おばさんの顔が変わった。
「キルギスソムは扱っていない」
明らかに敵意を感じる。
どうやら、ウズベキスタンでキルギスソムを両替することは難しいということをあの時のおばさんの態度から感じた。

明らかに何かの事情があるに違いない。
後日、タジキスタンに日帰りした時、案内してくれたガイドにその話をすると、キルギスはおかしな国だから嫌いだみたいな話を聞いた。
ウズベキスタンとタジキスタンは良い関係だが、キルギスは違うというのが、これらの国の人の感覚らしい。
その微妙な国際関係がどうやら私の些細な両替にも影響したようである。
こうして私の財布の中には使えない6000ソムが今も残っている。
あの時、ビシュケクの空港で何かの通貨に両替しておけば、そんな後悔をしてももう遅いかもしれない。