ドバイの成功に触発されてか、今、アラブの湾岸諸国が競うように未来都市建設の巨大プロジェクトをぶち上げている。
まさにSFの世界でもし実現したらぜひ見てみたいと思えるようなすごいビジョンが描かれているが、人間の行動経済学的観点から見て実際に人間がそんな街に住みたいだろうかと考えた時に疑問を抱かざるを得ない空想も目につく。
今回私が訪れた3カ国の中で、最も成功の可能性が高いように思えたのがバーレーンだ。
首都マナーマの沿岸部で大規模に行われている再開発の現場を歩いてきた。

バーレーンの首都マナーマの空港から西へ伸びる幹線道路「キング・ファイサル・ハイウェイ」。
この道路は人が渡る場所がほとんどない完全な自動車優先の道路である。
そしてこの道路の南北で街の様相は全く異なる。
道路の南は古くからの繁華街、そして北側では大規模再開発が進行中で、ちょっと変わった形をした緑色のツインビル「ハーバー・タワーズ」がそのシンボルとしていち早く完成した。
私の宿泊したホテルはこの道路の南側にあったので、数少ない歩道橋を渡って北側エリアを散歩してみることにした。

道路のすぐ北側には、真新しいマンション群が建ち並んでいた。
まだ入居前なのか、人の気配はまばらだ。
この一帯は「バーレーン・フィナンシャル・ハーバー」と名付けられたウォーターフロントの再開発エリアだが、2003年に開発に着手したものの、リーマンショックなどの影響で10年間工事が中断され、2016年から建設工事が再開された。

北に向かって少し歩くと、海に出た。
港の向こう側に光り輝く緑色の3本のタワーは「ビジャマール」と呼ばれ、完成すれば住宅やホテルが入るという。
このほか、「ハーバー・ロウ」という低層住宅群などが入江を取り囲み、素敵なリゾートタウンが完成しようとしていた。

開発プロジェクトのホームページをチェックすると、中東の拠点としてバーレーンを選ぶ理由がいくつか書かれていた。
- 外国人居住者の人気ランキングでカタールやUAEを上回り世界12位
- 湾岸諸国の中で最も税金が安い
- 100%の外国人所有と所得の本国送還を許可
- 中東主要都市まで全て1時間の好立地と空港から車で10分の利便性
- 高度に発達した労働力を持つ
バーレーンには、法人税や所得税だけでなく、源泉税、譲渡所得税、富裕税、相続税、死亡税がないらしく、200平米の事務所を構え20人の従業員を雇った場合の経費を比較すると、ドバイやカタールと比べ6割ほどで済むとアピールしていた。

プロジェクトエリアのあちこちでまだ工事は続いていたが、すでに販売の看板もかかっていた。
「贅沢なライフスタイル」、狙うは海外の富裕層である。
湾岸諸国の中でいち早く石油が枯渇したバーレーンは、早い段階から脱石油の国づくりに舵を切っていて、すでにGDPの80%は石油以外の収入だという。
その中には橋でつながるサウジアラビアを中心に周辺の産油国からのインバウンド収入も大きなウェートを占める。

バーレーンでは条件付きながら飲酒が認められていることも、サウジの富裕層を呼び込む重要な魅力となっている。
橋を1本渡った対岸は、世界最大の企業「サウジアラムコ」が本社を置くダーランを含むサウジ第3の大都市圏がある。
その意味では、バーレーンに豪華な別荘を構え休暇を利用して羽目を外しにくるサウジアラビア人は結構いるのではないかと想像した。
中東各国が巨費を投じて再開発を競う中にあって、旧市街地の延長線上に快適な国際基準の都市を作るというバーレーンの戦略は成功の可能性が高いのではないかと、この街を歩きながら私は考えていた。

「バーレーン・フィナンシャル・ハーバー」の先にも開発地が続いていた。
広大な埋立地が広がり、幾つもの超高層ビルが今まさに建設されている。
一体どこまで続いているんだろう?
そう思ってもう少しウォーターフロントを散歩してみることにした。

斬新な形をしたビルが多いので、私はてっきり中国の建設会社がやっているものと思ったが、工事現場の看板を見てみると漢字名は見当たらず、地元アラブの企業が中心のようだ。
ビッグプロジェクトが目白押しの中東では、大きな工事を手掛けられる地元企業が育ちつつあるらしい。

バーレーン・ハーバーの北東側のエリアは、「バーレーン・ベイ」と呼ばれる開発エリアとなっていて、すでに営業している「フォーシーズン・ホテル」を中核に、たくさんのビルが建ち並ぶ計画だ。
1.35平方キロの海を埋め立てて進められるこのビッグプロジェクトには、バーレーンを本拠とする国際投資グループ「Arcapita」やイスラム金融グループ「Al Baraka Banking Group」など多くの地元資本のほかに、クウェートの「Salhia Real Estate」、カタールの「Barwa Real Estate Group」、ドバイの「Damac」、インドの「Ajmera Mayfair Realty Group」など各国を代表する不動産開発企業が参画している。

すでに一部住宅棟は完成しているようで、住宅の販売も始まっている。
なかなか快適そうな気持ちのいい街ができあがりそうに見える。

建設現場のフェンスには気持ちよさそうな屋内プールの絵。
バーレーンは晴天率が極めて高く、いつでも青い空と青い海が楽しめる。
中東での高級マンション暮らし、世界の富裕層にとってドバイのように一つの選択肢になっていくのかもしれない。

「バーレーン・ベイ」を散歩していると、海沿いの専用道路「ノース・マナーマ・コーズウェイ」を猛スピードで車が疾走していく。
信号も横断歩道もほとんどなく、まるでサーキットのようだ。
ちょうどこの道路脇には「F1バーレーン・グランプリ」のノボリが立てられていた。
このF1レースは毎年3月か4月に開かれているが、地元では「皇太子の趣味だ」との批判もあるのだという。
向こうに見えるH型をした建物が「バーレーン・ベイ」開発のシンボルである最高級ホテル「フォーシーズンズ」だ。

だいぶ歩き疲れたので、そろそろホテルに戻ることにする。
写真の右側が旧市街、そして左側が「バーレーン・ベイ」の開発エリアだ。
旧市街側に一際目立つ三角形のビルが見える。
このビルはマナーマに到着した当初からすごく気になっていたので、ちょっと寄り道して近くまで見に行ってみることにした。

「バーレーン・ワールド・トレード・センター」。
2008年に完成した50階建てのツインタワーだそうだ。
「キング・ファイサル・ハイウェイ」の南側に建つこのビルが案外古いことには驚くが、2つのビルをつなぐスカイブリッジに3機のプロペラがついているのにはもっと驚かされる。
このビルは風力発電ができる世界初のビルで、ビルで使う電力のおよそ11〜15%を賄うことができるのだそうだ。

低い建物が多い旧市街を歩いていると、この風車がものすごく大きく見えて、とても印象的な風景を作り出している。
ちょうど「バーレーン・ベイ」エリアの対岸に当たることから、この三角ビルが目の前に見える向きで建てられているビルも多いようだ。
まさにこの街のランドマーク。
新旧の市街地が一体となって、マナーマが中東を代表する人気の街になる。
そんな予感を私はこの風車から感じた。
マナーマの10年後が楽しみである。