<きちたび>アラビア半島の旅2023🕌サウジアラビア🇸🇦 ローカルな飲食店が異様に少ない変な街リヤドで美味しいクスクスとアラビアコーヒーを見つけた

サウジアラビアの首都リヤドは、変な街だ。

中東随一の金持ちの国というイメージとは違って、その首都は他の産油国より明らかにインフラが遅れている。

リヤドの定番観光地である「キングダム・タワー」の展望台に上がってみると、その都市計画の奇妙さが気になって仕方がない。

まるで栓抜きのような形をしたリヤド一高い痴女300メートルのこの超高層ビルは、完成してからもう20年になる。

その後、ドバイを筆頭に中東の各都市で超高層ビルの建設ラッシュが起き、ハイウェイなどの整備が進められて来た中で、その街はいまだにキングダムセンターが不動のランドマークであり続けている。

地上99階に設けられた展望台にのぼると、確かにその眺望には驚かされるものの、それ以上に驚いたのは、このランドマークの周辺にたくさんの空き地が放置されていることだった。

キングダムセンターを挟むように南北に走る2本の幹線道路はまさにこの街の大動脈で、一日中半端ない大渋滞が続くのだが、その2本の幹線道路に挟まれた超一等地が利用されないまま放置されているなどということは普通の街では起こり得ないだろう。

おまけに、2本の幹線道路から1本道を入れば、

もうそこは低層の一般家屋が立ち並ぶ住宅街になっていて、普通の繁華街ならあるはずの飲食店街などがまったくないのである。

キングダムセンターの中には大きなショッピングモールもあるのだが、海外のブランドショップばかりで、食べるところといったら、地下のフードコートぐらいしかない。

そこもチェーン店が大半で正直私などにはがっかりなのだ。

サウジアラビアにはローカルな外食文化がないのだろうか、そんなことを思いながら広大なこの街を見下ろした。

日が暮れると、渋滞した2本の幹線道路が鮮やかなラインに変わる。

それとは対照的に、空き地になっている超一等地はブラックホールのように残され、私の目には異様な光景に映った。

普通に街をぶらぶらしても飲食店が見つかりそうに思えなかったので、この旅で初めてトリップアドバイザーをば使ってお店探しをすることにした。

するとさすがに周辺でいくつかの飲食店がヒットし、その中からキングダムセンターから一番近いうちの一軒、モロッコ料理の店を選んで行ってみることにする。

そのお店があるのはどうやらあのブラックホールのように見える空き地ばかりの一角のようなのだ。

一番近いとは言っても、歩くと15分ほどかかる。

途中の空き地には囲いがしてあって、「ビジョン2030」のロゴがデザインされていた。

ビジョン2030というのは、今サウジで急速な社会変革を行なっているムハンマド皇太子が掲げるスローガンである。

女性が運転免許を取れるようになったり、外国人が観光目的で入国できるようになったのも、皇太子が推進するこの大改革のおかげなのだ。

この計画の中には、サウジアラビア北西部に数百キロに及ぶ未来都市を建設するといった途轍もないプランも含まれていて、石油大国サウジアラビアならできるかもしれないと私はその巨大プロジェクトにものすごい興味を持ってサウジにやってきたのだ。

ところが、サウジの現実は全然違っていた。

首都の超一等地ですらまともに都市計画ができていなかったのだ。

Googleマップを頼りにレストランを目指すと、そこはまさに放置されたままの広大な空き地の目の前、とても通りがかりの人が立ち寄るようなロケーションではなかった。

おまけにモロッコ料理店があるのは大通りから一番離れたビルの奥で、しかも路面店でもなくエレベーターで3階まで上がらなければならない。

たまたまネットで見つけない限り、一見さんが入ってくることは絶対にないだろう。

その店の名は「シャトー・マラケシュ・リヤド」と言った。

入り口には、モロッコとサウジアラビアの旗が掲げられている。

周りには一軒の飲食店もない。

どうしてこんなところで店をやってるんだろうと思ってしまうようなロケーションだった。

案の定、広い店内に客は1組だけだった。

私は一人で円卓を占領する。

モロッコ料理なら私の好きなクスクスもある。

迷わず数種類のクスクスの中から定番のチキンのクスクスを注文した。

お客がいないので料理が出てくるのも早い。

「チキン・クスクス」63.25リアル、日本円で2263円。

ものすごいボリュームだ。

アラブの人は食べきれないほど頼むというから、日本のような量では商売にならないのかもしれない。

まったく期待せずに食べ始めた。

メインのクスクスと野菜や鶏肉を皿に取り、スープをかけてから最後に辛い薬味を混ぜて食べる。

すると、どうだろう。

これがめちゃくちゃ美味いのだ。

こんなに美味いクスクスを食べたのはいつ以来だろう?

日本ではこれほど私好みの味はなかったし、フランスでもなかなかこのレベルにはお目にかかれない。

何度もお代わりをして、結局全部食べてしまった。

鶏と野菜もとにかく柔らかくて、旨味がこれでもかというぐらい染み込んでいる。

昨夜食べたスタバのディナーが最悪だったので、余計に点数が甘くなったのかも知らないが、とにかく大満足のご馳走であった。

そして今日は、サウジアラビアの王室に関連した2つの施設を見に行ったのだが、ここでもリヤドの街に違和感を覚えた。

さすがに王室関連の施設だけに、最初に訪ねた「ムラバパレス」は非常に美しく修復されていて、息を呑むほどに美しいかった。

まさにアラブの王様の宮殿はかくあるべしといった感じだったのだが、次の施設まで歩いて移動したものだから、この街の実態が少し見えてしまった。

この地方は昔から土で建物を作る文化だったらしく、現在のサウド家の始祖アブドラアジースがリヤドを奪還した際に陥落させた「マスマク城」も美しすぎるほどに修復されていた。

ところが観光客の目に触れる大通り一歩入ると、そこには土でできたまったく異なる世界が広がっていたのだ。

王室関連の2つの施設は、まさにリヤド観光の目玉であり多くの外国人にも見せた場所だが、その間に広がる古い街には外国人労働者たちが住み着いていて、昔の写真そのままのような土の住宅密集地はまったく修理されることなく放置されていた。

このギャップ、何もサウジアラビアに限ったことではないが、世界有数のお金持ち国家のはずが、庶民にはまったくその恩恵が及んでいない現実を見せつけているように感じた。

どうならこの街の取り壊しが始まっているようなので、ビジョン2030の進展に合わせてこの界隈も王室ゆかりの地として恥ずかしくない姿に生まれ変わるのかもしれない。

さて、2つの王室関連施設を移動する途中、私の目に止まったのは一軒の喫茶店だった。

リヤドの街にはやたらにコーヒーショップが多く、スタバをはじめとする外国資本のチェーン店が幅を利かせているのだが、この店は珍しくローカルなお店のように見えた。

本場のアラビアコーヒーでも味わってみようと思い、寄り道してランチをここで食べることにした。

店の中に小さな噴水まであるローカル色豊かなお店だったが、広い店内には誰一人客はいなかった。

ちょうど昼時だったのだが、一体どうしたことだろう。

さまざまなコーヒーや紅茶が用意されている中で「サウジコーヒー」だけはカップでの提供はなく、ポットのみとのこと。

値段も35リアル(1200円)といささかお高めだ。

何かアラブの食べ物も食べたいと思い、10リアルの「Muhammara」というのも一緒に頼んでみた。

ところが、私が注文したものが来る前に店の奥ではお昼のお祈りが始まってしまった。

こういうあたり、いかにもローカル。

チェーン店では絶対に経験できない光景でもある。

お祈りの時間が終わり、私が注文した品がテーブルに並べられた。

なかなかのローカル色である。

まずこちらのクレープ包みのようなものが「ムハンマラ」。

調べてみるとイスラム国で有名になったシリアのアレッポが起源の辛いディップのことで、これを「ホブス」というクレープのようなものに巻いたものも同じくマハンマラと呼ぶらしい。

フォークも何も出ないので「手で食べるのか?」と身振りで聞くとそうだと頷いた。

食べてみると確かにピリッとはするがそこまで辛くはない。

軽めのランチにはちょうどいいかもしれない。

そしてこちらが「アラビアンコーヒー」。

いかにもアラブといった注ぎ口の反ったポットに入って出てきた。

これを小さなカップに注ぎ、少しずつ飲むのが流儀だそうだ。

色は明らかに見慣れたコーヒーとは違い、茶色い。

風味もまったく独特で

アラブの人は甘党が多いそうなのだが、アラビアンコーヒーにはだけは絶対に砂糖を入れないという。

その代わり、アラビアンコーヒーには必ず甘いものがセットでついてくる。

この店の甘いものは一度食べてみたかった「デーツ」だった。

私は心の中でよしとガッツポーズを作る。

果たしてどんな味がするのだろう。

デーツとはアラブ諸国で栽培が盛んなナツメヤシの実を乾燥させたもの。

ちょっと調べてみると、この実は木についたまま自然に乾燥する天然のドライフルーツだそうで、それ自体すごく甘い。

このデーツはクリームなどをつけても美味しいらしく、味変しながらアラビアンコーヒーのお茶請けにするというのがアラブ流ということのようだ。

私はデータを食べたのは初めてだったが、干し柿のようなねっとりとした濃厚な甘さがある。

クリームなどをつけると多少甘さがマイルドになるので、甘いのが苦手な方にはいいかもしれない。

今度のお土産、デーツにしようかななどと食べながら考えていた。

大都会にしては驚くほど飲食店が少ない印象のリヤドだが、チェーン店に逃げ込むのでなく自分の勘を頼りにローカルグルメを探せば美味しいものはいろいろ見つかりそうだ。

どうしてサウジの人たちは美味くもない外国チェーンに群がるのだろう。

これも新しい変化の表れなのだろうか?

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