打ち合わせのため訪れた神田小川町。ビルの隙間に緑をたたえた一軒のすし屋が目についた。
「創業元禄十五年」の赤文字が目を引く「笹巻けぬきすし総本店」。
元禄15年は赤穂浪士の討ち入りがあった年。西暦でいうと1702年だそうで、このお店は創業316年ということになる。すし屋としては東京で最古と言われる。
暖簾には「江戸名物」の文字。今時、「江戸名物」という言葉を聞くこともなかなかない。
引き戸を開けると、目の前にはお持ち帰り用の寿司を売るカウンター。持ち帰りが基本のようだ。
小さいものは5ケ入りから、大きいのは100ケ折詰まで。100ケ入りは23004円だという。結構いい値段だ。
そして店の隅にはテーブルが3つ。店内でも食べられるようだ。
午後2時をすぎてお店にお客さんはいない。
壁には、12代目の店主がしたためた「由来書」が掲げられていた。
戦国時代、笹の葉に飯を包み兵糧としていた故事に習い元禄15年に考案された笹巻き寿司。魚の小骨をととげ抜きで抜いているのを見たある旗本が面白がり「けぬきすし」と呼ばれるようになったという。
店内で食べられるのは「5ケ」と「7ケ」。
私は恐る恐る「5ケ」(1296円)を注文した。ちょっと高い。
笹の葉で包まれたお寿司が5つ。
潮汁が付いている。さすが老舗らしい。
お寿司の中身だが、まずは「光物」。
コハダのようだ。塩味も酢の味もしっかりしている。シャリは大きめで、酢飯も味がしっかり付いている。美味い。
次には一見何だかわからなかったが、「おぼろ(海老入り)」だそうだ。食べてみると、甘い。これは子供の頃食べたデンブだ。
3つ目は「白身」。何の魚だろう。やはり塩味がしっかり、酢もきいている。
4つ目は「玉子」。こんがり焼き目がつき普段食べる玉子とはちょっと違うが、すし飯との相性は悪くない。
そして最後5つ目は「のり」。これは、かんぴょう巻きだ。
どれも、お醤油は一切つけない。おにぎりとお寿司の中間といった風情で、お弁当として手軽に食べるようなお寿司なのだろう。
どれも予想以上に美味しく、今度はお土産や差し入れに使えるかもしれないと思った。
さすが300年以上生き残ってきただけのことはある。老舗にはやはり老舗ならではの味わいがあり、年とともに私も老舗好きなオヤジになってきた。
ぜひ一度のぞいてもらいたい渋いお店である。
食べログ評価3.58、私の評価は4.00。