ラグビーと競歩

人気というものは本当に水ものである。

日本列島が突如、ラグビー人気に沸き立っている。

Embed from Getty Images

ラグビー日本代表が、優勝候補のアイルランドを打ち破るという誰も予想していなかった大金星を挙げた。

この試合が、日本中に大フィーバーをもたらしたのは無理もない。

それほど最高の試合だったのだ。

最初リードを許しダメかなと思わせておいて徐々に追い上げて、後半の見事な逆転トライ。

体が大きな相手に対して、フォワードが真っ向から押し勝った。

ロシア戦で目立ったミスもこの試合ではほとんどなく、いやが上にも興奮は最高潮に高まった。

Embed from Getty Images

私は、この歴史的な一戦を何とラジオで聞いていた。

ラグビーをラジオで聴くというのも生まれて初めての経験だ。

もともとラグビーに詳しいわけではないので、早口でまくしたてる実況を聴きながらフィールドの情景を思い浮かべるのは至難だったが、それでも経過はわかる。

後で結果だけを知るのに比べれば、ずっと臨場感があった。

妻の実家から私の実家まで車を走らせながら聴いていたのだが、母のマンション近くの駐車場にたどり着いたのは、試合の最後、残り15分という超盛り上がったタイミングだった。

そのため、車を離れることができず、車内に止まって最後までラジオで日本の勝利を聴き届けた。

その日の夜、ようやくテレビで映像を見ることができた。

当日夜にBS日テレで録画放送を見て、翌日にもNHKのBSで同じ試合を見た。2度見ても飽きない素晴らしい選手たちの頑張りだった。

Embed from Getty Images

珍しいことにスポーツ好きではない妻までこのアイルランド戦には興味を抱いたらしい。

妻はある意味、世論そのもののような人で、妻が関心を持ったということは世の中の大勢がラグビーに注目したということを意味する。

個人的には、韓国人のプロップ具智元(グ・ジウォン)に注文している。

彼のことは、今回のワールドカップで初めて知った。

父親は元韓国代表のラガーマン。息子が小学6年の時にニュージーランドに留学させ、その後は日本で教育を受けさせた。すべては具智元を一流のラガーマンに育てるためだ。

日韓政府のくだらない喧嘩の最中、こうやって日本で長年教育を受けた韓国人青年が日本のスクラムに加わっていることに、ある種の感動を覚える。

日本のメディアももう少し彼に注目してもいいと思うのだが・・・。

Embed from Getty Images

快進撃を続ける日本代表、ここで気を緩めることはできない。残り2試合がとにかく大事だ。

サモアやスコットランドに負ければ、たちまち前大会の二の舞になってしまうかもしれない。

そのことは選手たちが一番よくわかっているだろう。

Embed from Getty Images

テレビも当然、連日のラグビー推しだ。

日本人の多くにとってラグビーはあまり馴染みがないだけに、伝えることはいくらでもある。この機会に日本にノーサイドの精神が浸透することはいいことだ。

ただ一つ、私はテレビに苦言を呈したい。

それはラグビーの話ではなく、競歩の話だ。

Embed from Getty Images

ラグビーW杯と時を同じくして、カタールで開かれている世界陸上。

期待された男子100メートルは、9秒台3人はいずれも準決勝で敗退し、注目を集めきれなかった。

Embed from Getty Images

その日のど深夜。

夜の12時から男女の50キロ競歩が行われた。

気温は30度を超え湿度は80パーセント、蒸し風呂の中での過酷なレースだ。

私はその日、母のマンションで目を覚まし何気なくテレビをつけたらちょうど競歩をやっていた。

なんと日本人選手がトップを独走している。

片道2キロの単調な道路をぐるぐる往復するだけのレース。周囲に建物もなく、真っ暗。沿道に観客もほとんどいない。

ある意味、ラグビーの熱狂とは対極にあるような厳しい環境でその選手は1人戦っていた。

なんだか妙に興奮してきて、私はテレビの前に陣取ってレースを見続けた。

Embed from Getty Images

その選手の名前は、鈴木雄介。31歳。

「世界一美しい歩き」を持つ選手だという。しかも、20キロ競歩の世界記録と50キロの日本記録を持っていると言うではないか。こんな大選手がなぜこれほどまでに注目されていないのか?

Embed from Getty Images

あまりに過酷な環境に、有力選手たちが次々にリタイアしていく。

しかし、鈴木は独自の暑さ対策を淡々と繰り返し、自分のペース、自分の歩きを守り続ける。

彼は一体何を考えながら歩いているのだろう?

Embed from Getty Images

それにしても、気が遠くなるほど、長いレースだ。

気がつくと、私は3時間以上テレビに釘付けになっていたことになる。

Embed from Getty Images

鈴木は、最後まで一度もトップを譲ることなくゴールテープを切った。

私は思わず、テレビ画面にスマホを向け、ゴールシーンを撮影した。

優勝タイムは、4時間4分20秒。

自身が持つ日本記録よりも25分も遅い。それだけドーハでのレースは過酷だったということだ。

Embed from Getty Images

マラソンよりもずっと地味な競歩。

でも、マラソンよりもずっと有力な日本人選手たちがいるのも競歩だ。

東京五輪に向け、鈴木選手の優勝は素晴らしい朗報である。

この優勝により彼の苦労がようやく報われ、一躍時の人になるだろうと私は自分のことのようにうれしかった。

しかし・・・

Embed from Getty Images

世界陸上を独占放送しているTBS以外のテレビ局の扱いは異常に冷たかった。

NHKの7時のニュースでは、鈴木選手の金メダルのニュースを一切扱わない。

これは一体どういうことか?

ありえないだろう。

50キロを歩き抜き日本競歩界初の金メダルを獲得した彼の努力はなぜ報われないのか?

何だか無性に腹が立ってきた。

ラグビーではしゃぐのはいい。私もはしゃぎたい。

しかし鈴木選手の優勝をボツにする編集長たちのセンスには心底がっかりさせられた。

日本のメディアはどうかしてしまっている。あまりに視野が狭い。

視野の狭いメディアは、いつか社会をダメにする。

散々持ち上げた人物を一転してバッシングする、そんなメディアは絶対に信頼されないだろう。

Embed from Getty Images

来年の東京五輪で、鈴木選手にはぜひ頑張ってもらいたい。

メディアに手のひらを返しさせ、競歩に日本中の賞賛が集まるのを期待している。

広告

コメントを残す