台風の被害にあった川崎市の武蔵小杉。
初めて降り立った街で、せっかくなので昼ごはんを食べることにした。

ネットで目をつけたのは、昭和23年創業「中華食堂かどや」。
「トルコライス」という名物料理があるというので、開店前に行ったのだが・・・

入口に小さく「臨時休業のお知らせ」。
建物地下が浸水したため水道水が使用不能になったという。

確かに地下に通じる階段からは何本ものホースが伸びていて、排水作業の真っ最中のようだ。
武蔵小杉駅の西側はあまり被害がないように見えるのに、よりによって御目当ての店が直撃を受けていたとは残念だ。

仕方なくまたネットで調べ、次に目をつけたのが、「コスギカレー」というお店。
駅の北東にあるというので行ってみると、この店も閉まっている。
どうも武蔵小杉とは相性が良くないようだ。

「さて、どうしよう」と歩いていると、ちょっと派手めの神社が目に入った。
「京浜伏見稲荷神社」だそうだ。

鳥居の脇には、白狐。
それを見ていると、なぜか武蔵小杉に戻る気がしなくなった。

そのまま北に歩くとお隣、「新丸子」の駅に着く。
この街も初めて来たが、いかにも私鉄沿線という駅前商店街が楽しげだ。

ネットで見つけた店に行ってみる。
「三ちゃん食堂」。
小さな木造の居酒屋を想像したが、入口に植栽も施されたこざっぱりした建物だった。
開店の15分前に着いたが数人が店の前に列を作っていた。

12時になると、店の入り口に暖簾がかけられた。
開店と同時に客が店内になだれ込む。

店内は予想以上に広い。
3列の長机が並び、客は思い思いに好きな席に座る。
テーブルにメニューはなく、壁に貼ってあるメニューから注文するのだが・・・

このメニューの種類がすごい。
軽く100以上はある。
本日のランチというのもあって、この日は「味噌かつ丼」と「あじフライ」だった。値段も安く、量も多い。時間がない人はランチを注文している人が目立つ。

しかし、アルコールのメニューも豊富で、昼から一杯という客も多い。
私も壁際の席を確保してメニューを眺めるのだが、あまりに種類が多すぎてなかなか決められない。
それ以前に手書きのメニューが読み取れないので、席を立ってメニューの近くに行って注文することにする。
麺類から丼物、刺身に天ぷら、カレー、炒め物、中華、サラダ、つまみまで、普通に思いつくものはなんでもある。
メニューを見ながらふと、もつ煮込みが食べたいと思ったが見当たらない。女性の店員さんに「煮込みある?」と聞くと、「モツ煮込みありますよ」と言う。「どこに?」と聞くと、店員さんもしばらくメニューを見つめてから「ここです」と言って一枚の紙を指差した。
確かに、「モツ煮込み 350円」と手書きで書いてあった。

とりあえず、「生ビール」(450円)と「モツ煮込み」(350円)を注文して、席に戻った。
一杯飲みながら、様子を観察しようと思ったのだ。

私は、このところ美味しい「モツ煮込み」の店を探している。
積極的にという訳ではないが、この手の店に来るととりあえず頼んでみる。なかなか私にドンピシャな煮込みには遭遇しない。
この店の「モツ煮込み」も普通に美味しかったけど、期待したほどではなかった。でもいい。平日の昼間にこうしてビールを飲んでいること自体が幸せである。

ビールもよく冷えていて、付け合わせの白菜漬けが美味い。
そうしてちびちび飲んでいるうちに店内は満席になった。
サラリーマン風やガテン系の男性が多いが、女性客の姿も少なくない。
この店の雰囲気、とても好きだ。

もう一品注文しようとメニューを眺める。
「レバーショーガ」(550円)にしようと心に決めた。あまりお腹が空いていなかったからだ。
しかし次の瞬間、私の目の前に座った常連らしき男性が「やきにく」と言って注文した料理が運ばれてきた。これがとても美味そうだったので、私も真似することに心変わりした。
壁のメニューを眺める。「やき肉ライス」というのがある。
「これだな」と思って店員さんを呼び止め、「やき肉ライス」を注文した。

運ばれてきたのはこちら、「ヤキ肉ライス」(750円)。
「あれ? 前の人が食べていたのと違う」
そう、運ばれてきたのは、見た目普通の焼き肉とライスだった。
しかし、目の前の人が食べていたのは、ご飯の上にやき肉が山盛りで生卵が乗っかった丼のようなもの。
「しまった。間違えた」と思って改めて壁のメニューを眺めると、丼物の列の中に「ヤキ肉丼」(650円)というのがあるではないか・・・。
前の人が食べていたのは、「ヤキ肉ライス」ではなく「ヤキ肉丼」だったのだ。

かなりのショックを受けたが、すでに運ばれてきている以上、これを食べるしかない。
見た目が普通な「ヤキ肉ライス」。
でも食べてみると、これが実に美味い。
豚肉は柔らかく、甘辛い味付けも絶妙だ。B級グルメの王道のような絶対的な美味しさがある。
下に敷いてある千切りキャベツが甘辛のタレを吸って、肉の味を一層引き立てる。
他の客の注文を聞いていても「ヤキ肉ライス」は「ヤキ肉丼」と十分張り合っていた。

ご飯の量が多かったので、少し残したが、美味しく完食。
食べ終わる頃には、「ヤキ肉丼」のショックは消えていた。

壁にかかったテレビのまわりには、たくさんのサインが貼ってある。
新丸子の名物店なのだろう。
私も一発でこの店にはまった。
次来た時は何を食べるか、それを考えるだけでも楽しくなる。
この店に来るだけの目的で新丸子に来るかもしれないと思いながら、店を出た。
昼からビールを飲み、お腹はパンパン。支払いは1550円だった。
食べログ評価3.58、私の評価は3.90。
「三ちゃん食堂」 電話:044-722-2863 営業時間:12:00~21:00(LO20:15) 定休日:水曜日