中央アジアの旅。
まずは最初の訪問国カザフスタンに到着した。

夕方、韓国の仁川空港を飛び立ったアシアナ航空のアルマトイ便はほぼ満席。
私の隣はロシア系の若者だった。
実に多彩な乗客が乗っている。
ロシア系もいれば私たちと似た顔をしたカザフ人、さらに韓国人や中国人、日本人も混ざって区別がつきにくい。

どんなコースを飛ぶのかモニターで確認すると、モンゴル領を避けるように中国の国境地帯を飛ぶルートだった。
仁川からアルマトイまではおよそ6時間のフライト。
前回ドイツまで飛んだのに比べれば半分以下である。

機内食を食べて機内モニターで映画を2本見たら、もう到着まで1時間になっていた。
このくらいのフライトなら楽でいい。
ちなみに見た映画は、「アバター」の最新作と「交渉」という和名がつけられた韓国映画だ。
「交渉」は2007年にアフガニスタンで韓国人23人がタリバンによって拉致された実話を元に作られた交渉官たちの英雄物語だった。
韓国語の音声に英語の字幕なので、ディテールがわからないところも多々あったが、大体のストーリーは理解できて面白かった。
舞台となったアフガニスタンは中央アジア諸国にとっては隣国、同じイスラム教徒中心の国々なので、イスラム過激派の動きは他人事ではないだろう。

カザフスタン領内に入ると、ほとんど灯りが見えず、真っ暗な闇が窓から見えた。
日本の7倍、世界9位の面積を持つカザフスタンは、同時に世界で8番目に人口密度が低い国でもある。
しかし、最大都市アルマトイに近づくと暗闇に突然光の海が現れた。
中央アジアでは有数の180万人が暮らす大都会である。

日本や韓国とは3時間の時差があり、到着したのはすでに午後9時を回っていた。
初めて訪れる国ではなるべく昼間の時間に到着したいが、フライトの数が限られているので致し方ない。
夜中はトラブルに巻き込まれるリスクも高まるので、こういう場合は多少ぼられてもさっさとホテルに入るというのが私のやり方だ。

日本人の場合、短期の旅行ならビザは免除される。
入国審査では泊まるホテルぐらい聞かれるかと用意していたが特に何も聞かれず通過、荷物のチェックもなしで到着ロビーに出られた。
ロビーはすごい人混み。
アジアでは見慣れた光景だ。
家族を迎えに来た人もいるだろうが、悪名高き白タクの運転手たちもかなり混じっていると思われる。
事前にネットで情報収集していると、空港で白タクの運転手にしつこく誘われるがぼられるから絶対に乗らないようにとの書き込みを多数目にした。
なぜならアルマトイにはメーター付きのタクシーは存在せず、いまだに運転手との値段交渉が必要なんだという。

何はともあれ、まずはカザフスタンの通貨を入手しなければ何もできない。
成田でも仁川でもカザフスタン通貨を扱う両替屋は見当たらなかった。
到着ロビーに出るとすぐに両替窓口を見つけた。
カザフスタンの通貨は「テンゲ」という名で、現在のレートでは1円がおよそ3.11テンゲぐらいだそうだ。
ところが、ここで日本円を両替しようと思ったらなんと売値と買値が1.5倍、驚くべき手数料である。
しかし私は、最近の円高を考慮して手元に置いてあるユーロを旅行では使うことにしているので問題はない。
空港からホテルまでのタクシー代に加えて、2日後にはアルマトイから隣国キルギスへ陸路で移動する計画なので、いつもより多めに150ユーロを両替した。

続いて、両替屋の目の前にあっ携帯屋でカザフスタンのSIMカードを手に入れる。
3日使えればいいと伝えると、一番安いSIMカードは5000テンゲだと言う。
日本円で1600円ぐらい。
迷うことなく買うことにした。
お店のお兄さんが設定も全部やってくれるから、空港から利用することができる。

ネットでは、ロシア版のUberと呼ばれる「Yandex Go」という配車サービスを一番安く確実だとオススメだったので日本を出発する前にアプリをダウンロードしていたので、これを使ってみようと思っていた矢先、ひとりのおばさんが話しかけてきた。
「タクシーは必要?」
おばさんの胸には「Official Driver」だったか、はっきりとは覚えていないが公式っぽいカードがぶら下がっていたので、私はイエスと答えてしまった。
普通、白タクの運転手は男性と相場は決まっているので、おばさんは空港の配車係か何かだと勘違いしてしまったのだ。

おばさんは空港の建物を出て、たむろしている白タクの運転手たちの間を素通りしていく。
あれっ?と思い、おばさんも白タクの運転手だということにようやく気づいた。
おばさんは自分の車に辿り着くと、100テンゲでいいと言った。
1000テンゲといえば300円ほど。
そんなに安いのと思ったら1キロあたり1000テンゲということらしい。
空港から市内までは2000円くらいという話を聞いていたのでおばさんの提示額を拒否、代わりに私の方からホテルまで6000テンゲを逆提案する。
するとおばさんはすかさず「1万5000テンゲ」と吹っかけてくる。
私が「NO」と言って立ち去ろうとしたら、おばさんは「1万2000」「9000」と値下げしてきた。
私は9000テンゲ(約2900円)で手を打った。
粘ればもう少し安くなるかもしれないが、1000円くらいぼられても早くホテルに行けるなら悪くないと思ったからだ。
それにこのおばさん、そこまで悪だそうではないので、ホテルに着いてからまたごねることはないだろうと踏んだ。

こうして案外早く交渉がまとまり、私は車の後部座席に座った。
すると何と、助手席にはおばさんの娘がすでに座っているではないか。
アジアでは時々こういうことがある。
家族だったり友人だったりがなぜかずっと乗っていて運転手の話し相手をするのだ。
まあ、娘ならいい。
昔インドでは警官が乗り込んで来て、先にその警官の目的地を回ってから私のホテルに行くなんて意味不明なこともあった。
あれに比べたら娘を乗せているくらいどうということはないだろう。
窓から吹き込む夜風が気持ちいい。
もっと夜は冷え込むと思ってダウンベストまで持ってきたのに、これなら半袖で十分だ。

こうして無事に私が予約していたから「ドスティク・ホテル」に到着した。
時刻は現地時間の午後11時に迫っている。
空港での両替には細かいお札が入っていなかったので、仕方なく1万テンゲ札を渡して「いいよ、取っておいて」と言って車を降りた。
おばさんが「お釣りがない」という前に機先を制し、ごねるのを防ぐ狙いだった。
おばさんは諦めて去って行った。
やはりあのおばさんは悪どくなかったのだ。

夜の到着で白タクに乗るのは正直面倒だったけど、結果オーライ。
夜間のタクシー代が3000円くらいなら十分許容範囲だと思う。
こうして無事にチェックインも完了した。
この素敵な5つ星ホテルについてはまた別の記事で書きたいと思う。