今年1年、初めて自分でブドウの世話をしたり、畑を耕して野菜を作ったりして少し自信のようなものができた気がする。
そこで近所の人にお任せしていた広い畑を返してもらうことにした。
この畑は広さが2反、およそ2000平方メートルぐらいあって、とても自分で管理するのは無理だと怖気付いて近所の人にお願いすることにしたものだ。
ところがこの方もサラリーマンの傍ら農業を始めたばかりで、コロナ禍から社会が正常化してくるに従い本業が忙しくなったらしい。
そのため、お貸ししたうちの畑の面倒まで見る余裕は全くなかったようで、去年同様、雑草が大きく育った耕作放棄地となってしまった。
私はこの畑の前を通るたびに、申し訳ないなと感じながら、自分に余裕がある時に草ぐらい刈ってあげたいと思った。
しかし、「今年はお貸ししたんだから勝手に手を出すべきではない」と妻に諭され、そのまま年末までそのままの状態が続いていた。
去年の年末に私が草刈りと野焼きをして一旦はきれいな状態で借りてもらったのだが、1年間世話をしないと私の背よりも高いセイタカアワダチソウなどの雑草が競うように繁茂している。
私は一大決心をして貸している農地を全て返してもらうことにした。
管理する農地が増えればそれだけやらなければならない仕事も多くなるため、妻はずっと抵抗していたが、今年1年の私の仕事ぶりを評価してくれてようやくお許しが出たのだ。
そこで今回の帰省に合わせて貸していた方にご連絡し、来年から農地を返していただくことで了解をいただいた。
問題はこの返してもらった広い農地をどうするかである。
とりあえず、ご近所迷惑になっている雑草を刈ってから考えることにする。
今週月曜の午前9時、草刈機を持って2000平米の畑に向かった。
一面を覆い尽くした雑草のどこから手をつけるか・・・しばし考える。
草刈機を持つ私の長い影が行手を塞ぐ雑草たちの上に伸びている。
まずは畑の一番左、イネ科の雑草の覆われたエリアから草刈りを始めた。
12月ともなるとほとんどの雑草は枯れているか、弱ってきているので、刈ること自体は容易になるのだが、イネ科の雑草の厄介なところは刈った草が草刈機に絡まり回転を止めてしまうことだ。
案の定、何度も何度も作業を止めて、ローターに巻き付いた細くしなやかな草を取り除かなければならなかった。
そのため、思った以上に時間がかかり、午前中の作業が終わったのは10時半だった。
イネ科の雑草に覆われたエリアはある程度刈ることができたのだが、作業の終了を決めるのは私ではなく、草刈機のバッテリーである。
私は素人でも扱いやすい充電式の草刈機を使っているため、バッテリーの電気がなくなると自ずと家に帰って充電し直さなければならないのだ。
1時間半から2時間ほどでバッテリーの容量がなくなるので、作業をやりすぎて疲れ果てることがなく、個人的にはこのリズムが気に入っている。
充電をする間に昼食を済ませ、家の庭木の剪定などもして、再び畑に戻ったのは午後1時45分。
いよいよ私の身長よりも高いセイタカアワダチソウとの格闘に臨む。
この季節のセイタカアワダチソウは、黄色い花の時期もほぼ終わり、花だった部分に大量の種子ができている。
綿毛が風に乗って遠くまで飛んでいくようにできているのだろうが、最悪なことに草刈りをしているとこの綿毛が頭上から大量に降り注いでくるのだ。
切り倒したセイタカアワダチソウが私の顔目がけて倒れかかってくることもある。
当然のことながら、虫除けネットのついた帽子を被り、スキー用のゴーゴルで目を保護し、完全防備姿でセイタカアワダチソウの林の中に分け入っていく。
それでも、私の周囲を大量のセイタカアワダチソウの種子が舞う光景は決して気持ちの良いものではない。
こうして何度も畑を往復しながら、正面の半分ぐらいまで草刈りが終わった段階で再びバッテリーの電気がなくなった。
午後3時10分、この日の作業はここで終了である。
予備のバッテリーさえあれば、もっと作業が続けられるが、あまり張り切りすぎると疲労困憊して翌日以降作業の継続が困難になってしまう。
このあたりがちょうどいい塩梅だろう。
私の腕も肩も悲鳴をあげている。
翌日、午前10時に同じ畑に出かけ、再び草刈りに取りかかる。
この日は曇り空で少し寒いが、草刈りをしていると体が熱くなってくるので、少し寒いぐらいがちょうどいい。
この日もセイタカアワダチソウが生い茂るエリアを刈っていくのだが、藪の中に厄介な奴が潜んでいた。
ツルバラである。
鋭い棘に覆われた細い枝で周囲の雑草に絡みつき、刈った草が倒れにくくしている。
そしてその長い枝が茂みの中を縦横無尽に走り、草刈りをしている私の足を攻撃してくるのだ。
「痛!」と思うと、どこからともなくツルバラの枝が伸びていて、その棘が私の太ももあたりに巻きついている。
しかも幹が太くて硬いセイタカアワダチソウなどと違って、ツルバラの枝は細くしなやかで草刈機の刃を柳のようにかわしてしまう。
それでいて結構硬いため、普通に草刈機を振り回しているだけではなかなか切れないのだ。
まだ草刈りに慣れていなかった頃、この可憐な花を咲かせるツルバラをあえて残したりしていた自分を思い出しおかしくなった。
こいつこそ、草刈りをする私にとって最悪の強敵だったのだ。
こうしてツルバラのために作業効率が目に見えて落ち、11時45分に午前中の作業が終わった。
午前中には見える範囲を全て刈るつもりでいたが、完全に予定が狂ってしまった。
昼食をとりながら充電を行い、午後再び1時間余り草刈りをして、ようやく見える範囲およそ1000平方メートルの草刈りが終了した。
この畑は変則的なブーメランのような形をしていて、突き当たりで直角に曲がってその先にまた1000平米ほどの畑が続いている。
丸2日、いろんな種類の雑草と格闘して時間を使ったが、これでまだ半分。
しかも他にも草刈りをしなければならない畑があるのだ。
草刈りに関しては2年ほどの経験を積んだので、最初の頃に比べれば容量は良くなったと思うが、それでも一人でコツコツと雑草を刈る仕事は楽ではない。
それでも、この畑にいろんな果樹を植え、野菜を育てるためには、何よりもまず最初に草を刈らなければならないのだ。
来年は、この畑を耕作放棄地にはしない。
そう覚悟を決めて、私の草刈りの日々はさらに続くのである。