今月の岡山滞在も今日が最終日。
およそ3週間の滞在だったが、やることがたくさんあって慌ただしい日々だった。
ブドウ栽培にとって、5月は一年で一番やらなければならない作業の多い月で、芽かき、摘心、誘引、摘穂、花穂整形など細々とした仕事がいろいろある。
さらに、下草の処理や農薬による防除もあって、小さなブドウ畑一つ手入れするだけでも結構な手間がかかるのだ。

そして5月下旬にやるべき重要なお仕事がもう一つある。
この時期、伯母がやっていたブドウ畑の主力品種である「ニューピオーネ」という黒ブドウの花が咲く。
花と言ってもブドウの花には花弁がなく、丸い小さな蕾から雄蕊と雌蕊がニュルっと生え出してくるだけである。
この花が咲くタイミングで、花穂を「ジベレリン」というホルモン水溶液に浸すことによって、種なしのブドウができるのだ。

5月も下旬に入った21日、ジベレリンを購入しようとホームセンターを訪ねた。
置いてあったのは住友化学の「ジベレリン粉末」(1042円)のみ。
錠剤タイプのものもあるようだが、ホームセンターでは手に入らないようだ。

家に帰って早速ジベレリンの水溶液を作ってみる。
箱の中にはジベレリンの粉末50ミリグラムが入ったパッケージが4袋入っていた。
ブドウの処理に使う場合には2リットルの水に1包を溶けばいいらしいが、大規模なブドウ農家ではない我が家の場合、どう考えても2リットルは多すぎるだろう。

そこで50ミリグラムの粉末を新聞紙の上に出し、目分量で半分に分けてみることにした。
ネットで調べると赤く着色されたジベレリンの液体の写真も出てくるのだが、私が購入したジベレリンの粉末は白かった。

半分の25ミリグラムを1リットルの水に溶く。
これを1リットルの容器に入れて必要な分だけ使うことにする。

ジベレリン水溶液は透明だった。
通常はブドウの種なし処理用にカップに入れて使うのだが、ホームセンターでは見当たらなかったので代わりに使い捨てのプラスチックカップで代用する。

ブドウのジベレリン処理は2回行うのだが、問題はそのタイミングだ。
1回目は特に面倒で、満開日から3日間に行う必要があるという。
しかし、ブドウの花穂は枝ごとに生育状況にかなりの違いがあって、一つずつ開花の状況を見極めて今日やるか、明日まで待つか、まだまだ先かを判断しなければならない。

去年はこの時期東京に戻っていたので、見かねた近所のおじさんが代わりにジベレリン処理をしてくれた。
だから私にとって今年が初体験なのだ。
どの状況が満開なのか正直区別がつかない。
先端の花が咲いているものは満開とみなしてジベレリンの水溶液に浸していく。

花穂全体を水溶液に浸けて、余分な水滴が残らないように指ではらう。
そして1回目のジベレリン処理を終えた目印として白いテープを巻くことにした。
こうやって、毎日少しずつ満開になった花穂を見つけてはジベレリンに浸す作業を繰り返す。
プロの農家の場合、枝ごとの生育の差を小さくするために早い段階から揃える作業をするのだそうだが、うちのブドウの木は枝の出方もバラバラで強い枝と弱い枝の差が激しい。
だから21日から作業を始めたのに東京に戻る前日になってもまだ開花していない花穂もある始末だ。

昨日はまだ満開になっていない花穂も含めてかなり乱暴に最後のジベレリン処理をこなしていった。
今日は朝から雨の予報で、雨の日にはジベレリン処理はできないからだ。
それでもいくつかの花穂は処理せずに放置せざるを得なかった。
全く花が咲いていなかったからだ。
おそらく今年のブドウは、完全にタネのない房とは別に、タネのある粒とない粒が混在している房、全ての粒にタネがある房ができるのだと思う。

2回目のジベレリン処理は1回目の処理からおよそ2週間後。
6月の10日ごろに一斉に行うつもりだ。
今年の反省は、5月の末に東京行きの飛行機を予約してしまったこと。
来年からは、ジベレリン処理の都合に合わせて5月下旬から6月初めにかけては必ず岡山にいた方がいいだろう。
一つ一つ失敗を重ねながら、人間は学習していく動物なのである。