<吉祥寺残日録>胡錦濤退場の衝撃!習近平独裁体制が固まった中国で何が起きるのか? #221026

今朝の東京は秋晴れ。

とはいえ最低気温は10度を下回り、太陽の角度も低くなって井の頭池の水面が輝く季節になった。

いつの間にか、廊下から見える富士山も白くなっていた。

もう冬の到来は近い。

調べてみると、富士山の初冠雪が観測されたのは9月30日のことで、ほぼ1ヶ月それに気づかずに過ごしていたということになる。

考えてみれば、今月は岡山のほかに茨城や函館にも出かけ、なんとなく慌ただしい1ヶ月であった。

現役時代に比べればどうということのないスケジュールなのだが、隠居生活も3年目に入ると完全に生活がスローになっているのを感じる。

しかし、富士山の雪のように、遠くで少しずつ進行している変化には気づかないまま、ある日突然ビックリさせられるということが珍しくない。

例えば、中国の権力構造の劇的な変化も、多くの専門家の予想を上回るものだった。

北海道旅行で飲んだくれている間に閉幕した中国共産党大会。

最終日に発表された人事は習近平独裁時代の到来を内外に宣言する衝撃的なものだった。

習近平さんが異例の3選を果たすことは予想されていたが、まさか最高指導部7人を全員自らの側近で固めるとは中国ウォッチャーでも予想した人は少なかったようだ。

最高指導部人事を伝える「人民日報」のトップページには大きく習近平総書記の写真があしらわれているが、専門家が注目したのはその下に配された新たな「チャイナ・セブン」の写真だ。

これまでは、7人の顔がわかるような写真が使われたが、今回は手前に一斉に写真を撮る記者団をあえて入れて、肝心の「チャイナ・セブン」の顔がぼやけている。

電子版で拡大してもリーダーたちの顔が確認できない、すなわち習近平さん以外の顔を覚える必要がないという意味にとれる。

まさに独裁政権。

「チャイナ・セブン」とは名ばかりで、習近平さんの決めたことを忠実に実行するための体制が確立したと理解した方がいいだろう。

中国ウォッチャーたちを特に驚かせたのは、胡錦濤、李克強ラインである「共産主義青年団(共青団)」のホープで首相候補とも目されていた胡春華副首相が、最高指導部に入らなかっただけでなく、上位24人の政治局員からも外されて降格となったことだった。

共青団は中国共産党の青年組織で、全国に8900万人とも言われる団員を擁する。

共産党幹部になるための登竜門としてこれまで多くの人材を党中央に送り込んできたが、高級幹部の子弟「太子党」の出身である習近平氏が最高権力者となってからは非主流派に甘んじてきた。

今回の人事は、李克強首相ら共青団出身者を最高指導部から排除し、完全にその息の根を止めるものと見られている。

密室で激しい権力闘争が繰り返されてきた中国共産党において、習近平に楯突く勢力が一掃されたことを意味しているのだ。

それを何よりも如実に象徴するシーンが共産党大会の最終日に起きた。

共青団のドンであった胡錦濤前総書記が議事の途中で強制的に退場させられたのだ。

胡錦濤氏が退場させられる前後の様子は外国メディアのカメラは入っている時に起こった。

一連の様子が一番はっきりと写っているシンガポールのテレビ「CNA」の映像を見ると、中国メディアが伝えるような単なる体調不良ではないことがわかる。

人事案などが書かれた赤いファイルを見ようとする胡錦濤さんを隣の栗戦書氏が静止する様子に気づいたカメラマンは2人をアップで撮影し続ける。

次の瞬間、胡錦濤氏の隣に座っていた習近平さんがスタッフを呼び、何やら指示を与えている。

その間も胡錦濤さんは不満そうな表情をしつつも言葉を発することはない。

指示を受けたスタッフは胡錦濤さんの腕とつかみ立ち上がらせようとする。

胡錦濤さんは明かに抵抗しているように見える。

それでもスタッフが2人がかりで79歳の胡錦濤さんを立たせ、壇上から連れ出そうと引っ張る。

胡錦濤さんも観念したように立ち上がるが、去り際に習近平さんに何かを囁いた。

表情は文句を言っているように見えるが、習近平さんは取り合わない。

そして、退任が決まった李克強首相の肩をポンと叩く。

自らを支えてくれた李克強さんに「お疲れ様」と言いたかったのかもしれない。

大事な党大会のハイライトに起きた突然のハプニングに通常ならば議場は騒然となるはずだが、中国ではそうはならない。

スタッフに腕を引かれ議場を去る胡錦濤さんを心配そうに見つめる人もおらず、今回の人事でNo.2に取り立てられ首相候補に出世した元上海市長の李強氏は嬉しそうに談笑していた。

なんという背筋の凍るような光景だろう。

胡錦濤さんが次の希望を託していた胡春華さんの後ろを通り過ぎる時、降格され実権を失った胡春華さんはじっと腕を組み厳しい表情で前を見据えていた。

振り向くことさえ許されない厳しい空気の中で、共青団の敗北を苦い思いで噛み締めているように見えた。

このシーンはハプニングなのか、それとも胡錦濤さんの反乱なのか、はたまた習近平さんが見せしめとして演出したものなのか、海外メディアではさまざまな憶測が流れたが真相は誰にもわからない。

しかし中国がもはやこれまでの中国ではなくなるだろうという恐怖に似た感情を世界中の人に抱かせる象徴的なシーンだったことは間違いないだろう。

今回の党大会では、党規約に「2つの擁護」が盛り込まれた。

「習近平総書記の党中央、全党の核心としての地位を断固として守り抜き、党中央の権威と集中的統一的な領導を断固として守り抜く」ということだそうで、全党員がこれを理解し従うことが求められる。

その権力は「建国の父」と呼ばれ今も神格化される毛沢東に近づいたといえる。

いずれ天安門に毛沢東と並んで習近平さんの肖像が掲げられる日も来るかもしれない。

全ての政敵を力で排除し権力の集中を達成した以上、もはや習近平さんに静かな老後はあり得ない。

死ぬまでその権力を手放さないだろうと考えるのが歴史を教えだ。

今後の中国は、ますます習近平さんが発言した通りに動いていくだろう。

真っ先に懸念されるのは台湾統一への動きが加速することだ。

中国人民軍の指揮系統も習近平さんに権力が集中した。

現場判断ではなく、習近平氏が決断すればすぐにでも軍が動く体制が整ったといえる。

今回の党大会でも習近平さんは武力行使を排除しないとあえて言及した。

米軍の指揮官が今年中にも台湾侵攻がありうると発言したように、中国軍が突然台湾周辺に兵力を集める動きを表面化させてもおかしくない。

国内の治安を維持する「武警」(中国人民武装警察部隊)や尖閣諸島への領海侵犯を繰り返す「中国海警局」も習近平さんの直属である。

西側のようなシビリアンコントロールなど無縁の独裁体制が確立した以上、私たちの持っているこれまでの中国の常識をリセットしなければならない。

これまででさえ強権的だと見えていたが、今後はこれまでの比ではなくなると考えておいた方がいい。

さすがの習近平さんでも台湾に侵攻する前には大規模な部隊を配備する時間が必要だろう。

必ず予兆はある。

しかしすでに着々と準備を進めている中国に対して、アメリカ軍といえども対抗するのは難しいだろう。

地理的な条件から日本と韓国が台湾防衛に巻き込まれることは避けられないはずだ。

日本政府と日本国民にはまだそんな覚悟はできてはいない。

かつての日本が早ければ早いほど有利だと判断し真珠湾攻撃に打って出たように、習近平さんも早い方が有利だと考える可能性は十分にある。

杞憂に終わればそれに越したことはない。

統一教会の問題も確かに重要だが、それが些細に見えてしまうほど習近平独裁体制が確立した中国の動きは私たちの運命を左右しかねない大問題となるだろう。

習近平の中国①

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