連日うだるような暑さが続く日本列島も、暦の上では今日から「立秋」、すなわち秋となる。
しかし今朝の東京都心上空には大きな入道雲が立ち昇り、夏の盛りを象徴するような光景だった。

二十四節気の「立秋」は、夏至と秋分の中間にあたり、太陽黄経が135度になる頃を指す。
どうしてこんなに暑いのに秋なのかと誰もが素朴に感じる疑問だが、そもそも二十四節気が中国から輸入され、中国の気候を基にしているからのようだ。
二十四節気が成立した中国内陸部は大陸性気候のためこの時期は気温が下がり始めているが、海に囲まれた日本列島ではピークがずれ込み猛暑の時期となることが多い。立秋からの暑さを「残暑」といい、手紙や文書等の時候の挨拶などで用いられる。
出典:ウィキペディア
なるほど、中国大陸ではそろそろ涼しい風が吹き始めるのだろうか?
いつかこの季節に体感してみたいものだ。

「立秋」の初候は「涼風至(すづかぜいたる)」と言うらしい。
『秋を感じさせる涼しい風が吹く頃』という意味のようだが、大陸性気候ではない日本列島では、涼風ではなく台風が接近中である。

日本列島の南の海上には、現在3つの台風が発生していて、そのうち台風10号が東京オリンピック最終日を目指して東京に再接近する予報である。
今日予定されているゴルフ女子の最終ラウンドや、男子の野球やサッカー、ビーチバレーの決勝、さらには国立競技場で行われる陸上競技への影響が心配される。
台風が最接近する最終日の8日には男子マラソンも予定されているが、幸い暑さ対策として札幌開催となっているので、ひとまず台風の直撃だけは避けられるだろう。
それほど大きな台風ではないので8日夜の閉会式までには通り過ぎそうだが、大会関係者の皆さんには最後の最後まで心休まることのないオリンピックである。

そんな中、今朝6時から札幌で行われた女子マラソン。
台風の影響ではなく、猛暑対策として前日の夜7時にスタート時間が1時間繰り上げられるという異例の事態となった。
朝6時の時点で札幌の気温はすでに26度、湿度も高く選手たちには過酷な条件でレースは超スローペースでのスタートとなる。
日本の前田穂南が一人抜け出すが後続を引き離すことはできず、鈴木亜由子とともに脱落していく。

30キロ地点を通過する頃には、先頭集団は8人に絞られた。
メダル常連のケニアが2人、エチオピアが1人。
ところが、ケニア出身のイスラエルとバーレーンの選手とエチオピア出身のドイツ選手がいるので、事実上はケニア4人、エチオピア2人という先頭集団となった。
アフリカ勢以外の選手といえば、アメリカのサイデルと日本の一山麻緒だけ。
一山麻緒は、このブログでも何度か記録した私が注目する選手である。

結局、レースを制したのはケニアのジェプチルチルでタイムは2時間27分20秒。
ジェプチルチルはハーフマラソンの世界記録保持者だそうだ。
女子マラソンでのケニアの金メダルは2大会連続で、2位は同じくケニアのコスゲイ、そして3位にはアメリカのサイデルが入った。
マラソンでのアメリカのメダル獲得はアテネ大会以来となる。

一山はその後も粘って8位入賞。
日本女子の入賞は、野口みずきさんが金メダルを獲ったアテネ大会以来となるという。
個人的には日本人離れした一山のポテンシャルでメダル獲得もあるのではないかと期待していたので少し残念だが、一山は昨夜の突然のスタート時間繰り上げの連絡を受けて朝まで寝つけず徹夜のまま42.195キロを走ったのだという。
他にもそうした選手は多かっただろう。
それにしても、ケニア・エチオピア勢が自国の代表だけでなく国籍を変えてどんどん出場するようになると、マラソンのメダルはさらに遠いものになりそうだ。
そんな環境の中での一山の8位入賞を私は最大限評価したいと思う。

身体能力がそのまま結果につながる陸上競技の世界は、日本人にとって厳しいスポーツである。
しかし今回の東京オリンピックでは、日本人が苦手としてきたトラック中長距離に世界と戦える新星が現れた。
私が大注目する男子3000メートル障害の三浦龍司が日本人初の7位入賞。
そして女子1500メートルでは小さな田中希実が日本人初の4分切りで8位入賞を果たした。
メダルと違って入賞というのは一般人には印象が薄いが、身体能力ではるかに勝る人種の選手たちと堂々と戦うその姿を見ると、不思議な感動を覚えてしまう。

そんな日本人にはメダルが遠い陸上競技で、今大会最も期待が高かったのが男子短距離陣だった。
リオ五輪の後、日本人悲願の9秒台を記録した選手が4人も出て、100メートルでの決勝進出、さらには男子400メートルリレーでは金メダルも期待された。
しかし、熾烈な国内選考を勝ち残った3人はいずれも100メートルで予選敗退、前回銀メダルを獲得したリレーでの雪辱を目指したが、思わぬ結末が待っていたのだ。
予選8位で辛うじて決勝に残った日本チームは、1走多田修平、2走山縣亮太、3走桐生祥秀、アンカー小池祐貴。
10秒00の多田以外の3人は9秒台の記録を持っている。
ところが・・・

私は思わず声をあげた。
好スタートを切った多田から、2走の山縣へのバトンが渡らなかったのだ。
まさか・・・
日本に過去2度の銀メダルをもたらした世界最高レベルのバトンパスに狂いが生じた。
レース後ガックリと肩を落とした選手たちは、「攻めた結果なので」とメンバー全員で決めた金メダルを獲るための戦略だったと語った。

日本人もついに9秒台に突入したとはいえ、世界のトップレベルはまだまだ遠い。
勝つためにはリスクを承知でバトンパスに勝負をかける以外に方法はない。
リオ五輪ではそれがうまくいった。
しかし、東京では勝負の女神は微笑まなかったのだ。

国内予選で敗れ100メートルに出場できなかった日本人初の9秒台選手・桐生は、このリレーにすべてを賭けていた。
しかし、長年夢見てきた東京オリンピック決勝の舞台は、自分にバトンが回ってこないまま終わってしまった。
この日の夜放送されたテレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」では、まさにこの桐生にシューズを提供してきたアシックスの担当者を特集していた。
このレースの結果は、選手やコーチだけでなく、社運を賭けた企業の夢も無残に打ち砕いたのだ。
リレーで失敗したのは日本だけではない。
世界最強の陸上王国だったアメリカが400メートルリレーでまさかの予選落ちとなったのだ。
ウサイン・ボルトのいたジャマイカに苦杯を舐めさせられた王者が金メダル奪還を目指した今大会、しかしその気負いが仇となってバトンのミスを生んだ。
伝説のスーパースター、カール・ルイスはアメリカの予選敗退を酷評した。
「すべてが間違っていた。バトンパスのシステムがまずく、選手たちの走りも悪く、リーダーシップを取る人がいないことは明らかだった。まったく恥ずかしい」
スポーツには大いなる感動があるが、同時に非情な現実を選手たちに突きつける。
努力した者がみんな報われるわけではない。
それもスポーツが教えてくれる人生の真実である。
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