今日から七十二候の「鶺鴒鳴(せきれいなく)」。
「セキレイの鳴き声が聞こえてくる頃」という意味だという。

トイレで歳時記カレンダーを眺めながら、「セキレイ」とはどんな鳥だろうかと思った。
「セキレイ」について調べてみると、主に水辺に住み、長い尾を上下に振る習性がある鳥だという。
セキレイは日本書紀にも登場するそうだ。
日本書紀には、日本神話の国産みの伝承の一つとして、イザナギとイザナミが性交の仕方が分からなかったところにセキレイが現れ、セキレイが尾を上下に振る動作を見て性交の仕方を知ったという内容の異伝に関する記述がある。婚礼の調度に鶺鴒台があるのはそれに由来する。日本各地にはセキレイにまつわる伝承がある。静岡県三島、広島県などではセキレイを神の鳥と称し、みだりに捕らえないのは神使以上に神に交道を教えた万物の師の意味があるという。
出典:ウィキペディア
イザナギとイザナミに性交を教えるとは、セキレイがいなければこの世界は生まれなかったということだ。

日本で普通に見られるセキレイは、セグロセキレイ、ハクセキレイ、キセキレイの3種だという。
井の頭公園にもいるのか調べてみると、「ハクセキレイ」の写真がいくつも掲載されている。
上の写真は、東京都建設局の「井の頭池だより」から拝借した。
白い顔に黒いラインが入っているのが特徴だという。
そして「ハクセキレイ」は、「チチンチチン」と高い音で鳴くという。
YouTubeでその姿と鳴き声を確認した上で、昨日今日と井の頭公園に「ハクセキレイ」を探しに行ってみることにした。

まず最初に行ってみたのは西園にある「小鳥の森」。
大きなカメラをぶら下げて目を凝らして鳥の姿を探す愛好家の姿がこの日もあった。
「何がいるんですか?」と聞くと、「サンコウチョウ」だという。
私のお目当ての「ハクセキレイ」ではないようなので、とりあえず耳を澄ませて甲高い声を聴き取ろうと試みる。
しかしまだセミの鳴き声がうるさくて、鳥の鳴き声はほとんど聞こえない。
おまけに樹木にはまだ葉がびっしり残っているため、鳥がいてもその姿を確認するのは困難だ。
それでも耳を澄ますと、地面からはかすかに虫の音も聞こえる。
セミと虫の声を同時に聴く。
これも初秋ならではの楽しみなのだろう。

小鳥の森の脇道で、地面に落ちてジタバタしている「ヒグラシ」を見つけた。
短命のイメージが強いセミの成虫だが、最近の研究でその生態が少しずつ明らかになっているようだ。
長年にわたり成虫として生きる期間は1-2週間ほどといわれていたが、2000年代頃から研究が進み、1か月程度と考えられるようになってきている 。1-2週間ほどという俗説が広まった原因として、成虫の飼育が難しく、飼育を試みてもすぐ死んでしまうことがあげられている。また、多くの個体が寿命に達する前に鳥などに捕食される。2019年には岡山県笠岡市の高校生が独自の調査手法によりアブラゼミが最長32日間、ツクツクボウシが最長26日間、クマゼミが最長15日間生存したことを確認し発表して話題となった。なお、幼虫として地下生活する期間は3~17年(アブラゼミは6年)にも達し、昆虫としては寿命が長い。
出典:ウィキペディア
子供の頃教えてもらった知識は、もう一度調べてみると新たな発見がいろいろありそうだ。

さて、話は逸れてしまったが、今日のテーマは「セキレイ」である。
セキレイは水辺を好むということで、井の頭池周辺でもその姿を探してみた。
するとこちらでは、別の鳥たちが激しい空中戦を繰り広げていた。
「キイキイ」という甲高い声に上空を見上げると、複数の鳥たちが池の上空を高速で追いかけっこしている。

曇り空をバックに流線型の影が飛んでいく。
「キイキイ」という甲高い声の主はこの鳥のようだ。

緑色の羽根を持つ「ワカケホンセイインコ」である。
夏の間ほとんど姿を見なかったが、1週間ほど前から大群で井の頭公園に出没するようになった。
木々に目立ち始めた実を目当てにやってきたのだろうか?

「ワカケホンセイインコ」と空中戦を繰り広げているのはカラスたちだ。
インコよりもひと回り体が大きいため、カラスが追いかけインコが一斉に逃げるという争いになっているようである。

高い木の天辺に降り立って上からインコたちを威嚇する。
井の頭公園の生態系の頂点に君臨するのはやはりカラスなのかと思ってみていると、カラスも一目置く相手がいるようだ。
狛江橋でカメラを構える人たちの話を聞いていると、「ツミ」という声が聞こえた。
「ツミ」は日本最小の鷹で、体の大きさは鳩ぐらいしかない。

動きが速すぎてカメラに収めることはできなかったが、羽根をバタバタさせず猛禽類らしく滑空する姿は肉眼ではっきりと確認できた。
横綱格の「オオタカ」の姿はなく、大関以下の三役格が公園の覇権争いを繰り広げているということなのか・・・。
とはいえ、今日探しにきた「ハクセキレイ」は見つからなかった。

水面に目を落とすと、カルガモが静かに泳いでいる。
もう少し秋が深まると冬鳥たちが公園に渡ってきて井の頭池も賑やかになる。
子育ても終わり、今が一番静かな時だ。

水面近くまで水草が伸びているこの季節、カルガモは頭だけ水中に突っ込んで餌を探す。
お尻を突き上げ、水かきでバランスを保ちながら食事をする姿は、ちょっと間抜けで愛らしい。

そんな写真を撮っていると突然黒い影が頭上すれすれに飛び去っていった。
カワウだ。
大きな体を宙に浮かせるのは大変なようで、カワウは助走をつけて低空で離陸する。

そんなカワウも子育てが終わり、ボート乗り場近くの杭の上に整然と並んでいる。
おそらくこの中には、今年生まれたばかりの子供たちも含まれているのだろう。
鵜飼いで知られる「カワウ」はとても潜水が得意なのだが、羽根の防水性能がさほど高くないらしく、時々杭の上で大きく羽根を広げて乾かしたりする。
その姿がちょっとユーモラスで、七井橋を渡る人たちが自然と足を止め、見物客が見物客が絶えることがない。

本当に自然というのは個性豊かな生き物たちであふれていることか。
お尻をフリフリ歩く「ハクセキレイ」は今後の宿題ではあるが、この一年、井の頭公園を継続的に観察するだけで、私たちが生きている世界について多くを学ぶことができたと思う。
歳時記とともに生きた昔の風流人たちは、もっともっと自然に関するたくさんの知識を嗜みとして身につけていたに違いない。
今更ではあるが、私もいにしえの風流人に近づけるよう引き続き井の頭公園をぶらぶらしたいと思っている。
<吉祥寺残日録>トイレの歳時記🌸七十二候「黄鶯睍睆(うぐいすなく)」に考える「野生のインコ」と「生物季節観測」のお話 #210208
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