🇯🇵岡山県/蒜山&勝山 2022年9月14日
9月の帰省も雑事に追われるうちに残り1週間となった。
親の介護も農作業もある程度目処が立ったので、昨日愛車ハスラーを走らせ妻と2人で岡山の北部まで日帰り旅行に出かけた。
妻がテレビのローカル番組で、蒜山(ひるぜん)高原で今「そばの花」が見頃だというニュースを見て「行きたい」と言ったのがきっかけだった。

朝の農作業を終えて、9時半ごろ家を出た。
山陽自動車道から岡山自動車道、さらに中国自動車道と米子自動車道を乗り継いで、家から2時間ほどで目的地の蒜山高原に到着した。
蒜山のインターチェンジを降りてすぐに道の駅で聞くと、すぐ裏手にもそば畑があるという。
教えてもらった通り、道の駅の裏に回ると見事な光景が広がっていた。

そばの花はどこかで見たかもしれないが、わざわざそれを目的に旅をしたことはない。
白い小さな花が畑一面を覆った様子は確かに美しい。
我が家の周辺に咲いているニラの花をひと回り大きくしたような楚々とした花であり、とても気に入った。
ニラ同様、そばの花も大いに私好みである。

蒜山高原でそばが栽培されるようになったのは意外に新しく、1996年のことだそうだ。
数日前の読売新聞にこんな記事が載っていた。
ソバは、1996年から水稲の転作として生産が始まった。今年は昨年と同じ農家100軒が、7月下旬から計55ヘクタールに種をまいて栽培。8月上旬からお盆頃まで雨が続くなどしたが、その後、好天にも恵まれて下旬から花を咲かせ始めた。
農家に栽培を委託している同市の第3セクター・グリーンピア蒜山によると、見頃は9月20日頃まで。10月から収穫が始まり、一昨年の火事から今年8月に再建された「そばの館」で、風味豊かな新そばとして提供される。
引用:読売新聞

そばはタデ科の一年草で、種まきをしてから70〜80日程度で収穫でき、痩せた土壌でも成長し結実することから、日本では「救荒食物」として5世紀から栽培されていたそうだ。
だから7月下旬に蒔いた種がもうこんなに成長し、今頃花を咲かせているのだ。

美しいそば畑にしばし佇みながら、我が家の畑にもそばを蒔くと育つのだろうかなどという考えが頭に浮かぶ。
すっかり思考が農家になってしまったようだ。
耕作放棄地となった2000平米の畑を今年近所の人に託したのだが、その人も忙しくてうちの畑にまでなかなか手が回らなかった。
あの畑を来年どうするかが今の私のちょっとした悩みとなっているのだ。
ただ残念ながらそばは亜寒帯に属するような冷涼な気候を好むようで、猛暑日が続く岡山の県南地方での栽培はやはり難しいそうである。

こうしてそば畑をひとしきり眺めた後、蒜山高原に去年7月にオープンした建築家隈研吾さんによる新たなランドマーク「グリーナブル・ヒルゼン」を見学に行く。
ここは地元真庭市が主導する観光文化発信拠点で、そのシンボルとなる建造物「風の葉」は隈研吾さんnの設計で2020年までオリンピックに合わせて東京晴海に設置されていたものだ。

この建物は今注目されている木製の建築資材CLT(直交集成板)によって作られていて、日本におけるCLTのパイオニア企業である「銘建工業」の本社があるここ真庭市の蒜山高原に里帰りしたというわけだ。
去年、岡山のローカルニュースで大々的に報道されていたので、せっかくなので見に来たが、まるで縄文時代の建築のような宗教的な雰囲気を漂わせている。

「風の葉」の周囲にはミュージアムやショップなどいくつかの建物が並んでいたが、あいにく水曜日は休館日で訪れる客は私たち以外にはいなかった。
ちなみに蒜山高原ではほとんどの飲食店が水曜が休業日になっていて、そば畑を見た後そばでも食べて帰ろうという我々の計画は脆くも打ち砕かれてしまったのだ。

仕方なく蕎麦屋を求めて移動することになった。
ちょうど昼時、岡山に戻る途中にある勝山という町に人気の蕎麦屋があることを知り、急遽勝山へと向かう。
確かに評判通り、「一心庵」の十割蕎麦は満足のいく味で、わざわざ足を伸ばした甲斐があった。

勝山という町を訪れるのは初めてだったが、ここは江戸時代、美作勝山藩2万3千石の小さな城下町で今も古い町並みが一部保存されている。
昼食後、川を渡って「町並み保存地区」に行ってみた。
確かに昔の商家や蔵が今も残り、落ち着いた風情ある景観を保っていた。

勝山の町並み保存運動が始まったのは1985年、岡山県によって県下初の指定を受けたのがきっかけだった。
旧電報電話局を「郷土資料館」に改修したり、ガードレールを擬木の欄干に取り替えるなど意識的に古い町並みを再現していった。

1990年代になると、「のれんのまちづくり」と呼ばれるソフト面の整備も進められた。
そのせいで、今も家々の軒先には意匠を凝らした素敵な暖簾が架けられている。
どれも伝統的というよりも現代的なデザインで、町おこしの一環として各戸が協力して素敵な町並みを作り上げていることがわかる。

短めの五連の暖簾もあれば・・・

「茶」と描かれたモダンなデザインの暖簾もある。
地元の染織家による手作りの暖簾だそうだ。
ちょうど我が家にも暖簾が欲しいと思っていたところなので、個性豊かな暖簾を眺めて歩くだけでも私には楽しい時間であった。

保存地区の道沿いには清流が流れる水路が通っていて、30度を超える暑い昼下がり、ちょっとした涼を感じさせてくれる。
有名観光地のように多くの観光客がいないのもまた良い。

石段を上がるとたくさんのお寺が並ぶ地区があるようで、いくつかの町歩きルートが設定されているみたいだったが、妻は暑さのためすぐに根をあげてしまった。
とにかく暑さをしのげるお店に逃げ込むことに・・・。

いくつかのカフェが営業していたが、道路から一段上がった高台に建つ素敵なお店が目に留まった。
さっそく水路を渡り、石段を登って行ってみた。

古い洋風民家を改装した「Nostalge Cafe ろまん亭」。
このいい感じの喫茶店でしばし休憩する。

店内も落ち着いた雰囲気。
女性スタッフ2人で切り盛りしていて、とてもリラックスできる空間だ。

大きな窓からはシンボルツリーのユーカリ越しに勝山の町並みが見下ろせる。
ずっと座っていたくなるような心地よい窓辺。

私はこの店で「勝山ももたろう紅茶」(400円)を注文する。
真庭市中部勝山(富原地区)の厳選茶葉を使用した紅茶だそうだ。
暑さしのぎに飛び込んだカフェでホット紅茶を飲むのもちょっと変だが、そんなことも忘れてしまうような気持ちの良いお店だった。

こうして蒜山高原のそばの花に加え、初めて訪れた勝山の町並み保存地区も堪能できた。
ちなみに勝山は「風の葉」に使われたCLTを生み出した木材の町でもある。
それを象徴するようなアーケードを抜けて、帰りは高速道路を使わずに旭川沿いの一般道を通ってみた。
川沿いのグネグネ道だが、対向車もほとんどなく両側に切り立った山と川を眺めながらの2時間ほどのドライブは予想外に素敵なものだった。
また愛車ハスラーに乗って知らない町に出かけよう、そんなことを妻と話し合った楽しいショートトリップだった。
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