<日々是勉強> LIMEXとセルロースナノファイバー

人間、それまで全く興味を持たなかった分野の話を聞くと、意外な発見をするものだ。

今週、東京ビッグサイトで開催されていた「ファインケミカルジャパン」という展示会をのぞいてきた。ファインケミカルとは、「化学工業製品のうち、加工度の高い、多品種・少量生産で付加価値の高いもの」だそうだ。

ここで新素材に関するセミナーを聞いた。

その一つは、「LIMEX」という石灰石から作る新たな素材で、今世界的に注目されているらしい。2011年創業のTBMというベンチャー企業が開発した素材で、2016年にこの素材を使った名刺作りから実際の商品開発が始まっている。

「LIMEXとは、石灰石を成分としたエコロジーとエコノミーを両立させるウェルシステム」というのが、開発者たちの目指すところだ。

石灰石は世界各国に豊富に存在する。埋蔵量が多く、コストが安い。この石灰石と樹脂を組み合わせて作り出したのがLIMEXという新素材で、まず最初の商品として「LIMEXシート」と呼ばれる紙の代替品を製作した。木ではなく、石から紙を作ったわけだ。

そして開発者たちは、このLIMEXを使って3つの環境課題に取り組みたいと言う。

①水や森林資源の問題、②海洋プラスチックゴミの問題、③気候変動問題の3つだ。

現状、紙を作るために大量の木材と水が使われている。LIMEXに置き換えることで水と森林を守ることができると言うわけだ。日本では水も森林も豊富にあるが、海外では日本よりも事態は深刻だ。海外でより注目される技術だろう。

またLIMEXは耐水性があり、耐久性がある。吉野家やスシローのメニューなどにも利用されていて、紙だけでなくプラスチックの代替も期待されている。そして、プラスチック以上の高効率なリサイクルが可能だと言う。

彼らが目指しているのは、単なるリサイクルではなく「アップサイクル」。単に元に戻すのではなく、他の製品に再加工することも可能にするエコシステムを作ろうとしている。例えば、ブラインドサッカーで使ったLIMEX製の横断幕を再利用して次の大会のノベルティーグッズを製作したりしている。

さらに水に分解する樹脂の開発も進めていて、石灰石と水分解性樹脂を使ってLIMEXを製造することにより、プラスチックゴミの問題を解決しようと試みている。もしこれが実現したら、プラスチックに代わる次世代の素材としてとてつもないビジネスチャンスが生まれるだろう。

すでに海外500社から問い合わせが寄せられていて、昨年開かれたCOP24という環境国際会議でも紹介されたらしい。日経新聞が選んだNEXTユニコーン企業でも上位にランクインしているというのも納得できる。

ものすごい可能性を秘めた日本発の新素材なのだ。

 

そして、もう一つ私が注目した新素材が「セルロースナノファイバー」。こちらは最近メディアでもよく耳にする。「主に植物の細胞壁に由来するセルロースから成る、直径数nm(ナノメートル)から100nm、長さが直径の100倍以上の繊維状物質」のことだそうだ。

ナノセルロースとも呼ばれるこの素材の特徴は、鋼鉄の5分の1の重さで、鋼鉄の5倍以上の強度を有していることなど多岐にわたる。何と言っても、地球上に豊富に存在する植物から生産できるという点が新しい。

現在最も研究されているのは、木材パルプを原料とする製造工程だ。紙の需要減少を受けて、製紙会社が次のビジネスとして力を入れている。

今回聞いたセミナーそのものはあまり役に立たなかったのだが、私がセルロースナノファイバーに興味をそそられたのは、「竹が原料になる」という点だった。

セミナー後、私は「ACC法で作る竹CNFで竹林被害を防ぐ」という九州大学の近藤哲男教授の原稿をネット上で見つけた。

『輸入品のタケノコが出回り、竹材の需要が減少するなどし、各地の竹林は管理されなくなっている。竹は強い繁殖力で既存の植生破壊を発生させ、人々の暮らしを困惑させる。九州は竹の一大産地が故に、竹林被害は深刻だ。その救世主となるのが、やっかいものの竹を活用したセルロースナノファイバーである。』

これは、私にとってすごい情報だ、と思った。

私は岡山の田舎の山林を相続し、そこの管理に頭を悩ませている。特に竹やぶが敷地の外にまで広がっていくのを防ぐため、毎年チェーンソーで竹を伐採する作業を細々と続けている。切った竹は使い道がないため、山に積んで腐るのを待っている。だが、竹は非常に生命力が強いため、一年放置しておくとあっという間に元どおりに再生してしまうのだ。

もし竹が資源となるのなら、切った竹がお金に変わる。荒れ放題になっている日本中の山林に人の手が入るきっかけとなるだろう。

岡山でセルロースナノファイバーの製造を行なっている企業があるか、ネットで調べてみた。一つ、見つかった。うちの山から30分ほどの場所に工場があるようだ。今度岡山に帰省することがあれば、一度訪ねてみたいと思った。

もし竹を買い取ってくれるようならば、私の老後の課題に一つの道筋がつくかもしれない。

 

石器、土器、青銅器、鉄器、そしてプラスチックなど石油由来の素材へと進化してきた人類の歴史。新たな素材の登場は、世界の勢力図を大きく変えてきた。

これから生まれる新素材は、世界のどこにでも存在するより普遍的で簡単に手に入る石や植物を原料とするものへと変わろうとしている。ある意味では、石器時代へと戻っていく感覚にも似ている。

縄文人たちは、あまり争うことなく1万年の歴史を歩んだと言われる。身の回りにあるものをベースに生活を営んだため、必要以上に他のグループと争う必要がなかったためだ。その一方、ある場所に遍在する石油のようなものが価値を持った時代には、人類はそれを巡って激しく争った。

もし21世紀の新素材がどこにでもある普遍的な物質で作られるようになれば、ひょっとすると平和な世界がそれによってもたらされるかもしれない。

大いに関心を持って、その推移を見守っていきたいと思う。

 

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