人間には時として、根拠のない思い込みというものがある。
今日そのことを改めて思い知らされる出来事があった。
今日も妻が昼時に医者に行くというので、吉祥寺ランチに出かけることにした。
今夜から最強寒波が日本列島を襲うという予報が出ていて、迷うことなくラーメン屋に行こうと決めた。
いくつかの候補が思い浮かんだが、その中にこれまでスルーしてきた2軒の「大勝軒」もあった。
吉祥寺には系列の異なる2つの「大勝軒」があるのだが、私はテレビなどでもよく紹介される映像から「私には合わないだろう」と勝手に決めつけ、これまで一度も食べたことがなかったのだ。
まあ、ダメでもともと、一度ぐらい食べてみるか。
そう思って弁天通りにある「大勝軒」に行ってみた。
店の看板には「吉祥寺 大勝軒」と書かれているが、ネット上では「東池袋 大勝軒 吉祥寺」と紹介されている。
「大勝軒」には3つの源流があるそうで、吉祥寺にある2軒の「大勝軒」のうち、こちらは「東池袋系」、そしてもう1軒の「三鷹大勝軒」は「永福町系」ということになるらしい。
東池袋系の「大勝軒」は吉祥寺の喧騒から少し離れた雑居ビルの半地下にある。
分裂した「大勝軒のれん会」「大勝軒味と心を守る会」のどちらにも属さない独立系のお店として営業しているそうだ。
開店直後の午前11時、自転車で店に乗りつけると、まだ先客はなく私が一番乗りだった。
入り口に置かれた券売機で食券を購入する。
「つけ麺(小)」と「ラーメン(小)」が620円。
これは、安い!
「小」とは言っても麺の量は1.5玉(240グラム)あると書いてあるから私には十分な量だろう。
近頃は、麺の量が違っても値段は一緒という店も増えたが、そうするとついつい大きい方を選んでしまうので、こうしてわずかでも麺の量で値段に差をつけてくれている方が私には好ましい。
ボタンの配置からして「つけ麺」の方がメインなのだろうと思い、「つけ麺(小)」を選択した。
店内は広い厨房を取り囲むように15のカウンター席が配置されていた。
一番乗りなので、奥の方に座る。
私のすぐ後からもう1人お客さんが入ってきた。
お店はご夫婦らしき男女2人で営まれ、お水は自分で汲みに行くスタイルだ。
私の席からは店主の丁寧な仕事ぶりがよく見える。
大きな寸胴が2つ置かれ、その手前で手際よく麺を茹でていく。
その背後では奥さんらしき女性が具材の用意などのサポートをテキパキとこなしている。
静かだがとても息が合った仕事ぶりだと感じた。
こうして店内を観察していると、私が注文した「つけ麺(小)」が出来上がった。
麺とスープ。
実に見た目がシンプルである。
少しうどんのようにも見える麺は、店の奥の製麺室で作った自家製麺だそうだ。
『風味豊かな小麦粉と硬質小麦の外側を粉にしてブレンドしており、旨み・のど越しを強調した食感にしました』という説明が壁に貼ってあった。
麺の丼には2枚の焼き海苔が添えられているだけ。
量はやっぱり「小」で十分だと思ったが、後から来るお客さんたちはみんな「並(2玉320グラム)」か「中(3玉480グラム)」を選び、中には「大(4玉640グラム)を注文している客もいた。
スープの方にもあまり具が入っていないように見え、底に沈んでいた具材を引き揚げて麺の上に並べてみると、チャーシューが2枚とメンマが数本入っているだけだった。
チャーシューは、噛むと味が染み出すように少し硬めに仕上げてある。
これでは物足りないというお客さんのためにはトッピングも用意されていて、味付けたまご、海苔、野菜、チャーシューがそれぞれ100円、自家製メンマが180円。
券売機でも買い求めることができるが、カウンターに座ってからの追加も可能なようだ。
さて、実際に食べてみる。
麺をスープにつけ、口に運ぶと・・・これがめちゃくちゃ美味い。
酸味が効いていて、鰹の風味が濃厚だ。
これって、文句なく私好みのスープではないか。
どうしてこれまで「大勝軒」をスルーしてきたのか、自分の思い込みに腹が立つ思いだった。
麺の量は「小」を選んで正解だと思ったが、実際に食べ始めると1.5玉などペロリと食べてしまい、もっと食べたくなる。
それほど私の味覚にドンピシャだった。
これは間違いなく病みつきになる。
とにかくスープと麺が抜群に美味いので、トッピングが少ないことなど全く気にもならない。
東池袋の名店「大勝軒」が閉店する時、多くのファンが長い行列を作ったのが今頃になってようやく理解できた気分だ。
麺を食い尽くした後、熱々のスープわりを加えて、残ったスープを飲む。
一口一口、私好みの酸味の効いた旨みが口の中に広がる。
こんな満足感が久しぶりだ。
人気のお店というのは数多くあるが、本当に自分好みのお店というのは実際に食べてみなければ見分けられない。
長年スルーしてきた「大勝軒」が実は私が求めていたお店だったとは、悔しいような嬉しいような不思議な出会いであった。
スープを全部飲み干して大満足で席を立った11時25分頃には、カウンター席は全て埋まっていた。
お客さんは全員男性。
やっぱりそういうお店なんだろう。
今度お邪魔する時には、「並」以上にしてトッピングも試してみたいと思っている。
食べログ評価3.45、私の評価は4.50。
「東池袋 大勝軒 吉祥寺」 電話:0422-47-7789 営業時間:11:00~20:00 定休日:木曜