65歳の誕生日祝いに以前から気になっていた和食のお店に行った。
吉祥寺に引っ越した頃に何度か伺った御殿山のお気に入りの寿司屋「ほしの」が閉店し、その後にできたお店である。
ちょうど2020年の今頃、まさに日本が新型コロナで大騒ぎし始めた頃にオープンしたので、大丈夫なんだろうかと妙に印象に残っていた。

お店の名前は「和こん」という。
派手なお店ではなく、少しだけ通りから引っ込んでいるので見落としてしまいそうだが、よく見るとなかなかいい感じの佇まいがある。
吉祥寺には珍しい落ち着いた印象のお店だ。

営業はディナーのみで、営業時間は17時から23時半まで、日曜日はお休みだ。
ちょっと敷居が高そうにも見えるが、入り口の外にちゃんとメニューが置いてあって、「おまかせコース」全7品が5900円と、かなり良心的なお値段である。
私の誕生日にどこか行ったことのない店に行きたいと言うと、妻が「あそこは?」と言いながら提案したのが「和こん」だった。

開店時間の午後5時に予約して訪れると、私たちの前に先客があった。
話を聞いていると地方から東京に観光に来たカップルのようだ。
7人掛けのカウンター席の向こうには若い板前さんが2人、気楽に話ができて気持ちのいいお兄さんたちだ。

入り口付近には、4人がけと2人がけのテーブル席と2人用の小さなカウンター席もある。
私たちが訪れた5時段階ではまだ空いていたが、7時までには2つのテーブルとも埋まった。

メニューを見ると、コースが3種類。
私たちがあらかじめお願いした「おまかせコース」のほかに、黒毛和牛のステーキがついた「和こんおまかせコース」(全8品6800円)とおつまみのおまかせコース「つまかせ」(全4品3800円)がある。
他のお客さんたちの様子を観察したところ、私たちと同じ「おまかせコース」を選ぶ人が多いようだ。

アラカルトもいろいろ用意されていて、このアラカルトを組み合わせてコースを構成していることがわかった。
中にはコースではなくアラカルトで注文するお客さんもいて、その人たちの様子を見ていると、アラカルトで注文するとコースよりも2倍の量が出てくるらしい。
アラカルトの中には高めの値段設定のように見えるものもあるが、2人で食べるぐらいの量があるということだ。

ドリンクは、日本酒を選ぶ。
気になったのは山形のお酒「山川光男 はる」(1合1400円)。
なかなかファンキーなラベルである。
聞くと、山形県内の4つの蔵元が一緒になって立ち上げたプロジェクトだそうで、「山形政宗」「楯野川」「東光」「男山」という銘柄から一文字ずつ取って「山川光男」というブランドを作ったのだという。

面白いと思って試してみたが、正直ちょっとフルーティーすぎて私好みではなかった。
「山川光男」のサイトを見てみると、「2023はる」のテーマは「発酵食品とのコラボレーション」だそうで、ヨーグルトを使った料理とのペアリングを目指し、クエン酸リッチな味わいになっているそうだ。
和食と合わせるにはいささか甘すぎるような気がした。

そうこうしている間に、最初の料理が目の前に置かれた。
「新たまねぎとブロッコリーのすりながし 白魚の天ぷらトッピング」。
アラカルトメニューには載っていない今日の付き出しのようだ。
ポタージュスープのような滑らかさ、サクッとした白魚の天ぷらとの相性もいい。

続いては、「前菜イロイロ盛り合わせ」。
お店が用意する6種類の前菜が少しずついただけるお得なセットだ。
アラカルトで注文すると2800円である。

真ん中にあるのが「芽キャベツとベーコンの煮浸し」(アラカルト600円)。

その周囲を囲んでいるのは、右手前から妻の一押し「ブリの南蛮漬け」(アラカルト1000円)。

「セトカの白和え」(アラカルト700円)。

続いて私の一押し「浸し豆」(アラカルト450円)。

「磯ツブ貝のいそ煮」(アラカルト950円)。

そして、「燻製数の子とチーズのポテトサラダ」(アラカルト600円)。
燻製の数の子というのは初めて食べたが、スモーキーな燻製の香りがいつまでの口の中に残った。
どれも上品だがしっかりと味がついていて、美味しくいただいた。

続いては、お刺身。
この日用意されていたのは、三重のメジナ、兵庫のスミイカ、そして北海道のホッキ貝だった。
イカもホッキもとても柔らかく、貝が苦手な妻も珍しく食べていた。

その次に出てきたのは「季節の料理」が2品。
まず最初は揚げ物で「サクラマスと新じゃがいもとパプリカ味噌」(アラカルト1300円)。
下に敷かれたパプリカ味噌をつけてサクラマスと新じゃがをいただく料理なのだが、初めて食べたパプリカ味噌というのが不思議な味で、味噌のように強くもなくマイルドに美味しさを引き立てていた。

ここで「山川光男」がなくなったので、次の日本酒を頼む。
これまた初めて見る福岡の純米酒「田中六五(ろくじゅうご)」
この酒のサイトを見ると、その名の由来は田んぼの中にある白糸酒造が作った「糸島産山田錦のみを用い、65%精米によって仕上げられた純米酒」ということらしい。
さらに酒造りの中心となった白糸酒造8代目の名前も田中さんだという。
さすが純米酒、「山川光男」には申し訳ないが、私はやっぱり「田中六五」の方がずっと好きだ。

季節の料理の2品目。
今度は煮物の中から「ホタルイカとセリとウドの卵とじ」(アラカルト1300円)。
これはちょっと味付けを失敗したようで、これだけかなり濃い味付けだった。
でも、サクラマスといいホタルイカといい、お皿の中はまさに春爛漫である。

料理はゆっくり出てくるので、ここまで食べただけで結構お腹が膨らんでくるが、ここからがお食事。
この日出されたのは「桜鯛と菜の花の炊き込みご飯」(アラカルト2600円)だった。
桜鯛と菜の花、土鍋の中はこれまた春爛漫だ。

土鍋の中を覗かせてもらった後、板前さんが茶碗に取り分けてくれた。
私も前期高齢者になり、近頃炊き込みご飯に惹かれるようになった。
味噌汁と長芋の醤油漬けと一緒に。
これがなかなか美味しくて、妻が1杯でお腹いっぱいになったので私は3杯も食べることになった。
でも、美味しかった。

最後はデザート、「季節の果物ライムゼリー掛け」(アラカルト550円)でコースは終わった。
和食のコースだと食べ終わった後、まだお腹が空いていることも過去にはあったが、炊き込みご飯のおかげで私もお腹いっぱいとなった。
これで支払いは妻のオレンジジュースも入れて2人で14300円。
都心や京都の和食屋さんでおまかせコースを食べるのに比べ、かなり良心的な値段設定となっている。

和食の店が少ない吉祥寺では貴重な店。
ケチな妻も気に入ったようなので、今後も特別な日に利用させてもらうことになりそうだ。
食べログ評価3.08、私の評価は3.60。
「吉祥じ 和こん」 電話:050-5456-8736 営業時間:17:30~23:30 定休日:日曜 https://www.facebook.com/kichijoji.wakon