「青の都」サマルカンドは美食の街でもある。
少なくとも、中央アジアの国々を回ってきて、私にはそう感じた。
サマルカンドで私が訪れた3つのレストランを記録しておきたい。

サマルカンド到着の夜に選んだのは、サマルカンドで最も大きな「ビビハニム・モスク」の目の前にあるテラス席のあるレストラン。
店名は「Minaret」。
2階のテラス席からは目の前にマ モスクの巨大なドームが見える。

このレストランはたまたまGoogleマップで見つけた。
レギスタン広場からアフラシャブの丘へと伸びる「イスラム・カリモフ通り」に面しているが、このテラス席のことをネットで知らなければとても入ろうと思わないようなお店である。

私が訪れたのは午後6時半ごろ、こちらの感覚ではまだ夕食には早く、お店の1階には誰も客がいなかった。
失敗したかなと思いながら、「2階空いてる?」と聞いてみる。

空いているというので階段を上がってみると、ちょっと想像していたのとは違う貧相なテラス席だった。
確かにモスクはよく見えるが、造りが東南アジアの安食堂のようである。
しまったかなと半ば後悔しつつ、ここまで来たら食べるしかない。

とりあえずビールを注文。
最初はビールは置いていないと言っていたが、一回下に降りて上がってくるとビールはあるということになり、この「Pulsar」を持ってきてくれた。
どうやらサマルカンドのご当地ビールのようだ。
結構キレがあって美味い。
きっと近くの店でわざわざ私のために調達してくれたのだろう。

お店の位置はモスクの南東に当たるため、夕日は逆光となってモスクのシルエットを浮かび上がらせる。
心地よい風がテラスを吹き抜ける。
いやはや気持ちいい。
この風に当たるだけでもこのテラスに上がってきた甲斐があるというものだ。

スープが運ばれてきた。
こちらでは「ショールヴァ」と呼ばれ、肉と野菜を使ったやさしい味のスープである。
味も悪くない。
客がいないと心配になるが、ネットの情報通り、料理もちゃんとしてそうだ。

この日、もう一つ注文したのが「シャシリク」と呼ばれる串焼き。
種類がいろいろある中から牛肉と羊肉を選んだ。
このシャシリクが絶品で、特に羊にハマった。
肉質は牛よりも硬いのだが旨みが濃厚だ。
そして旨さを引き出すポイントは、間違いなく岩塩だと思う。

目の前でゆっくりサマルカンドの夕陽が沈んでいく。
このテラスには私以外いない。
実にいい気持ちだ。

こうしてサマルカンド最初の食事はそれまでの中央アジアの食に関する私のイメージを大きく変えた。
そしてその料理もさるものながら、テラスに吹く爽やかな風と岩塩の美味しさが心に残った。
代金は全部で11万5000スム、日本円でおよそ1400円だった。

サマルカンド2日目の夜には、レギスタン広場の裏手にあるちょっと高級なレストランヲ選んだ。
これもまたGoogleマップからのチョイスでこれまた世界遺産を望むテラス席があることが決め手だった。

訪れたのは午後6時すぎ、私が一番乗りだった。
1階のテーブル席からもドームがよく見えたが、私は迷うことなくテラス席を希望した。

テラス席は3階にあり、前日のレストランに比べ広くて高級感があった。
そして触れ込み通り、レギスタン広場の歴史的建造物が目の前に広がっていた。
おそらくこれほど間近にレギスタン広場を眺めながら食事ができるスポットはないのではないだろうか。

一番乗りだった私は端っこの2人がけのテーブルに案内された。
とりあえずビールを注文してから、メニューにはじっくり目を通す。

メニューには英語も書いてあるのでありがたい。
ウズベキスタンのローカルフードだけでなく、パスタなどもあってちょっと迷う。

でもせっかくだからローカルフードて攻めようと思い、選んだのはまず「マンテ」という肉まんのようなもの。

中には肉が詰まっていて、皮が餃子より固かった。
サワークリームが付いて来たけど、やはり辛子しょうゆの方が合う気がする。

もう1つは「サムサ」というパイ。
中には肉やタマネギなどが入っていて、皮は弾けるほどパリパリだ。

これはトマトソースにつけて食べるようだが、もう少しいい組み合わせがあるようにも感じた。

どのくらいの大きさなのかもわからないので、とりあえずここまで頼んでからメインを考える。
少しずつお客さんもテラス席に上がってきて、良い席から徐々に埋まっていった。

この夜のメインとして選んだのは、またしても串焼き「シャシリク」。
前夜の美味しさが忘れられず、2日連続で頼んでしまった。
ただ、羊と鶏を両方注文しようとすると、店員さんから止められ、結局羊だけにしたのだが、実際に運ばれてきたその意味を理解した。
単に串焼きが来るのではなく、ちゃんと串から外して、副菜やソースと一緒に供されるのだ。
やはりお洒落なレストランは違う。

色味的にも鮮やかで、間違いなく高級な印象になる。
全体に薄味に仕上げてあり、テーブルに置かれた岩塩をお好みでかけていただくスタイルだ。

この日もシャシリクはめちゃくちゃ美味しく、岩塩がその味を引き立てていた。

あまりに岩塩に惚れ込んでしまったので、翌日市場に行った際、香辛料屋のおじさんから岩塩を買ってしまった。
果たして日本に帰っても、あの味を再現することができるだろうか?

この日は店員さんに勧められてパンも食べてみた。
現地では「ナン」と呼ばれるそうだが、表面が硬く中がふんわりとしたパンである。
個人的にはもう少し塩味が効いていた方が好みだが、これも岩塩を使えば解決する話だ。

レギスタン広場のライトアップが裏側からどのように見えるかが気になって、グラスワインヲ注文してもう少し粘ることにする。
サマルカンドはワインの産地でもあるそうで、ローカルの赤ワインを注文すると、このグラスが運ばれてきた。
メニューには「LAGUNA BAGIZAGAN」という銘柄が書かれていた。
調べると確かにサマルカンドの赤ワインのようで、とても美味しいワインであった。

レギスタン広場でライトアップが始まった。
やはり裏側には照明が付いておらず、正面から見るのに比べると物足りない感じがするが、食事をしながら刻々と変わる風景を眺められるのだから贅沢なロケーションであることは間違いない。

私が来た時にはガラガラだったテーブルもいつの間にかほぼ満席になっている。
テラス席を断られて渋々下の階に移動した客もいたようだ。
やはり人気店なのである。
この日の夕食の代金は、この旅行中最高額となる20万スムだった。
と言っても日本円で2400円ほどだから安いといえば安いのではないだろうか。

サマルカンド3日目のランチは、庶民の台所「シヨブ・バザール」の中にあるチヤイハナに行った。
チヤイハナとはウズベキスタン伝統のお茶屋さんである。

賑やかな市場のどこにチヤイハナがあるのかわからなくて、売り子のおばさんに聞いたら教えてくれた。
お礼に、家族へのささやかなプレゼントをこのおばさんから買った。

私が訪れたのは午前11時ごろ。
少し時間が早かったのか、テラス席の伝統的な座席を確保することができた。
靴を抜いて上がり込む日本の小上がりのようなものだ。

テラスの天井は高く、心地よい風が吹き抜ける。
店は家族連れで賑わい、この光景を見ながら念願のチヤイハナに来たという達成感遠私は味わっていた。

英語のメニューはなかったけれど、写真入りだったので、問題なく注文ができた。

まず頼んだのはお茶。
やはりチヤイハナは基本的にお茶を飲む店なのだ。

続いてはサラダ。
なんと言っても市場の中にあるチヤイハナなのだから、野菜の鮮度は間違いない。

そしてこの日のチャレンジは「ラグマン」だ。
中央アジアで広く食べられている麺料理ラグマンにはいろいろな種類があるようだが、この店のラグマンはトマトベースのスープ麺である。

スープの中から麺を引っ張り出すと、やはりうどんのような太麺だった。
ラグマンは一度アルマトイで食べたことがあるが、明らかにここのチヤイハナの方が味が上だ。

旅の疲れで食欲も落ちてきていたところだっただけに、控えめな量も私には好印象であった。

すっかりチヤイハナ好きになった私は、別のチヤイハナにも行ってみたいと思っていたのだが、この後お腹を壊して食事ができなくなってしまった。
とても残念である。
ただGoogleマップで探した限りでは、ここを上回るチヤイハナは見当たらなかった。
この日のランチは45000スム、日本円で540円であった。