バーレーンという国にはあまり観光する場所はない。
朝8時に空港に到着したものの、ホテルのチェックインには早すぎるため、私がまず向かったのは「コーラン館」という施設だった。

空港のタクシーにGoogleマップを見せて行き先を伝える。
便利なもので、有名な場所だとアラビア語で行き先を伝える機能もGoogleマップにはあることを初めて知った。
バーレーン人の運転手さんは白い頭巾をかぶっていて、洗練された印象を受ける。
トヨタ製のタクシーもとてもよく整備されていて、何も言わなくても料金メーターを使い、ちゃんとした国という感じだ。
空港からコーラン館までは10分ちょっとで着き、料金は6バーレーン・ディナール(約2140円)だった。

マナーマの近代的なビル群の中にある土壁の建物、ここが珍しいコーランの博物館「コーラン館」である。
ここには世界中から集められた美しいコーラン芸術の数々が時代や地域ごとに展示され、私が知らないコーランの世界の一端を知ることができた。
入場料は1ディナール、345円ほどと安いのだが、客は私一人だった。

展示物の撮影は禁止と言われたのだが、誰もいないので1枚だけ。
あまりの美しさに感激し写真に残しておきたかったのだ。
ちなみにこの黄金色に輝くコーランはエジプトで栄えたママルーク朝時代の様式で描かれているそうで、実に細かい筆致で細部まで緻密に描かれている。
本来は神の啓示を文字に書き写した物なのだが、その言葉があまりに権威化されたことにより、どのようなスタイルで書くか多くの芸術家たちが腕を競ったに違いない。
決して金ピカのものだけでなく、色彩も様々、大きさも巨大なものから米粒に記されたものまで、イスラム教の歴史が凝縮されているように感じた。

コーラン館の近くにはバーレーン国立博物館もあるのだが、バーレーンの歴史にそれほど興味が沸かなかったので、少し早いがこのまま歩いてホテルに向かうことにした。
結局、私がいる間、一人の入場者も現れず、受付のスタッフはみんな暇そうにしていた。
バーレーンに来たら、訪れる価値のある博物館だと思うが、そもそも観光目的で来る人も多くないのだろう。

コーラン館とは対照的に、マナーマに来た観光客が必ず訪れる場所がスークである。
マナーマのスークは、旧市街にある街のシンボル「バブ・アル・バーレーン(バーレーン門)」の裏に広がっている。

スークといえば市場のことだが、トルコのような特定の建物があるわけではなく、小さな商店が扱う商品ごとに集まっている界隈をスークと呼ぶ。

アラビアのランプや絨毯など観光客が喜びそうな品物もある。
ただ私には買い物欲がないので、品物ではなく黒い民族衣装を着た女性たちが細い路地を歩きながら熱心に買い物している様子を見て楽しむだけである。

中でも金を扱うお店はやたらに多く、豪華なネックレスを品定めする客も結構いる。
民族衣装の上に金の飾りをつけている女性も見かけないのに、どうやって使っているのだろうと疑問がまた一つ浮かんだ。

そんなスークの中には飲食店もたくさんある。
私は路地で営業していたカフェを見つけ、ここでランチを食べることにした。
看板には創業1950年「HAJI’S CAFE」と書かれている。

家族で食事ができるように8人、いま子供連れならおそらく10人以上は座れそうな大きなベンチ。
壁には昔のバーレーンを写した白黒写真が貼られている。
雰囲気はとてもいい。

もともとはこの路地裏にあったカフェが前の路地も店にしてしまったのだろう。
店の中でお茶を飲んでいる客もいる。
夏になれば暑くて外では過ごさないから、この路地カフェも今の季節のお楽しみなのかもしれない。

ベンチに座ったのはいいが、果たして何が食べられるのやら。
メニューの中ならどんな料理かわからないものを選ぶ。
よくわからないこの「MACHBOOS」にしようと思ったら、今はないという。
ではこの「NASHEF」を選ぶと、それもないといい、ビリヤニかカレーだというので、「ここはインド料理か?」と聞いたらバーレーン料理だと答える。

ということで、結局エビカレーになった。
本来カレー好きなのに、こういう時になると慣れ親しんだ料理の価値が低く感じられるのはなんでだろう?
ライスはどうすると聞くので、隣のおじさんが食べていた丸くて薄いクレープのようなものを指差してあれがいいと伝えると、「ブレッド」と言った。

これが「ブレッド」である。
2枚重ねで置かれ、当然温かいものだと思って手に取ると何と冷たかった。
まさに作り置きのパンなのだ。

エビカレーとブレッドと紅茶、そしてサービスのサラダがテーブルの上に並んだ。
エビカレーと言っても、シュリンプなので桜エビくらいの小さいのが入っているだけで野菜も少ない。
でも食べ始めると、このスープばかりのカレーがブレッドととても相性がいいことがわかった。

よく見ると、カフェの隣にベーカリーと書いてあるのに気づいた。
ブレッドを買い求める客が次々にやってくる。
どうやらこの店のブレッドは美味しいらしい。

実際、ブレッドは適度な塩味もあって、それ自体が美味しいのだ。

最後は紅茶にお砂糖をたっぷり入れて。
見た目はちょっと貧相に見えたが、スークでいただくカフェランチは正解であった。
お勘定は全部で3ディナール、ざっと1000円ぐらいだった。

スークは夜になると一段とエキゾチックになる。
バーレーンはクウェートよりも南に位置するので夜になっても20度近くある。

人出も夜の方が多いようで、私も何も買いもせず、ただただ狭い路地をうろついた。
黒い服の女性に見とれていたらタイミングよく礼拝を呼びかけるアザーンが流れる。
なんともいえず異国に来た感じがした。
どうやらイスラムの世界にハマりつつあるようである。