2週間に及んだ岡山への帰省から今日吉祥寺に戻ってきた。
東京も寒い。
コロナが一服しているせいもあって街には人が溢れていて、井の頭公園を見ると少し色が変化した木も目につくようになった。
しかし、特筆するような変化もなく、古ぼけたマンションはいつものように私たちを迎えてくれた。
東京での日常・・・岡山での生活のように自然と戦う必要もなく、人間のペースですべてが進んでいく。
それはそれで心地よくもあるのだが、ちょっと物足りないような気分にもなる。
岡山を発つ朝、昨日植えたオリーブとハーブに肥料をやっていなかったことを思い出し、園芸用の土と水を撒きに行った。
日露戦争で死んだ私の先祖のお墓の向こうに朝日が昇る光景は、ちょっとオペラのセットのように見えた。
来月再びこの場所を訪れるときには、どんな様子になっているのだろう?
自然を相手にするお仕事にはまだ慣れていないので、先が読めず、その分ちょっとスリリングな楽しみもある。
今回の岡山帰省で、私が新たに学習したことの中に「ひっつき虫」がある。
「ひっつき虫」と言っても昆虫ではなく、植物だ。
草刈りのために生い茂った雑草の中に分け入ると、作業を終えて出てくることにはズボンがこんな状態になる。
大量の「ひっつき虫」が繊維に絡みつくのだ。
最初はその正体がわからなかったのだが、2週間、雑草との戦いを繰り広げるうちに敵の正体がわかってきた。
「ヌスビトハギ」というマメ科の植物である。
セイタカアワダチソウのように強い自己主張をせず、他の雑草の中に密かに紛れ込んでいる。
そして気づかずに側を通り過ぎる人間や動物に細かい毛が生えた種をくっつけて別の場所に運ばせるのだ。
最初は無防備にたくさんの「ヌスビトハギ」の種を運ばされていたのだが、敵の正体がわかってからは事前に発見して優先的になぎ倒して「ひっつき虫」攻撃を防ぐことができるようになった。
そして、シルバー人材センターのおじいさんから「ひっつき虫」に関する耳寄りな情報を教えてもらった。
「ヌスビトハギ」の種を取るのに、ウェットティッシュが有効だというお話だ。
普通のティッシュに比べてウェットティッシュは丈夫で繊維のキメが粗いためだと思うが、ウェットティッシュでつまみ取ると確かに手で1つ1つ取るよりも効率的に剥がせるように感じる。
衣服よりもウェットティッシュの方がよりひっつきやすいということなのだろう。
それでもズボンにくっついたまま数日放っておいた種はウェットティッシュを使っても容易に剥がすことができず、「ひっつき虫」は見つけ次第に取り除くことが肝要なようだ。
この季節、各地で草刈りをするシルバーさんたちにとっても「ひっつき虫」は厄介者で、お互いに情報交換をするうちにウェットティッシュを使った対処法が編み出されたのだろう。
「ひっつき虫」には他にもいろいろな種類がある。
この槍のような種子もその1つで、こいつが刺さるとチクチク痛いので厄介だ。
こいつの正体は「センダングサ」というキク科の雑草である。
「センダングサ」の花は白や黄色の可憐な野菊なのだが、その花が散ると後にこんないかつい種子が残る。
先端が硬く二股に分かれていて、これが遭遇した人の衣服にくっつくのである。
伯母の留守宅の裏庭にもこの「センダングサ」が生えていて、知らずに草刈りをしていて手や足にたくさんの槍を突き立てられた。
こちらの「ひっつき虫」は痛いのですぐに気づき、剥がすのも簡単なので個人的にはさほどの脅威ではなかった。
とはいえ、これまで60年以上、真剣に自然に向き合ってこなかった人間にとって、田舎暮らしは未知との遭遇の連続である。
それでも、知らなかったことを知るのは幾つになっても楽しいことだ。
情報が溢れる都会に暮らし、広い視野から世界の神羅万象と向き合うのも楽しいが、田舎の狭い範囲で身の回りにある自然と向き合いささやかな発見をする生活もこれまた楽しい。
伯母の入院で突如始まった二拠点生活。
隠居生活ならではの贅沢をせいぜい楽しんでいきたいと思う。
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