<吉祥寺残日録>頑張れテレビ! BS世界のドキュメンタリー「薄氷のシベリア 温暖化への警告」が伝える恐ろしい現実 #210129

昨日、東京に雪が降った。

天気予報では雪の予報など一切なかったが、都心でも降ったらしい。

それでも、雪は数時間降っただけで雨に変わってしまった。

吉祥寺に引っ越してまもなく5年になるが、一面を銀世界に変えるような大雪は2018年1月の1回だけである。

そんな日に、恐ろしいドキュメンタリー番組を見た。

BS世界のドキュメンタリー『薄氷のシベリア 温暖化への警告』。

今週火曜日にNHK-BS1で放送された番組だが、制作したのはドイツのプロダクション「ALTAYFILM」、2020年の作品だ。

自然科学番組のアカデミー賞ともいわれるJackson Wild Media Awardなど数々の賞を受賞したというだけあって、シベリアというあまりテレビで紹介されることのない大地で今何が起きているのか、驚かされることの連続だった。

この番組の中から、私が気になったシーンを書き残しておきたいと思う。

番組冒頭でまず度肝を抜かれるのは、シベリアのツンドラ地帯にできた巨大なクレーター。

温暖化によって永久凍土が溶け出して自然が作り出した穴だという。

まるで、カルデラ噴火の跡のように周辺が切り立った崖になっていて、その表面を今も染み出した水が流れ落ちる。

場所は、シベリア北東部サハ共和国のバタガイ。

この無人の大地にポッカリと開いたクレーターにやってきたのは「ボーンハンター」と呼ばれる若者たちだ。

彼らは溶けた凍土の中から数千年前の骨を見つけ出し一攫千金を狙っている。

バイソンの骨や牙はよく見つかるが、サイの骨を見つけたこともあるという。

3年前には保存状態のいい大昔の子馬が見つかり、肉や皮の残ったままだった。

こうした永久凍土から掘り出された太古の有機物を分析した研究者が、未知の巨大ウイルスを発見し、世界の衝撃を与えた。

シベリアで発見された巨大なウイルスはおよそ3万5000年前のものだった。

一般的なウイルスに比べると直径は20倍、体積にすると8000倍という大きさで、今も生きていたのだ。

2016年、シベリアのヤマル半島である事件が起きた。

永久凍土の中からトナカイの死骸が見つかり、そこで生き残った病原菌が遊牧民に感染し広がったのだ。

この病原菌は炭疽菌だと判断され、感染拡大を防ぐため地域全体が封鎖された。

トナカイの死骸を燃やした場所を1年後に再び調査すると、炭疽菌の「芽胞」が非常に高い濃度で検出され、現在も立ち入り禁止となっている。

ロシア極北地方の先住民ネネツ人は、トナカイの遊牧民としてずっと暮らしてきた。

夏には北極海沿岸の放牧地で暮らし、冬になると延々と続く雪原を横切って内陸の牧草地に南下する。

途中、川幅が数キロに及ぶ大河オビ川を渡らなければならない。

が、ここ数年、川が凍るのが1ヶ月遅くなり、1000頭のトナカイの重さに耐えられるほど氷が厚くなるまで川の手前で待たされるようになった。

気温は氷点下10度、十分な厚さの氷が張るためには氷点下30度以下の日が数日続く必要があるという。

北極圏の生態系も大きく変化している。

番組で紹介されるのは極北の地で生きるゾウゲカモメ、近年コロニーが消え、個体数が急速に減少しているという。

研究者たちは、氷がなくなりアザラシが捕食できなくなったホッキョクグマが生きるためにカモメを襲っていると推測している。

2019年の夏、海岸から160キロの内陸にある工業都市ノリリスクで初めてホッキョクグマが目撃された。

凍った峡谷を通って移動していた野生のトナカイも、氷が早く溶けるため生まれたばかりの子供も泳いで川を渡らねばならなくなっている。

「北極圏の季節はバランスを崩し始めている」と番組は警告する。

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近年、シベリアでは大規模な森林火災が発生している。

2019年夏には、過去最大500万ヘクタールを超える森林を焼失したという。

シベリアの中央ヤクーチアにある針葉樹林帯「タイガ」で現地調査を行っている一人の日本人研究者が番組に登場する。

森林生態学者の檜山哲哉さんと紹介されていたが、調べてみると名古屋大学の宇宙地球環境研究所教授だとわかった。

このエリアには厚みのある永久凍土が広がっていて、「活動層」と呼ばれる表層部は夏は氷が溶け植物が根を張る、その活動層を長年観測しているのだ。

檜山教授によれば、活動層の厚みが年々増し、温度も上がっていることがわかった。

活動層には大量の水分が蓄えられているはずだが、温度上昇によって乾燥が進みみ、その結果森林火災が増えていることがわかってきた。

この40年間で、シベリアの自然は大きく変わった。

ツンドラがサバンナのような状態になりつつあるのだ。

さらに怖い話がある。

シベリアの大地の地下には、「有機物の時限爆弾」が眠っているというのだ。

永久凍土が溶けていることが原因で、ツンドラ上空の二酸化炭素やメタンなど温室効果ガスの濃度が高まっている。

2014年夏、複数の隆起がヤマル半島のツンドラ地帯で見つかり、調査の結果メタンガスが押し上げた隆起だとわかった。

こうした隆起からはやがてメタンガスが噴出し、大地にポッカリ大きなクレーターを作られる。

その数はこれまでに300以上出現し、今も増え続けているという。

地球物理学者のウラジーミル・ロマノフスキーはこう警告する。

『もし気候温暖化が過去30年と同じペースで続いたら、21世紀の終わりまでにシベリアの永久凍土の75%、あるいはそれ以上が溶けてしまうと考えていいでしょう。永久凍土には大気のおよそ2倍の炭素が含まれています。この炭素が二酸化炭素やメタンの形で大気中に放出されると、気候温暖化は加速し取り返しがつかない事態になります。すべてを再び永久凍土に閉じ込めるには新たな氷河期が必要です。人間には長すぎますね。』

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未知のウイルスとメタンガスのクレーター。

シベリアの現実を知れば知るほど絶望的な気分になってくる。

2019年8月、ロシア海軍の調査隊は北極海で5つの新しい島を発見した。

これまで氷河の下に埋れていた島々である。

しかし、広大なシベリアを支配するロシアからは研究者たちが求める科学的なデータはあまり提供されていないそうだ。

シベリアで何が起きているのか解明されていないことこそが、真の危機だと感じながら、私も環境意識をもう一段引き上げねばと思った次第である。

そしていつか、私もシベリアを取材してみたいと思った。

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