今日から「小満」の次侯「紅花栄(べにばなさかう)」となる。

「ベニバナが盛んに咲く頃」という意味だそうだが、井の頭公園では「ベニバナ」は見たことがない。
そこで調べてみると、ちょっと意外な記述を見つけた。
お天気のサイト「tenki.jp」に掲載されていた『「紅花」はベニバナのことではなかった⁉ 七十二候「紅花栄」』という不思議なタイトルの記事にこう書かれていたのだ。
5月26日より、小満の次候「紅花栄(こうかさかう/べにばなさかう)となります。「紅花」が栄える=花盛りとなる、という意味だと即理解できますが、この紅花とは、赤い染料やサフラワーオイルを採ることで有名な栽培植物ベニバナのことである、と一般的には言われています。けれども、ベニバナの花期は7月から8月にかけてであり、明らかに5月末のこの時期とはずれています。そのずれは1ヶ月以上で、到底紅花がベニバナであるとは思われません。だとしたら、何の花なのでしょうか。
引用:「紅花」はベニバナのことではなかった⁉ 七十二候「紅花栄」
この記事を参考にさせていただきながら、梅雨直前の井の頭公園をひと回りしてみようと思う。

昨日は梅雨間近とは思えない素晴らしい青空が広がっていた。
御殿山の山野草エリアでは、多種多様な草が入り乱れて熾烈な生存競争が繰り広げられている。
当然のことながら、「ベニバナ」はない。

このところ勢力を急速に拡大させているのは「ドクダミ」だ。
公園の至る所で他の植物を駆逐し、白い可愛らしい花をたくさん咲かせている。
「ドクダミ」には毒はなく、逆に古くから毒下しの民間薬として利用されてきた。

白い花びらのようなものは「総包」で、黄色いウジャウジャした部分が花の集合体だそうだ。
「ドクダミ」の花には花弁はなく、雌蕊1本に周りに雄蕊が3〜8本がセットになっている。

黄色い花も咲いていた。
「ベニバナ」ではなく、「ノゲシ」だ。

背が高いので、他の植物をかき分けて成長するが、まったく美しい草ではない。
春と違って、この季節になると、「ノゲシ」のような見るからに悪役っぽい植物が幅を利かせるようになる。

これから咲く蕾がまだあるのに、すでに綿毛も飛ばしている。
こうしてしぶとく子孫を残していくのだろう。

「オニノゲシ」の隣には、ピンクの花を咲かせる「アザミ」の仲間。
こちらもお世辞にも美しいとは言えない。

井の頭池の北側に設けられた「ハンノキ」の育成地では、こうした背の高い夏の雑草が覇を争い、荒々しい光景になってしまった。
植物観察を始めた頃の、早春の草花が懐かしい。

先ほどの「tennki.jp」の記事に話を戻すと、筆者は「紅花栄」の紅花は「サツキ」のことだと推理している。
「紅花」と言う言葉には、ベニバナという特定種を指す場合と、赤い花全般をさす場合、ふたつの意味があります。つまり紅花栄は、ベニバナでない別の「紅い花が花盛りを迎える」、ということになります。では、春海が想定した「紅い花」は、何の花だったのでしょうか。
5月末のこの時期に盛りを迎える赤い花。ぴたりとあてはまる花があります。サツキツツジ(皐月躑躅 Rhododendron indicum)です。名前のとおりツツジの一種ですが、江戸時代には特にサツキツツジの盆栽人気が高まり、他のツツジと区別して「サツキ」と呼ぶのが一般的。一般的なツツジが4月に咲くのに対して、サツキの花期は5月後半から6月にかけて。まさに時期は一致します。
引用:「紅花」はベニバナのことではなかった⁉ 七十二候「紅花栄」
季節の進みが早い今年は、ツツジやサツキの花もすでに井の頭公園から消え去ろうとしている。
変わって花の時期を迎えたのが、梅雨が似合う「アジサイ」だ。

七井橋近くの売店の脇に咲いていた白いアジサイ。
昔はアジサイといえば、青か赤紫と決まっていたが、最近では白いアジサイもよく目にするようになった。

「ひょうたん橋」の近くには、水色のアジサイ。
花びらに見える水色の部分は萼が大きく発達した「装飾花」で、その中央にあるはずのほとんど退化して小さくなっている。
こうした一般的なアジサイは日本原産の「ガクアジサイ」を元にした園芸種として開発され、それが西洋に渡ってさらに改良され逆輸入されたのが「セイヨウアジサイ」なのだそうだ。

つまり、元を辿れば日本の海岸近くに自生していた「ガクアジサイ」がルーツなのだという。
今でも、房総半島、三浦半島、伊豆半島、伊豆諸島などに自生しているそうだが、周囲を「ガク」と呼ばれる「装飾花」が囲み、中央部にたくさんの小さな花が密集している様子こそが、本来のアジサイの姿なのだと知ると、「ガクアジサイ」の方がありがたく見えてくるから不思議だ。

しげしげと「ガクアジサイ」の花を見つめる。
青と黄緑の小さな蕾。
造形的にも面白く、とてもアートだと感じる。

これが花開くと、青い雄蕊が王冠のように広がる。
「へ〜、こんなになってるんだ」
「ガクアジサイ」をこんなにしげしげと観察したのは初めてだった。

よ〜く見ると、これまで見えなかったものが見えてくる。
それは植物だけではない。

カタツムリ。
久しぶりに見た気がする。
季節は確実に梅雨に向かっているのだ。

ヘビもいた。
水面を泳いで、浅瀬を音もなく這いながらエサを探している。
そして・・・

そして、この日、一番の発見はこいつ!
「ニホンスッポン」だ。
しかし、まだ小さい。
成長したスッポンは30cm以上になるというが、こいつはまだ体長10cmほどだろうか?

浅瀬の丸太によじ登り、日光浴を始める。
スッポンというのは、普段は水底に潜って過ごしているが、皮膚病に弱いので時々こうして陸上に上がり甲羅干しをするのだ。

もう1匹、いる。
よ〜く見ると、結構ひょうきんな顔だ。
噛みつくと離さないとしてしつこい性格の代表格とされるスッポンだが、噛まれてもじっとして水中に入れれば、スッと離れて逃げていくという。

このサイズの子どものスッポンが2匹いるということは、どこかに大きな親亀もいるということだ。
水質が改善された井の頭池で、昔からの生態系は確実に復活しつつある。
そうそう、スッポンといえば・・・
昔から「月とすっぽん」という言葉があるが、今夜はスーパームーンの皆既月食が見られるそうだ。
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