2021年のテーマとして掲げた「井の頭公園の植物」観察。
4月ももう中旬ともなると、井の頭公園は一面の緑に覆われて、3月の目まぐるしく変化する極楽を思わせる色彩は失われていく。

記録に残さなかったこの半月の間に、井の頭公園の植物の様相も大きく変化し、どこから書いていいのやら戸惑ってしまうほどだ。
そこで、4月の初回は遅咲きの桜をまとめておくことにした。
場所は西園の「文化交流広場」。

19種類の桜が植えられた見本市会場のような一角では、すでに「ソメイヨシノ」が散り、それと入れ替わるように遅咲きの八重桜たちが咲き誇っている。
「ウワミズザクラ(上溝桜)」

先週、岡山から戻ると、妻が「すごい桜が咲いている」と私に教えてくれたのが、この樹木だった。
公園管理事務所が発行している「サクラ植栽マップ」を見ると、この木は『ウワミズサクラ』というらしい。
一見すると、とても私たちがイメージする桜とはほど遠い。

真っ白な小さな花が穂の姿に集まり、白いネコヤナギのような花を開かせている。
「これが桜?」
それが素直な第一印象だった。
4月から5月にかけて白いブラシのような穂状の花(写真)を咲かせる。直径6~8ミリほどの小さな花の集まりであり、ソメイヨシノのようなサクラの花のイメージとは程遠く、鑑賞のために人が集まることはほぼない。むしろ秋の紅葉の方が派手で人目を惹く。紅葉は環境によって紅、ピンク、黄色と様々。
引用:庭木図鑑 植木ペディア

確かに、緑の葉と白い花で遠目にはあまり目立たない。
しかし、白い花を好む妻がこの桜に注目したように、私も遅咲きの桜の中で、「ウワミズザクラ」が一番気に入った。
通好みの地味な花であり、花を目的に植栽されるケースは少ない。
出典:庭木図鑑 植木ペディア
そうだとすると、私たち夫婦は「通」ということになる。
でも、私同様、この桜が気になる人がいるようで、私が一生懸命写真を撮っていたら、2−3人のおばさんから「この花は何ですか?」と質問された。
「ソメイヨシノ」よりも「オオシマザクラ」が好きな人には、八重桜よりこの「ウワミズザクラ」がオススメである。
「ウワミズザクラ」 分類:バラ科ウワズミザクラ属 特徴:落葉広葉樹・高木 花が咲く時期:4〜5月 実のなる時期:8〜9月
「ウコン(鬱金)」

次に私の目に止まったのは、薄緑色の花を咲かせる八重の桜『ウコン』。
オオシマザクラ系のサトザクラであり、江戸中期以前に人の手によって作られた品種と考えられている。花弁が香辛料で知られるウコン(鬱金)に似た萌黄色になることからウコンザクラと名付けられた。
黄色い花を咲かせる唯一のサクラであり、清酒「黄桜」はこの花にちなむ。また、金運アップのパワースポットとして知られる昇仙峡の金櫻神社は、本種の黄色い花を金色に見立てて御神木としている。こうした例外を除き、日本では公園や植物園の一部に見られるのみだが、欧米ではより人気が高い。
出典:庭木図鑑 植木ペディア

ところどころにピンク色を残している花もある。
咲き始めは薄緑色で、すぐに白くなり、やがてピンクの部分が出てくるそうだ。
私は全般的にボテっとした八重の桜は好きではないが、「ウコン」はこの色のせいで嫌味がない。
欧米で人気があるというのもよくわかる気がした。

西園にはこの「ウコン」が2本植えられているが、周囲のド派手な八重桜に埋もれて肩身が狭そうだ。
いっそのこと、「ウコン」ばかりを植えた一画を作ってもらいたいものである。
「ウコン」 分類:バラ科サクラ属 特徴:落葉広葉樹・高木 花が咲く時期:4月中旬〜下旬
「シズカ(静香)」

白い桜ということでいえば、この『シズカ』も気になった。
広場の中心部に1本だけ植えられている。

浅利政俊作出。1960年に天の川に雨宿を交配して育成された品種です。香りが強い白色の優美な花を生み出そうとして育成した品種で、芳香を有することに因んで名づけられました。
出典:桜図鑑
戦後生まれた新しい品種で、作者の名前もわかっているというのだ。
浅利政俊さんは北海道を中心に活動する桜研究者で、小学校教諭時代に松前公園を桜の名所にした人だという。

桜の世界も、人間の手によって現在もまだ進化中のようだ。
「シズカ」 分類:バラ科サクラ属 特徴:落葉広葉樹・高木 花が咲く時期:4月中旬
「イチヨウ(一葉桜)」

「サクラ植栽マップ」の1番に書かれていた桜がこの「イチヨウ」。
最初「イチョウ」という名前かと誤読していたが「一葉=イチヨウ」であった。
オオシマザクラ系統に属するサトザクラの代表的な品種。西日本にはあまり普及しておらず、一般的な知名度は高くないが、関東地方では数多く植栽される。毎年、総理大臣が主催する「桜を見る会」の主役はこのサクラ。
出典:庭木図鑑 植木ペディア

厚ぼったい八重の花弁がたくさんぶら下がって重そうだ。
あの「桜を見る会」の主役がこの桜だったとは知らなかった。
ゴテゴテと厚化粧した野暮ったさは、日本の政治を象徴するようにも見えてくる。

しかし、花に罪はない。
近づいて花の一つ一つを見てみれば、それほどいやらしくもなく可憐なものだ。
「イチヨウ」 分類:バラ科サクラ属 特徴:落葉広葉樹・高木 花が咲く時期:4月中旬
「カンザン(関山)」

「ソメイヨシノ」も「オオシマザクラ」も散った西園で、今最も幅をきかせているのがこのピンクの派手な桜だ。
『カンザン』という品種らしく、広場の中心付近に3本まとまって植えられている。

その花は、とにかく派手でまったく私好みではない。
日本を原産とするサトザクラ及びヤエザクラの代表種。花は大型の八重咲きで、ピンク色が濃く、花びらの重なりが多い。その派手さと性質の強健さが西洋人に好まれ、欧米文化圏をはじめとして世界各地に植栽される。
オオシマザクラから作出された交雑種と考えられるが、その歴史は古く、似たようなサトザクラであるフゲンゾウと共に奈良時代から伝わるという。
出典:庭木図鑑 植木ペディア

私のように地味なものを愛する人は少数派であり、やはり今の時期、最も多くの人が写真を撮っていたのは、この「カンザン」だった
でも、私は好きではない。
「カンザン」 分類:バラ科サクラ属 特徴:落葉広葉樹・高木 花が咲く時期:4月〜5月上旬
「フゲンゾウ(普賢象)」

派手な「カンザン」の裏でひっそり咲いていたのは『フゲンゾウ』。
実は、「カンザン」と並ぶ代表的な八重桜で、室町時代以前に作られた歴史ある品種だという。

花の中央に象の鼻のような「変わり葉(雌しべが変化したもの)」がある。これを「普賢菩薩」が乗る白い象の鼻(または牙)になぞらえてフゲンゾウと名付けられた。(まわりの白い花弁も象の耳に見立てるという説ある。)「象の鼻」は個体差が大きくて色形には様々なバリエーションがあり、「象の鼻」がない花もある。
出典:庭木図鑑 植木ペディア
言われてみて写真をよく見てみると確かに「象の鼻」のように太い雄しべが見えなくもない。
昔の人は観察力が優れていたのか、単に暇だったのだろうか?
「フゲンゾウ」 分類:バラ科サクラ属 特徴:落葉広葉樹・小高木 花が咲く時期:4月下旬
「センリコウ(千里香)」

半分花が散りかけたこちらの桜は『センリコウ』。
サトザクラ系の園芸品種で、東京・荒川堤で栽培された。

一重から半八重の花が枝にびっしりとついている。
花の色は白を基調にわずかにピンクが混じり、その芳香から「センリコウ」の名がついた。
「センリコウ」 分類:バラ科サクラ属 特徴:落葉広葉樹・高木 花が咲く時期:4月上旬〜下旬
「スルガダイニオイ(駿河台匂)」

茶色っぽい若葉とともに花を咲かせていたのは『スルガダイニオイ』。
この時期としては珍しい一重の桜だ。
江戸のサクラの名所、荒川堤に植えられていた品種の一つ。かつて駿河台のある庭園にあったこと、花に強い芳香があることからこの名がついた。
出典:神大植物公園へ行こう

西園の隅っこに2本植えられているが、まったく目立つことなく、この桜に関心を向ける人もあまりいないようだ。
「スルガダイニオイ」 分類:バラ科 特徴:落葉広葉樹・亜高木 花が咲く時期:4月中旬〜下旬
井の頭公園の「遅咲き桜」はこちら!


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