2021年のテーマとして掲げた「井の頭公園の植物」観察。
春分の近くと、がぜん公園が賑やかになってくる。

特に御殿山の山野草エリアは日々変化していて、2〜3日見ないと、名前もわからない植物が次々に顔を出す。
そこで、図書館で一冊の本を借りてきた。
1987年に出版された本で写真はちょっとしか載っていないのだが、元朝日新聞の記者の人がリタイア後に書いた本なので、文章がなかなかお上手なのだ。
この本の中に登場する春の植物を2つ、記録しておこうと思う。
「カタクリ」と「ヤブレガサ」である。
「カタクリ(片栗)」

山野草エリアのところどころに咲くこの小さな花が「カタクリ」である。
その名の通り、かつてこの植物の根から「片栗粉」が作られた。
いま流通している片栗粉は、じゃがいもの澱粉だという。

『多摩の植物散歩』を記した横田さんはこのように書いている。
万葉の名花カタクリをほめたたえる言葉を聞いていると、花の賛辞ここに集まるの観さえある。そのカタクリを、この春、多摩の三カ所でふんだんに見た。だが、場所を書かれるとすぐ荒らされるからという白い目を感じないわけにはいかない。自然を守ろうとする会の人たちの間ですら、そのありかを明かさない場合さえあって、いまやこの野草は、はれものに触れるような存在になっている。
引用:横田正平著『多摩の植物散歩』
かつては、春を代表する野草だったカタクリはいまや貴重な存在となり、盗む人もいるようなのだ。

もともとは、山地の林内に群生していた。
朝日を浴びると花を開き、夕方になると閉じるという。
曇天の日には花を開かないこともあるそうだ。
こんな可憐な花とは対照的に、1〜2枚つく葉はまだら模様であまり美しくない。

「カタクリ」は、「春の妖精」(スプリング・エフェメラル)と呼ばれる植物の一つ。
「はかない命」という意味通り、カタクリが地上に姿を見せるのは春先の2か月足らずに過ぎない。
「初恋」というその花言葉も、そんなはかなさを表しているのか・・・。
夏には葉を枯らし、翌年の春まで土の中で休眠状態に入る。

横田さんの著書にカタクリの名所が紹介されていた。
高尾山麓の東京都自然科学博物館前を流れる案内川を2キロあまりさかのぼると南浅川町の梅ノ木平。そこの山を背にした農家の西北向き斜面にびっしり咲くカタクリは、いまや名所となった。花時には毎年、新聞記事になるし、定連の愛好家、評判を伝え聞いた遠くの人たちと、かなりの見学者がある。
引用:横田正平著『多摩の植物散歩』
農家の人の善意で守られた貴重なカタクリの群生地、横田さんが見た日から30数年、今も残っているだろうか?
「カタクリ」 分類:ユリ科カタクリ属 特徴:多年草 花が咲く時期:4〜6月
「ヤブレガサ(破れ傘)」

「ヤブレガサ」と書かれた立て札の根元に、「ヤブレガサ」の葉を見つけたのは数日前のことである。
山野草エリアでは立て札と植物の位置が必ずしも一致しないので、これほどピッタリな場所に顔を出すことは珍しい。

この「ヤブレガサ」について、横田さんはこんなことを書いていた。
お前さん、こんな所にいたのか、と声をかけたいほどだった。この草が土から頭をもたげ、切れ込みの深い、白毛だらけの葉がほどけ始めるころの容姿は、雪男が足を引きずって行く後ろ姿に似た妖気がある。それでいて、こどもっぽい飄逸さも感じさせる。色あいも、ごくありふれた緑の葉に灰をぶっかけたようなぶざまさで、まさに八方破れの破れ傘だ。それでいて人気があるのだから、野草界の渋いスターといえる。
引用:横田正平著『多摩の植物散歩』

横田さんが「野草界の渋いスター」と呼んだ「ヤブレガサ」。
この後どんどん成長し、高さは1メートルほどにもなるという。
でも人気があるのは、土から顔を出した今の季節だけで、花が咲く夏にはほとんど見向きもされないようだ。
その後、これとは何度も会っているのだが、開ききった葉には、さっぱり興がわかなかった。「茂りてははや忘れらるるやぶれ傘」(迪子)。ときには虫食いだらけのさんばら姿が哀れだった。そして夏に咲くという白い花に気づいたことがない。
引用:横田正平著『多摩の植物散歩』
それでも、破れ傘に似たその不気味な姿がなぜか人の心をひく。
不思議な植物である。
「ヤブレガサ」 分類:キク科ヤブレガサ属 特徴:多年草 花が咲く時期:7〜10月
井の頭公園の「山野草エリア」はここ!

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