中国バブル

中国経済はいかにして急成長したのか。バブルは弾けるのか。

「橘玲の中国私論」には、「現代の錬金術」と題して、中国に存在する「影の銀行」や「」など、そのカラクリが書かれている。

そもそもの原因は中国の金利政策にあるという。

『中国では人民銀行(中国政府=共産党)が預金基準金利と貸出基準金利を決めており、銀行間で競争が起きないようにしていた。銀行は預金基準金利でお金を集め、貸出基準金利で融資することで確実に3%程度の利ざやを得ることができる。日本をはるかに上回る過保護ぶりだ(その後、貸出基準金利は撤廃)。 預金者の(マイナス金利)という犠牲の上に貸出金利を低く抑える効果がある。その結果、中国で公共投資の爆発的な拡大が起きた。』

『この金利政策によって、中国の人々は常にマイナス金利を余儀なくされている。これは預金者にとって「銀行預金しても損するだけ」ということだが、一方の金融機関も預金金利を引き上げて顧客を勧誘することが認められていないのだから、資金調達に限界がある。こうして影の銀行(シャドーバンキング)が登場することになった。 この闇銀行は政府の管理下になく、金融システムを混乱させる要因になるので、結局は厳しい取り締まりによってほとんど消滅してしまった。 それでどうなったかというと、あろうことか、表の銀行が闇銀行を取り込んでしまったのだ。』

闇銀行が一掃されると同時に、中国の銀行は「理財商品」と呼ばれる高金利のファンドの販売を始める。高い金利でお金を集め、それを中小企業などに融資する。

ただ、この理財商品には、誰がリスクをとっているのかわからない仕組みになっていた。

顧客には「元本保証」と説明され、商品を組成した信託会社にはリスクを引き受けるだけの財務基盤がなく、最終的に販売した金融機関の責任だが、実質的には地方政府の保証が付いている。理財商品のリスクは最終的には地方政府が尻拭いすることになる。

そんな理財商品の残高は2013年3月末で130兆円。中国のGDPの16%、人民元預金残高の12%に匹敵する。JPモルガンのアナリストは、「影の銀行」の融資残高は中国のGDPの約7割に当たる36兆元(約684兆円)にのぼると試算している。

『中国の“闇の金融システム”は、地方政府の不動産開発事業と結びついて、“人類史上最大”とも称される巨大なバブルを生み出した。』

この錬金術の仕組みを川島博之氏の「データで読み解く中国経済」に求める。

2006年以降5年間の中国市場への投資額の平均増加率は27%で指数関数的に増えている。近年の中国の経済成長は、日本のGDPに匹敵する巨額の投資によって支えられている。

投資の内訳を見ると、国家予算、国内借款、外資は低下傾向にあり、それを補っているのが「自己資金」であり、2010年にはその割合が78.5%にもなっている。

『464兆円もの「自己資金」は一体どこから来るのだろうか。川島氏によれば、無から有を生み出す錬金術のカラクリは中国の急速な都市化にある。 都市化というのは農村から都市に人口が流入して来ることで、中国ではこの30年間に4億人の人口移動が起きたとされている。人口が増えると、当然、彼らが暮らすための住宅が必要になる。4億人を受け入れるのに必要な住宅の数は1.3億戸だ。中国では都市化に伴い、九州よりも一回り大きな土地が宅地へと開発されたことになる。』

『農地を宅地にかえるには、農民に対する保証が必要になる。だが農民が持っているのは使用権だけなので、これまでは数年分の年収が支払われるだけだった。』

川島氏は、地方政府(土地開発公社)が土地を取得するコストは1平米あたりわずか10元、日本円にして約190円になると試算する。

そして、巨額の「自己資金」の実態は、地方政府が不動産開発によって得た利益だとみる。

『中国の地方政府は1平米あたり10元で仕入れた土地を1000倍の1万元で販売することで巨額の利益を生み出している。これが、中国の“錬金術”の正体だ。』

『中国の地方政府は巨大な不動産開発会社で、農民から収奪した土地を整地し、道路や空港、高速鉄道の駅を作り、地下鉄網を整備し、マンションや商業施設、公園や公共施設を建設して土地の付加価値を上げようとする。そのためには巨額の建設資金が必要で、不動産の売却益は「自己資金」となって土地開発に投じられることになる。こうした裏マネーの循環によって、中国各地で地価が上昇してきた。 ところが最近になって、マネーの流れに異変が生じるようになった。一つは農民の権利意識が強くなったことで、以前のようにタダ同然で土地を手に入れることができなくなった。もう一つは、不動産価格の上昇が鈍ってきたことだ。』

こうした変化の中で、地方政府は「融資平台」と呼ばれる投資会社を設立し、高利の理財商品によって資金を集めているという。

『中国全体の地価総額は266兆元(約5054兆円)で、中国のGDPの6.6倍になる。バブル最盛期の日本の地価総額は、当時のGDPの約4.4倍だった。中国の不動産バブルは異常で、人類史上最大と形容されるのも無理はない。』

さらに本書では、ブルームバーグの2人のジャーナリスト、ヘンリー・アンダースンとマイケル・フォーサイスの「チャイナズ・スーパーバンク」という本に言及する。貸出残高108兆円という世界有数の金融機関でありながらその実態がほとんど知られていなかった国家開発銀行(中国開銀)と、この巨大組織に君臨したカリスマ的リーダー陳元の世界戦略が描かれている。

中国開銀は国内のインフラ投資に長期資金を提供する金融機関で、その役割はかつての日本興業銀行など長期信用銀行と同じだ。

『1992年、朱鎔基は乱脈な財政に規律をもたらすため、法律を改正して赤字予算と地方債の発行を禁じ、地方政府が直接、借金できないようにした。 地方政府は独自に資金調達する(金儲けする)以外に、生き延びる道がなくなってしまった。』

『陳元と中国開銀のスタッフたちは、地方政府の財政問題を解決するとともに自らの融資を飛躍的に伸ばす素晴らしい方法を編み出した。後に「融資平台」と呼ばれるようになる特別目的会社の設立だ。』

大都市郊外の土地を地方政府が農民から安く徴用し、銀行の融資によってインフラ整備を行えば地価は大きく上昇し、地方政府はこの土地を売却することで巨額の収入を得て、そこから融資の返済を行なう、という仕組みが作られるのだ。

その具体例として書かれているのは、天津市と中国開銀による「東洋のマンハッタン」計画だ。

続いて本書では、大泉啓一郎氏の「老いてゆくアジア」に言及する。

多産多死から多産少死、さらに少産少死社会へという人口動態に着目し、大泉氏は、日本の高度成長が人口ボーナスで説明できるように、失われた20年は人口オーナスで説明可能だとした上で、東アジアの国々でも、今や遅れてきた人口ボーナスが終わりつつあると述べる。

『韓国は朝鮮戦争が、中国は膨大な飢餓者を出した大躍進政策と文化大革命が、ベトナムはアメリカとの長い戦いがあって、本格的なベビーブームの時期が日本よりもずっと遅れたからだ。

「アジア四小龍」と呼ばれた韓国、台湾、香港、シンガポールは日本からほぼ20年遅れて人口ボーナスが始まり、1980年代に「東アジアの奇跡」を起こしたが、これらの国の出生率は日本よりも低く高齢化が急速に進んでおり、この1〜2年で人口オーナスの時期に入ることになる。

文化大革命後にベビーブームの起きた中国は日本からほぼ30年遅れて人口ボーナスが始まり、1990年代からの改革開放による爆発的な経済成長につながった。中国の成長が他のアジア諸国を圧倒したのは、多産少子から少産少死への移行から生じる人口ボーナスとともに、農村から沿岸部の都市への労働人口の大規模な移動が生産年齢人口の急増をもたらし、人口ボーナスにレバレッジをかけたからだ。しかしその中国も、一人っ子政策などの影響で少子高齢化が進むのも速く、2010年代からは人口ボーナスの効果はほとんどなくなり、早晩、人口オーナスの停滞期を迎えることになる。』

日銀副総裁を務めた経済学者の西村清彦氏の説にも言及する。

『各国のデータを比較検討すると、生産人口比が上昇するにつれて不動産価格が上がってバブルが大きくなり、生産人口比のピークを過ぎるとバブルが崩壊する傾向がはっきりと表れている。

日本の生産人口比が最大になったのはバブル崩壊の年の1990年。アメリカは2007年で、サブプライム・バブルが崩壊した年だ。ヨーロッパに目を転じると、ギリシアとポルトガルの転換点は2000年、アイルランドとスペインの転換点は2005年で、いずれも不動産バブル崩壊が起きている。西村氏の見方が正しいとすれば、生産人口比が下がり続ける日本ではもはや不動産バブルは起こらず、遅れたバブルで賑わう国も、生産人口比を見れば崩壊の時期をある程度予測できる。』

さらに元通産省中国担当だった津上俊哉氏の「中国台頭の終焉」に言及する。

一人っ子政策を長く続けた結果、中国の出生率は1.18と、日本の1.39を下回る。さらに都市部では北京市が0.71、上海市が0.74だという。

そして、中国の生産年齢人口は2013年の10億人をピークに減少に転じる。

『日本は1995年に生産年齢人口がピークアウトしてから人口オーナスの影響を受け始め、総人口が減少に転じた2008年ごろからその影響が深刻化した。これと同じ経路をたどるとするならば、中国でも生産年齢人口の減少によってすでに人口オーナスは始まっており、2020年ごろにはその影響がはっきりし始め、総人口が減少に転じて成長を続けるのが難しくなる可能性があると津上氏は指摘する。

農村と都市部の格差など、中国は多くの深刻な社会矛盾を抱えている。年金や医療保険がほとんど整備されないまま「未富先老」(豊かになる前の高齢化)が始まるなら、13億人の巨大な社会は大きな混乱に見舞われ、世界経済にとてつもない衝撃を与えることになるだろう。』

中国バブル経済の仕組みは、日本のバブルと構造は同じだ。

無が有を生む経済はいつかは終わる。年齢というものが人間の消費行動に大きな影響を与えることを年をとると我が事として理解できる。生産人口がピークを過ぎた中国経済の舵取りは誰がやっても至難の技である。

とても為になる本であった。

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