<吉祥寺残日録>60男の調理修行🔪 桜満開の春に作る「浅蜊の酒蒸し」 #220331

2022年の年間テーマである調理修行。

ようやく寒さも和らぎ、井の頭公園の桜も満開となった。

小鳥たちも一斉にさえずりを始めた。

そんなウキウキするような季節、3月になってまだ料理をしていないことを思い出す。

そう思って、トイレにかけてある「和食の暦」を見る。

さほど食べたい料理が見当たらない中で、「強いて言えばこれかな」と思ったのが「浅蜊の酒蒸し」である。

カレンダーにはこう書かれていた。

『春は貝が美味しい季節。身がプリッと膨らんだ旬のアサリはやはり酒蒸しで。アサリから出る出汁を楽しめる。砂抜きはヒタヒタの塩水につけ、なるべくアサリが重ならないよう平らに並べると良し。ボールなどで重なっていると、せっかく吐いた砂を下のアサリが吸ってしまうのだとか。』

アサリが特に好きというわけではないが、「酒蒸し」ってどうやって作るのだろうという好奇心が湧いてきた。

ということで、妻が買ってきてくれたアサリをまずは砂抜きする。

最近、アサリの産地偽装問題がニュースになり、中国などから輸入したアサリを短期間日本の浜で育てて国産アサリとして出荷していると非難された。

でもこんな話、私が現役テレビマンだった頃から頻繁に聞く話である。

当時は確か北朝鮮産のアサリが使われていたが、今はそれが中国産に変わっただけでやっていることは昔から同じだ。

中国産と名乗っていても、元を辿れば北朝鮮産だったりするのかもしれない。

日本ではアサリが生息できる砂浜がどんどん失われていく中で、妻が買ってきたアサリもやっぱり中国産と書かれていたそうだ。

大きめのタッパーに塩水を作り、その中にアサリを並べる。

およそ250グラムで337円。

重さの大半は貝殻の重さだろうが、こうしてじっくり見ると、アサリの貝殻というものは本当に個性豊かで美しいものだ。

貝はどうやってこんなに硬い貝殻を作るのだろう?

大阪市立自然史博物館の質問コーナーによれば・・・

二枚貝類でも腹足類(巻貝)でも、筋肉や内蔵をつつんでいる外套膜の先端にある上皮細胞(ホタテガイやアワビのひもとよばれる部分)から、一番表面の有機質の膜(殻皮)や貝殻のもととなる成分を含んだ体液を分泌し、炭酸カルシウムの微細な結晶(アラレ石や方解石)を沈着させて貝殻を大きくしていきます。したがって“いれもの”の貝殻をつくりながら“中身”も大きくなっていくわけです。二枚貝の場合は二枚のからがあわさっている側から縁のほうへと、巻貝の場合はとがっている部分から“中身”が出入りする口の部分へと成長していきます。

引用:大阪市立自然史博物館

あのビラビラした「貝ひも」が貝殻を作るうえで重要な役割を果たしているらしい。

石のように見える貝殻だが、その実態は均一な塊ではなく、微小な炭酸カルシウムの結晶の集合体であり、その化学反応の過程でさまざまな紋様が生み出されてくるということのようである。

まことに自然界には不思議がいっぱいだ。

こうしてひとしきりアサリの観察を終えて、塩水に浸したアサリを冷蔵庫に入れて自力で砂を吐き出すのを待つ。

妻は適当に塩水を作っていたが、正確に言えば塩分濃度3%の塩水が良いという。

500mlのペットボトルを使って、キャップ2杯分の塩と500mlの水を混ぜるとちょうど3%の塩水ができるらしい。

確かにこの方法はわかりやすい。

砂抜きの方法はサイトごとにいろいろだが、ポイントはアサリがちょうど隠れる程度に塩水を調整すること。

深すぎるとアサリが呼吸ができないので、ヒタヒタぐらいがいいそうだ。

「酒蒸し」に入れる具材もサイトによってさまざま。

ニンニクや生姜をみじん切りにして入れるレシピもあれば、ネギと水菜と合わせるものなどいろいろだ。

妻はキャベツがあるので、それを使いたいという。

個人的にはアサリ中心でニンニクや生姜が効いた酒蒸しがいいと思ったが、そこは師匠である妻に従うことにした。

春はキャベツも美味しい季節。

5枚ほどキャベツの皮をむき、中華鍋に投入する。

そこに砂抜きしたアサリ(実はあまり砂を吐き出していなかった)を放り込む。

「これって、キャベツ多すぎない?」

と妻に問いただすも、「キャベツはどうせ量が減るから」と相手にされない。

酒蒸しというぐらいなので、肝心なのは日本酒。

お酒がまったく飲めない妻に気をつかって「日本酒は大さじ3杯ぐらいでいいんじゃない」と提案したが、意外にも妻は「もう少し入れよう」と言って少し日本酒を足していた。

あとは蓋をして火にかけるだけ。

妻は別の鍋用の透明の蓋を中華鍋にかぶせた。

「普段細かい癖にこういうところはいい加減だな」と思うが、蓋の下で何が起きているのか一目瞭然なのはいい。

火が通るにつれて、キャベツがしんなりし、春らしい緑色が鮮やかになっていく。

「キャベツ、悪くない」

火にかけて7分ほど。

アサリが順番に口を開けていく。

レシピサイトでは2〜3分で口を開けると書いてあるが、キャベツが大量に入ったのでアサリに熱が加わるのに時間がかかったのかもしれない。

アサリが開く時、「カチッ」と小さな音がする。

全てのアサリが口を開け、「カチッ」という音が聞こえなくなったのを確認して火を止めた。

蓋を取ると、鮮やかな緑の絨毯の上に口を大きく開いたアサリが散らばっている。

いい感じじゃないか。

キャベツをちぎって、アサリを放り込み、日本酒を注いで火にかけるだけ。

「浅蜊の酒蒸し」、こりゃ簡単だ。

中華鍋のまま食卓に運び、各自お皿に好きなだけ盛る。

超簡単なのに、見栄えは悪くない。

恐る恐る食べてみると、塩味が効いていてシンプルな旨味が口の中に広がった。

いいじゃないか。

冷蔵庫の中からビールを取り出して、酒蒸しを肴に一杯。

いいじゃないか。

アサリは決して好物ではないので、味噌汁に入っていても汁だけ飲んで身を食べないことも多い私だが、酒蒸しのアサリは美味しいと思う。

中国産のアサリはあまり身がふっくらとしておらず少し物足りないものの、もしこれでアサリがもっと大きかったら文句なしに美味しいだろう。

アサリの出汁で味付けされたキャベツも申し分なく、妻が言う通り、キャベツの酒蒸しはおすすめだと感じた。

火を通すと、アサリの貝殻が茶色っぽく変わるんだなと、今更ながらに発見する。

アサリとキャベツを食べ終わった後、お皿にアサリの旨そうな出汁が残った。

捨てるのはもったいないと思い、ご飯を投入。

さらに妻が茹でたソラマメと海苔を放り込んで即席の雑炊風にした。

何か味付けした方がいいかなと思いながら味見をしてみると、このままで十分に美味い。

超簡単で美味しい「浅蜊の酒蒸し」。

これは私のレシピに加えたい一皿となった。

<吉祥寺残日録>60男の調理修行🔪向田邦子が愛した「常夜鍋」を作る #220124

【60男の調理修行】

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