第一次大戦100年

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つい数年前までは、世界の常識と思われた主張が今ではすっかり少数派になった気がする。

フランスのマクロン大統領は、「平和のために戦おう」と各国の首脳に呼びかけた。

BBCの記事を引用しておく。

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『 パリで11日、第1次世界大戦終戦100周年の記念式典が開かれ、エマニュエル・マクロン仏大統領は各国首脳に国家主義(ナショナリズム)を拒否するよう呼びかけた。

ドナルド・トランプ米大統領やロシアのウラジーミル・プーチン大統領などが参列する中、マクロン氏は国家主義は「愛国心の裏切りだ」と訴えた。

「『自国利益が最優先で他国のことなど気にしない』と言うことで、その国で最も大切なもの、つまり倫理的価値観を踏みにじることになる」

記念式典は世界各地で行われた。

1914~18年の第1次世界大戦では970万人の兵士と1000万人の市民が犠牲となった。

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マクロン氏をはじめとする各国首脳や高官は、パリの凱旋門の地下にある無名戦士の墓まで歩いて参拝した。この日は雨で、パリ中の教会の鐘が鳴らされる中、マクロン氏らは黒い傘を差して行進した。

その後、20分近い演説で、マクロン大統領は各国首脳に「平和のために戦う」よう訴えた。

「国際社会から身を引き、暴力や一極支配などに魅了されてこの希望を踏みにじるのは、間違いだ。そのようなことになれば、それは我々の責任だと、次世代は当然指摘するだろう」

式典は、1918年11月11日午前11時に終戦を知らせたラッパの演奏で締めくくられた。

この日の午後には「パリ平和フォーラム」と題された平和会議が開かれ、マクロン氏やアンゲラ・メルケル独首相に加え、プーチン氏やトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領も参加した。

メルケル氏は、欧州やあらゆる場所で「視野の狭い」国家主義が力をつけていると警告した。

10日にマクロン氏とメルケル氏はパリ北部のコンピエーニュを訪問し、1918年に休戦協定が調印された列車の中で、戦没者リストに署名した。』

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ただ、トランプ大統領はこの日も異彩を放った。

『 トランプ大統領は平和会議には参加せず、開始時間には帰途についていた。

11日の式典のほかには、大戦で命を落とした「勇敢なアメリカ国民を追悼する」ためにパリ西部シュレンヌの墓地を訪れた。

その一方でトランプ氏は10日、米兵など戦没者が眠る別の墓地訪問を、悪天候を理由に中止。他の首脳が雨の中でも参列しただけに、トランプ氏の欠席は物議を醸した。』

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トランプさんはこの日も、やはりいつもと変わらぬトランプさんだった。

今回の100周年式典を前に、「フィナンシャルタイムス」は「米大統領と100年前の亡霊との対峙」と言う記事を掲載した。この記事では、第一次大戦後、野心的な国際主義を説き国際連盟の創設を提唱したアメリカのウィルソン大統領に言及していて私の目を引いた。

その記事を引用させていただく。

『「グローバルガバナンス」に対する考え方が大きく異なるマクロン氏とトランプ氏が、第1次世界大戦の終結を同じ場で共に振り返るというのは、極めて望ましいことに思える。両者はともに、1世紀前の第1次大戦終戦直後にパリで開かれた講和会議で衝突した国際関係に関する2つの意見を体現しているからだ。こうした見解の違いを巡る対立は、過去の国際政治を決定づけるだけでなく、今後の世界政治をも左右する可能性がある。

マクロン氏は、1919年のパリ講和会議で米代表を務めたウィルソン米大統領が主張した、高尚で野心的な国際主義の継承者だ。ウィルソン氏は、新たな世界秩序の枠組みとして「14カ条の原則」をまとめ、あらゆる戦争を終結させるためにグローバルガバナンスを実現させる新しい形態として国際連盟の創設を唱えた。

だが、ウィルソン氏の野心的な計画は自国で葬られた。上院が、米国の国際連盟への加盟を否決したからだ。反対派を率いたのはヘンリー・カボット・ロッジ上院議員で、「米国を第一に考えなければならない」と訴え、「私にとって国際主義はひどく不快なものだ」と言い放った。

それから100年。米国にはロッジ氏の伝統をしっかりと受け継ぎ、「米国第一主義」を唱え、「グローバル主義」を非難する人物が大統領に就いている。両者の類似点はこれだけではない。ロッジ氏は、米国に大量の移民を受け入れることに反対する中心的存在でもあった。

1918~19年にかけての平和を築く取り組みは失敗に終わった。第1次大戦の終結から20年も経ないうちに、欧州は再び戦火に突入した。だが、マクロン氏のような国際主義者と、トランプ氏のようなナショナリストが、この失敗から学んだ教訓はまったく異なる。

国際連盟は米国が参加しないまま見切り発車した。現在の米大統領補佐官(国家安全保障担当)であるボルトン氏のようなナショナリストにとっては、国際連盟はグローバルガバナンスなど機能しないというのを代表する言葉だ。30年代には、国際連盟は帝国主義の日本、ムッソリーニ率いるイタリア、ナチスドイツの野心を阻止する有効な機関としての役割をまったく果たせなくなっていた。現実的なナショナリストは、独裁者たちの野心を阻止できたのは、国際的な機関によるグローバルガバナンスではなく、国民国家によるハードパワーだけだったとみている。

これに対し国際主義者は、第1次大戦直後にロッジ氏のような人物こそが深刻な過ちを犯した、と捉えている。米国が孤立主義の立場をとったことで、無政府状態のような事態を世界のあちらこちらで招くことになったからだ。米国が国際連盟への参加を拒めばそうなるとウィルソン氏が警告していた通り、米国は20年ほどで再び勃発した欧州での戦争に加わらざるを得なくなった。別の言い方をすれば、グローバルガバナンスは1918~39年に失敗したのではなく、まともな機会を一度も与えられなかった、というわけだ。

「賢者」と呼ばれた戦後の米政策立案者たちは、2度にわたる世界大戦の間に起きたことで何が問題だったかとする点について、国際主義者とナショナリストの見方の折衷案を採り入れた。彼らは、国際連盟はどうしようもないほど無力で理想主義に陥っていたとの見方でほぼ一致する傾向を示した。だが、米国が孤立主義の立場を取ったのはひどい過ちだったとも考えた。

かくして米国は、ウィルソン氏ほど国際主義ではないものの、彼の理論をある程度採用した。新たに設立された国際連合に参加し、しかもその中心的存在となった。しかし、国連の設立根拠となる条約である国連憲章には、ロッジ氏の妥当と思われる主張が複数反映された。その結果、米国が議会を飛び越えて、国際機関によって戦争に突入せざるを得なくなる可能性はなくなった。そして、米国は国際秩序を維持する取り組みの大半を国連ではなく、核兵器の保有や各国との同盟関係の構築、さらに世界各地で軍事介入を辞さない姿勢を示すという軍事力に頼った。

このタカ派的な国際主義は、その後、民主党政権であっても共和党政権であっても長年、米国の外交政策を支配してきた。米国は、トランプ氏が大統領に就任して初めて1919年のナショナリズムに回帰したのだ。』

第一次大戦は、帝国主義の終わりの始まりだった。

弱肉強食の世界から、理性が支配する国際協調の時代へ、人類は進化するのだと多くの人が信じた。2度の世界大戦を経て、ようやく手に入れた良識を、トランプ大統領はあっという間に破壊してしまった。

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しかし、それは一人トランプ氏によって壊されたのではない。

彼の背後には、己の利益を最優先にする近視眼的な人々がいる。ある人は宗教的な良心から、またある人は移民により既得権を奪われる恐怖から、さらにある人はネット世論に同調して「トランプ的なるもの」を熱烈に支持している。その多くは、意見の違う者たちの声をまったく聞かない。メディアの主張も有識者の意見も一切信用しない。

彼らは、「知ることを拒否した人たち」なのだ。

世界を知ろうとしない。社会を知ろうとしない。歴史を知ろうとしない。

そうした人々に、どうやって働きかければいいのか?

マクロン大統領の呼びかけが、冷たい雨の中に消え去ってしまいそうな、そんな嫌な時代になってしまった。

1件のコメント 追加

  1. wildsum より:

    共感しました。トランプは世界が築いてきたものをなし崩しにしようとしているのだと思います。世界平和が遠のきそうです。ドイツ、フランスこそ今の世界のリーダーにふさわしいような気がしました。

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