<吉祥寺残日録>韓国総選挙と日本 #200416

コロナの脅威が続く中で行われた韓国の総選挙。

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投票所の行列も「ソーシャルディスタンス」を守って・・・

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投票所に入る前には体温をチェック・・・

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投票する人には全員使い捨ての手袋を配って感染防止を図った。

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こうした念入りな対策を施してまで選挙を強行したのは、今が文在寅政権にとって二度とないチャンスだったからだ。

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そして思惑通り、与党「共に民主党」の圧勝となった。

憲法改正以外は単独で法案を可決できる議席数を確保するようで、日本で言えば「絶対多数」を確保したということなのだろう。

ほんの数ヶ月前、最側近のチョグク法相の疑惑などで窮地に立っていた文大統領の政権基盤は安定し、与党の選挙対策本部長を務めたイ・ナギョン前首相は次期大統領候補としての地歩を固めた。

韓国与党に歴史的勝利をもたらしたのは、他ならぬ新型コロナウィルスへの対応が国民から支持されたことだった。

韓国のコロナ対策は当初から徹底していた。

ドライブスルー検査をいち早く実施したことは有名だが、それ以前から感染者一人一人に番号を振り、各自の行動履歴を公開し接触したと思われる人に積極的に検査を受けるよう呼びかけていた。

日本では、安倍応援団を中心にそうした韓国のやり方では医療崩壊が起きるとして「韓国の真似をしてはならない」との言説が飛び交っていた。

しかし、韓国では検査とトリアージを徹底し、軽症者は「生活治療センター」で隔離。自宅隔離の場合にはアプリを使って行動監視を行うなど合理的な対応を次々に実行に移した。

その結果、医療崩壊が起きていないだけでなく、病院での院内感染も防げており、大規模な行動制限や営業規制を行うことなく感染者の伸びを抑えることに成功している。

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韓国モデルは欧米諸国でも一つの模範とされ、各国がドライブスルー型の検査を導入、日本でも今頃になって自治体ごとでの導入が見られ始めた。

日本でようやく設置の動きが出てきた「発熱外来」も、韓国では1月末から全国で設置が進み、コンテナを改良した施設には検体を安全に採取するための陰圧室も完備されている。

韓国全土で、ドライブスルー検査場は72ヶ所、発熱外来に当たる選別診療所は638ヶ所も設置されているそうだ。

第一波が収まった現在は、発熱外来を訪れる人も少なくなっているが、こうした施設やシステムをいち早く整備したことで、ウィルスとの長期戦にも対処できるのが韓国式の優れた点である。

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一方、日本はこの2−3ヶ月の間、クラスター対策に重点を置いて一貫して検査数をしぼってきた。幸い欧米のような感染爆発を起こさずここまできたが、せっかく稼いだ時間を無駄遣いし、その間に医療体制を整備することができなかった。

韓国と日本の差は、どこにあるのだろう?

よく聞く答えは「韓国はMAASの経験があった」という漠然としたもの。

確かに初動ではそれもあったかもしれないが、何ヶ月経っても対応できない理由にはならない。

「日本の専門家がクラスター対策重視の方策を選んだ」という面も確かにあるのだろう。ただ専門家に言わせれば、「十分な検査ができない日本の体制では他に選択肢がなかった」との声もあり、後々十分な検証が必要なテーマである。

私が現段階で感じているのは、やはり政治的な思惑が専門家を縛ったことだ。

習近平さんの訪日、東京オリンピックへの影響を最小限に抑えたいという官邸の意向が専門者会議がまとめる提言の前提となっていたのではないか?

政府の諮問会議は担当の役所が台本を書き、それを元に専門家の意見を聞くことが多い。「中国人の入国を制限するとインバウンドへの影響が大きい」「検査を拡充すると感染者数が増えてしまう」といった政府の懸念を厚労省が受けて、あらかじめ抑制の効いた対策案をまとめたのではないか?

安倍総理は何かにつけて「専門家の意見を聞いて」と話をするが、最初に専門家会議が召集した際に、純粋に科学的知見を求めたのかどうか? 専門家の危機感がどれだけ政策に反映されたのか?

甚だ疑問である。

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私は一つのきっかけとなったのが横浜に着岸したクルーズ船での対応だったと考えている。

この時点では日本のPCR検査の能力は低く、「全員のPCR検査は行わない」といち早く判断した。確かに検査能力の問題はあったと思う。しかし、検査を行わないと判断したことで、検査能力を増やすという努力を放棄した。

その代わりに政府が力を入れたのは、「検査を増やすと医療崩壊が起きる」という都市伝説を広めることだった。自民党議員からそうした発言を聞くようになり、ネット上では安倍応援団が検査拡充を求める人に反論していた。

それでも、クルーズ船での感染者数が増え続け、「日本が中国に次ぐ世界第2位の感染国」と見られることに政府は神経を尖らせた。メディアに対し、日本国内の感染者数とクルーズ船の感染者数を分けるようプレッシャーをかけていたのもこの頃のことだ。政府や自民党議員たちからは、「クルーズ船の船籍は日本ではなく、本来なら追い返してもいいのに人道的観点から受け入れたもの」との説明が繰り返された。

この当時、政府が最も気にしたのは日本の感染者数を増やさないことだった。その大原則の中で、PCR検査の体制を整備して検査数を増やすという方策は放棄されたのだと思う。

それによって、日本は世界でも類を見ない独自の道を歩み、公表される感染者数は実際よりも少なくなり、実態が見えにくくなった。そして今になって、日本は感染爆発と医療崩壊の危機と向き合うことになっている。

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今からでも遅くはない。韓国から学ぶべきことは取り入れるべきだろう。

韓国はなぜ、日本と違って素早い対応ができたのか?

まず私が感じるのは、司令塔となる組織の動きの違いだ。

韓国で新型コロナ対応の司令塔となったのは、保健福祉省の傘下にある疾病管理本部という組織だ。1月20日に韓国で初めての感染者が見つかって以来、疾病管理本部が毎日その日の状況についてブリーフィングを行い、それが国民に安心感を与えてきたという。ブリーフを行うのは予防医学博士でもある鄭銀敬本部長だった。

日本では各自治体がバラバラで感染者数を発表する。それに時々、政治家たちの発言が加わるのだが、それも不定期でバラバラな印象を受ける。

未知のウィルスである以上、私たちはまず信頼できる専門家の話を聞いて納得したいと思う。中国では鐘南山さん、アメリカではファウチさん、そして韓国では鄭銀敬さんがこの役目を果たしている。日本では尾身さんがその役目なのだろうが、尾身さんが登場するのはごくたまで、しかも尾身さんは政府と専門家の間を調整するような変な役回りを背負わされている。尾身さんが本心を語っているとは到底思えないことに不信感が増幅されてしまうのだ。

専門家会議の中で最も危機感を発信しようとしているのが北海道大学の西浦教授。専門家の間では当たり前の危機感が政府の対策に反映されないことの苛立ちを感じるが、それでも言いたいことの半分も言えず言葉を選んでいる印象が痛々しく、彼らの本音を思う存分聞いてみたい衝動にかられる。

本来なら、科学的見地からの専門家の率直な発言があって、それを受けて政治家が経済への影響も考えながら政治的な判断するというプロセスが見えれば、国民には理解がしやすいと思うのだが・・・。

検査についても、疾病管理本部の動きは早かった。韓国の週刊誌に紹介された初動段階の動きを書き残しておきたい。

1月10日、疾病管理本部は、2019年12月末から中国・武漢で報告された正体不明の集団肺炎について、専門家からなる感染病危機対策専門委員会を招集。そこで韓国流入の可能性が高いとし、「ワクチンも治療剤もない状況で、感染者と死亡者数を抑えられる唯一の手段は防疫」と判断。

1月13日、(新型コロナウイルス)検査法の開発に着手することを発表。

1月末、民間試薬業者を集めて、感染病分析センター(疾病管理本部傘下)と大韓診断検査医学会が、開発した診断試薬のプロトコルを公開し、診断キット開発を督励。

2月初め、民間企業が開発した診断キットの緊急使用が承認され、民間の検査機関は110カ所増に

週刊誌『時事IN』→文春オンライン

この頃、日本の厚労省は何をしていたのだろう?

大きな感染症被害を受けてこなかった日本では、PCR検査の体制が整備されていなかったのは事実だろうが、国内に有力な民間企業がないのであればスイスのロシュの大型検査装置を購入するなど、拡充する意志さえあればできることはいくらでもあったはずだ。

1月から準備していれば今頃慌てることもなかっただろう。

つまるところ、重要なのは政権の意志だ。

新型コロナ対策については、ここまでのところ安倍さんは文在寅さんに負けている。

しかし、ウィルスとの戦いは長期戦。

ここにきて、遅ればせながら日本でも医師会や民間企業の動きが表面化してきた。政府の指示を待つのではなく、それぞれの持ち場で動き始めると日本は強い。

すべてが終わって検証する時、日本は結果的にはよくやったと世界から評価されるようになればと願っている。

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