<吉祥寺残日録>トランプvsツイッター #200530

いつ何を言い出すか予測不能なトランプ大統領の武器はツイッター。

トランプ支持者のみならず、世界中の政府関係者やメディアがトランプさんがツイッターで発信する言葉の端々から世界の未来を読み解こうとしている。

しかし、蜜月とも言えたトランプさんとツイッター社の関係に突然亀裂が走った。

Embed from Getty Images

きっかけは、トランプさんが発した一つのツイートに、ツイッター社が「ファクトチェック(事実確認)」を促す警告マークをつけたことだった。

これにトランプさんの怒りが爆発。時をおかずして、SNS大手企業を標的にした大統領令に署名した。

これに対して、ツイッター社も負けてはいない。トランプさんの別のツイートが暴力を礼賛しているとして表示されない措置をとった。フェイクニュースの氾濫が批判される中で、プラットフォーマーとしての責任が求められている。

両者の対立の行方に、今世界中の関心が集まっているのだが、「オールドメディア」であるテレビの世界で働いてきた私には、どうもデジタルのことは理解できない。

そこで、ロイターの記事を引用しておくことにした。

Embed from Getty Images

トランプ大統領が署名したのは、連邦法の通信品位法「第230条」の見直しを求める大統領令だそうだ。

<230条とは何か> 

230条の中核的な目的は「双方向性のコンピューターサービス」のすべての所有者について、第三者が投稿したいかなるコンテンツについても法的責任を免責することにある。インターネット時代の幕開けのころ、新しい種類の通信サービスの出現を奨励するには、そうした保護が必要だという考え方があった。 

法制化されたのは1996年。主にネット空間のポルノを規制することを目的とした「通信品位法」の一部として成立した。通信品位法の大半の部分はその後、憲法が定める表現の自由を侵害するとして裁判所から無効の判断が出されたが、230条は生き延びている。 

この法律は事実上、あらゆるウェブサイト業者や関連サービス業者を、ユーザーが投稿したコンテンツを巡る訴訟から保護する。ここでのウェブサイトや関連サービスとは、ニュースサイトのコメント欄や、ユーチューブのような動画サービス、フェイスブックやツイッターのようなソーシャルメディアサービスなどのコンテンツ管理者のことだ。 

この法律が書かれたころ、ウェブサイトの所有者たちが懸念したのは、サイト上への投稿を巡り自分たちが何らかの管理を執行した場合に、訴えを起こされる可能性だった。そのため、サイト側が「誠実に」行動する限り、サイト所有者たちには不快な、あるいは好ましくないコンテンツを削除することが認められる規定が盛り込まれている。 

ただし、著作権侵害や、何らかの犯罪行為では免責されない。違法コンテンツを投稿するユーザー自身が、法廷で責任を問われることもあり得る。 

ハイテク系企業は長い間、230条は不可欠な保護措置だとしてきた。しかし、ネット企業の力が増大するにつれて物議を醸すことも多くなっている。

出典:ロイター「ネット企業めぐり大統領令、トランプ氏は何を変えたいのか」

しかし、今やGAFAを筆頭とするネット企業の力は国家権力を凌駕するほどに大きくなり、その社会的責任を問う声はヨーロッパを中心に高まっている。

日本でも最近、フジテレビの番組「テラスハウス」に出演していた若手女子レスラー木村花さんが、ネット上での誹謗中傷が原因で自殺し、大きなニュースになったばかりだ。

ネットを使った匿名の誹謗中傷を規制すべきだとする世論が急速に高まり、野党だけでなく、政府も対応を検討すると表明した。

私個人も、ネットでの人権侵害やフェイクニュースを厳しく規制すべきだと思うが、政府が前のめりの姿勢を見せると、裏の意図があるのではないかと逆に疑ってしまう。

どんな書き込みが処罰の対象になるのかを巡っては、その時々の政府の意思が反映される余地が出てくるため、政府批判の声が封殺され中国に近い言論状況が生まれてしまう危険性もある。

Embed from Getty Images

中国では「五毛党」と呼ばれる中国共産党配下のインターネット世論誘導集団が存在する。

正式名は網絡評論員(インターネットコメンテーター)であり、2005年ごろまでは書き込み1件当たり5毛(5角(=0.5元)を口語でこう呼ぶ)が支払われていたことからこの蔑称が名づけられた。

通常は一般人を装い、インターネット上のコメント欄や電子掲示板などに、中国共産党政権に有利な書き込みをする。または共産党「それに関連する事」を批判する人に対する集団攻撃をする。ネットを通じ、世論誘導をする役割を担っている。2015年時点で、約1050万人程度いると見られている。中国政府が世論操作のためにSNSに投稿させている「やらせ書き込み」は、年間で4億8800万件に上るという。

出典:ウィキペディア

何だか、安倍応援団に似ていると感じる。ひょっとしたら、自民党も「五毛党」を参考にして、サポーター組織を作ったのかもしれない。

だから、政府が主導するネット規制は、ある意味で諸刃の刃なのだ。

先ほど引用したロイターの記事は、「政治バイアス」についてこんなことを書いている。

<政治バイアスをどう扱うか> 

トランプ氏や他の230条批判派は、この条項が大手ネット企業に過大な法的保護を与えており、責任の回避を許していると主張する。 

トランプ氏を含む保守派の一部は、ソーシャルメディアのサイトでネット検閲を受けていると訴えている。ネット企業側はこれをおおむね否定している。 

しばしば誤解されるが、230条はサイトが政治的に中立でなければならないと義務づけているわけではない。大半の法律専門家によれば、政治的な中立性を要請すれば合衆国憲法の修正第1項が定めた表現の自由の侵害になる。

出典:ロイター

そして、230条を改正できるのは議会だけで、トランプさんの一存で規制することはできないと結論づけている。

Embed from Getty Images

フェイクニュースやらディープフェイクやらが氾濫し、何が真実なのかネット上で見分けることすら困難になりつつある中で、興味深い動きがジャーナリズムの世界に生まれつつある。

「オープンソース・インベスティゲーション」と呼ばれる調査報道のスタイルだ。

NHKが放送したBS1スペシャル「デジタルハンター〜謎のネット調査集団を追う〜」という番組を見た。

ネット上にアップされた膨大な写真や映像をもとに、パソコン1台で隠された真実を暴き出そうというデジタルハンターたちを描いている。

その先駆けとなったのは、「べリングキャット」というオープンソース・インベスティゲーション集団を組織したエリオット・ヒギンズ。彼はもともとジャーナリストではなく、一流のゲーマーだった。

彼らはウクライナで起きたマレーシア航空機撃墜事件について、ネット上に公開されている写真などを分析し、撃墜に使われたミサイルが事件の直前にロシア領内から運び込まれたことを突き止めた。

インターネットに精通したオタクの技術を調査報道に利用しようという動きは、BBCやニューヨークタイムズといった既存メディアでも積極的に取り入れられるようになり、各社に専属のチームが立ち上がっている。

権力者が隠したい真実を、ネット上に公開されている情報だけから追及する。

そんな新たなジャーナリズムがすでに始まっている。

私が生きた「オールドメディア」の時代には、情報を伝えること自体に価値があったが、今では人間が受け入れ可能な限度を超えた膨大な情報が日々発信されている。

今必要なのは、正しい情報であり、信頼できるメディアである。

トランプ大統領とツイッターの戦いは、決してアメリカだけの問題ではない。

日本でもいずれ起きる問題、いやすでに起きている問題かもしれないのだ。

広告

コメントを残す