<きちシネ> #11 「華氏119」(2018年/アメリカ映画)

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マイケル・ムーア監督 vs トランプ大統領。

中間選挙の結果が出たところで、ぜひこの映画を観たいと思った。

マイケル・ムーア監督の最新作「華氏119」。119は、トランプ氏がアメリカ大統領に当選した11月9日を意味している。

ムーア監督は過去にアメリカ同時多発テロ事件を題材に、ブッシュ大統領を痛烈に批判した「華氏911」という映画を製作し、カンヌ映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞した。今回はトランプ政権の誕生を「911」に匹敵するアメリカの危機として描いている。

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なぜトランプ大統領が誕生したのか?

トランプ政権下で何が起きているのか?

民主党支持を公言するムーア監督の目を通した徹底的なトランプ弾劾映画だ。

この映画の中で、いくつか興味深いポイントがあった。

一つは、ムーア監督の生まれ故郷ミシガン州フリントという田舎町の話だ。2011年にミシガン州知事に就任したリック・スナイダー知事を強烈に批判している。スナイダー知事は元大手パソコンメーカーの会長でトランプ大統領の友人。そのスナイダー知事が進めた水道事業で住民に鉛中毒の被害が広がったと糾弾している。被害を訴える住民たちを救済するために当時のオバマ大統領がフリントの街にやってきた。住民たちは大きな期待を抱いて大統領を大歓迎したが、オバマ大統領はあえて水道の水を飲んで見せ抜本的な対策を取らなかったとムーア監督はオバマ大統領も批判している。

またフリントの街では廃墟となった建物を使って軍がテロリスト掃討作戦の訓練を始めた。住民に対する事前通告もなく、突如軍のヘリや戦闘車両が街に現れた。確かに、日本だったら大変なニュースだろう。

日本人が知らないアメリカのローカルニュース。そこにこそ、今のアメリカがある。そうしたローカルニュースの積み重ねが、トランプ政権に対する強烈な支持と強烈な不支持を作り出している。アメリカ市民は、大局的な座標軸ではなく、自らの立場、自らの視点から支持、不支持を決めているのだ。

ムーア監督は、メディアにも手厳しい。

そもそもトランプ氏が大統領選挙に立候補することにしたきっかけについても描いている。それは当時出演していたNBCテレビでのギャラを上げるため、トランプ氏が大統領選に立候補したという設定の番組を作ったことがきっかけだったと指摘している。裏局のライバル女性が自分よりも高いギャラをもらっていることを意識しての行動だったそうだ。

そこでトランプ氏は、それまで経験したことのない大勢の人々から歓呼で迎えられる。テレビ用の作り物だった選挙から、本当に大統領選挙に出馬することを考え始める。

そして泡沫候補に過ぎなかったトランプ氏がライバルたちを蹴落とす過程ではテレビメディアが大きな役割を果たしたとムーア監督は指摘する。ニュースキャスターたちは、トランプ氏を笑いのネタにしながら頻繁に彼の行動や発言を取り上げた。それは視聴率を稼ぎ、やがて各局競ってトランプ氏の遊説を追いかけ始める。トランプ氏はあえて演説の時間に遅れる。テレビ局は主役の表れない演壇を延々と写し続けた。視聴者からすると、トランプ氏が現れるのを今か今かと待たされることが続いた。そして誰も予想しなかったサプライズが現実のものとなったのだ。

ムーア監督の批判は民主党幹部にも向けられる。世論調査の結果を見れば、アメリカ国民の過半数が左派的な思想を持っているとムーア監督は主張する。たとえば、移民、同性婚、国民皆保険など。トランプ的な主張は決してアメリカ国民のマジョリティーではない。それなのに、歴代の民主党大統領は「譲歩」を続け、民主党的な政策を取ってこなかったと批判している。特に、クリントン大統領、オバマ大統領、そして現在民主党を率いるペロシ院内総務らの執行部も共和党と同じ企業から献金を受けていると糾弾している。

そして本来の民主党的な価値観を体現した候補者たちが各地で声を上げ始めていることを高く評価する。先日の中間選挙で勝利したニューヨークのオカシオコルテス候補らのことだ。彼らは、多くの困窮する国民たちと同じ目線で活動している。彼らこそがアメリカ国民の代表だとムーア監督は期待しているようだ。

個人的には、社会主義的な若者たちに期待する気持ちもありながら、ある種の怖さも感じる。偏狭な社会主義は恐怖政治を生む。それが歴史の教訓だ。スターリン主義、文化大革命、そしてポルポト派による大量虐殺。わずかな違いも許さず、どんどん分派し先鋭化していく傾向が社会主義にはある。若者たちが純粋であればあるほど、反面の怖さを内包している。

映画の中で、一番印象に残ったのは、昔のヒトラーが演説する映像にトランプ大統領の演説の声をオーバーラップしているシーンだ。これはテレビではなかなか許されない表現手法だろう。だが、これは劇場映画。監督のメッセージを伝えるには実にうまい手法だと思った。

ヒトラーの特徴。

たとえば政治経験のなさ、過激な主張、新しいメディアの活用、既存メディアの排斥、自国第一主義などなど。驚くほどトランプ政治と共通している。

そしてその主張に共鳴して過激な行動に走る一部の狂信者が現れ、それまで営々として築き上げた常識を破壊し、時代が一気に流動化していく。

トランプ主義は確実にアメリカに広がり、世界各地に拡散を続けている。

これにどう立ち向かっていくのか、私たち日本人にとっても対岸の火事では済まされない。

Yahoo!映画の評価3.68、私の評価は4.00。

現代人は、見ておくべき映画だと思う。

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