安倍訪中

安倍総理が中国を訪問した。日本の総理大臣としては実に7年ぶりの公式訪問だ。

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米中関係が厳しくなる中で、中国の態度が一変した。

総理就任以来、中国を挑発するような言動を控え、時間をかけて相手の態度が変わるのを待ち続けた安倍さんの我慢がようやく実を結んだとも言える。習近平主席はずっと冷淡な態度を取り続けた。尖閣国有化を巡る反日デモの余韻が消えるまでには、やはり時間がかかった。

今回の訪中で安倍総理は、(1)競争から協調へ、(2)お互いパートナーとして脅威にならない、(3)自由で公正な貿易体制の発展、という三原則を提示した。

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今回の訪中で私が注目したのは、歴史問題の扱いだった。

中国側は、「明治150年」の式典で安倍総理がどんな演説をするのか警戒して、訪中の日程を遅らせた。明治維新は、中国から見れば日本帝国の大陸侵略の始まりである。それまでの鎖国をかなぐり捨て、日清・日露の戦いで朝鮮半島から満州へと侵略に乗り出したきっかけが明治維新だった。

安倍総理は明治150年の演説で、「明治維新によって独立を守った」とその光の部分を強調し、侵略戦争などの影の部分には触れなかった。

韓国では、いつものようにこの安倍演説を批判的に伝えている。与党に近いハンギョレ新聞の記事を引用する。

『 明治維新は、日本が本格的に近代化を推進する契機を用意した“歴史的事件”だが、韓国や中国など周辺国ではかならずしも美化していない。明治維新を通じて成長した日本が、日清戦争と日露戦争を通じて朝鮮を植民化し、勢いに乗じて中国を侵略したためだ。安倍首相は「若い世代は、今回の機会を通じてしっかりとわが国の近代化の時に起きた事件と光と闇などの色々な側面を貴重な経験として学んで欲しい」と話しただけで、明治維新の“闇”に対しては具体的に述べなかった。

明治維新賛美に周辺国が不安を感じるまた別の理由は、これを強調する主体が他でもない安倍首相であるからだ。安倍首相は、明治維新の父と呼ばれる吉田松陰を「尊敬する人物」と繰り返し話してきた。吉田松陰は、後世に残した著述集『幽囚録』で、日本が沖縄、朝鮮、台湾、フィリピン、中国を支配しなければならないと主張した。このような侵略的世界観は、その弟子である伊藤博文、山県有朋(“日本陸軍の父”)、寺内正毅(初代朝鮮総督)により継承され、政府の政策として執行された。安倍首相の明治維新賛美は、この時代の“栄光”を強調し、自身の念願の事業である憲法改定に力を吹き込むことが目的という分析もある。』

しかし、人民日報の日本語版「人民網」には、この安倍演説に関連する記事は掲載されなかったようだ。従来なら、韓国同様、中国メディアも批判的に伝えていたはずだ。そこには明らかに政権の意思がある。

「人民網」での日中首脳会談の記事から、歴史問題に関する習近平主席の発言を引用しておく。

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『今年は中日平和友好条約締結40周年にあたる。1978年に、両国の前の世代の指導者たちが平和友好条約を締結し、法律の形式で両国の恒久的平和友好という大きな方向性を確定させ、双方が相互利益の協力を展開し、共同発展を追求し、歴史や台湾地区など敏感な問題を適切に処理するために、着実なよりどころと保障を提供した。双方の共同の努力の下で、目下の中日関係は正常な軌道に戻りつつあり、積極的な流れが再びみられるようになった。これは双方がともに大切にする価値のあることだ。双方は中日間の4つの基本文書で確立された各種の原則に従い、平和友好の大きな方向性を堅持し、相互利益の協力を引き続き深化させ、中日関係が正常な軌道に戻るとの基礎の上に新たな発展を遂げるよう推進しなければならない』

『より積極的な安全保障の相互交流を展開し、建設的な二国間の安全保障システムを構築し、平和発展の道を共同で歩み、地域の平和安定を守らなければならない。より緊密な国際協力を展開し、共同の利益を開拓し、地域経済の一体化を推進し、グローバルな課題に共同で対応し、多国間主義を守り、自由貿易を堅持し、開放型世界経済の建設を推進しなければならない。信頼を重視し約束を守り、中日間の4つの基本文書と双方がこれまでに到達した共通認識に基づいて行動し、矛盾や溝を建設的に処理し、中日関係の健全な発展のための政治的基礎をしっかりと守らなければならない』

極めて穏やかな表現である。

歴代の日中指導者が「敏感な問題を適切に処理するために、着実なよりどころと保障を提供した」と評価し、4つの基本文書をベースに「矛盾や溝を建設的に処理しなければならない」と言ったのだ。

この発言の中には、安倍総理が執念を燃やす憲法改正を牽制する狙いがあるかもしれないが、最近の中国首脳の発言としては相当抑制された表現である。

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もちろん背景には、米中関係がある。

トランプ政権は、強大化する中国をこのタイミングで叩き潰すことに決めたようだ。「放置しておけば、中国への技術移転は際限なく続き、世界最大の市場を独占する中国企業には太刀打ちできなくなる」そう判断したのだろう。そのアメリカの危機感は、あながち杞憂ではないだろう。

習近平主席はこのところ、「自力更生」という言葉を頻繁に使うようになった。かつて毛沢東がよく使った言葉だ。

アメリカが中国を潰しに来るなら、「自力更生」で自らの力で成長していくしかない。中国にはすでに立派な研究施設もある。若く発想豊かな起業家たちもいる。「自力更生」は単なる夢物語ではない。もし日本との関係改善が進めば、巨大な中国市場をエサに日本企業の力を利用することは可能だろう。「自力更生」を進める上で、日本を抱き込むことは大いに利益がある。

そのためには、「反日」カードは当面机の下に隠しておく、それが習政権の方針変換なのだろう。

果たして、日中関係はこのまま新時代を迎えるのか?

それは、アメリカと中国の間で立ち回る安倍総理の手腕にかかっている。

アメリカの逆鱗に触れずに、中国との関係を拡大し、中国の力を梃子に北朝鮮問題を解決しようという曲芸に安倍さんは挑もうとしている。

来年、習近平主席を日本に招き、その後には新天皇の訪中を仕掛けるのではないかと、私は予想している。

 

 

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