ディール

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目まぐるしい一週間だった。

これも何をしでかすか予想がつかないトランプ流のなせる技か。北朝鮮がこれほど慌てるのを初めて見た。

簡単に経緯をまとめておく。

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きっかけはペンス副大統領だった。

21日、FOXニュースとのインタビューで「トランプ大統領を手玉に取るような行動は大きな過ちであり、トランプ大統領が会談の席を途中で立つ可能性は間違いなくある」とリビアにも言及しながら北朝鮮に警告した。

これに対し、北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が反発した。国営の朝鮮中央通信に対してペンス副大統領の発言を「愚か」と非難したのだ。さらに、「会談場で会うか、核対核の対決の場で会うかは全て米国の決心と振る舞いにかかっている」と述べた。

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険悪な雰囲気が漂う中で開かれた22日の米韓首脳会談。仲人役を努めたい韓国の文在寅大統領に対し、トランプ氏は米朝首脳会談見送りの可能性にも言及した。

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一方北朝鮮は、約束通り北東部・豊渓里(プンゲリ)にある核実験場の廃棄を外国報道陣に公開した。アメリカ、イギリス、中国、ロシア、韓国のジャーナリストに取材の許可が出た。

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報道陣の前で次々に爆破作業が行われた。しかし、当初約束していた核の専門家による立会いを北朝鮮は認めなかった。本当に核実験場は廃棄されたのか、爆破の映像以外に検証する術はないのが実情だ。

その爆破の映像が世界に向けて伝送される前に、トランプ大統領は誰も予想しなかった策に出た。

24日、「米朝首脳会談を中止する」との書簡を金正恩委員長に送ったことを明らかにしたのだ。

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突然発表された米朝首脳会談の中止。日本のテレビも想定外の事態に驚きを隠せなかった。

今夜放送予定のNHKスペシャルは「緊迫の米朝 首脳会談はなぜ中止された」というタイトルで検証番組を編成したほどだ。

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直後に会見したトランプ大統領は「北朝鮮と世界にとって大きな後退」としたうえで、「北朝鮮が愚かで向こう見ずな行動を取った場合、米軍の準備は整っている」と警告することも忘れなかった。

この段階で、メディアの多くは首脳会談は中止され、先行きは予断を許さないと伝えていた。

だが私は、トランプさんが自らの名前を歴史に刻むチャンスをそう簡単に手放すとは思えなかった。だから、このブログにも何も書かず様子を見ることにしたのだ。

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このトランプ大統領の決断は、北朝鮮の予想外の反応を導いた。

北朝鮮の金桂冠第一外務次官が直ちにコメントを発表したのだ。トランプ大統領を「内心、高く評価してきた」と表明する北朝鮮としては超異例のコメントだった。

NHKがその全文を掲載してくれているので、北朝鮮の歴史的譲歩の証としてここに引用させていただく。

 

『 今、朝米間には、世界がなみなみならぬ関心をもって注視している、歴史的な首脳会談が日程に上り、準備作業も最終段階で進められている。

数十年にわたる敵対と不信の関係を清算し、朝米関係改善の新たな一里塚をもたらそうというわれわれのしんしな模索と積極的な努力は、内外の一様な共感と支持を得ている。

そうした中で、24日、アメリカ合衆国のトランプ大統領が突然、すでに既成事実化されていた朝米首脳の対面を取りやめるという公式な立場を発表した。

トランプ大統領はその理由について、われわれのチェ・ソニ外務次官の談話内容に「激しい怒りと露骨な敵意」が込められているためだと述べ、以前から計画されていた貴重な対面を行うことが、現時点では適切ではないと明らかにした。

私は、朝米首脳会談に対するトランプ大統領の立場表明は、朝鮮半島のみならず、世界の平和と安定を望む人類の念願に符合しない決定だと断定したい。

トランプ大統領が取り上げた「激しい怒りと露骨な敵意」は、事実上、朝米首脳会談を控えて一方的な核廃棄を迫ってきた米国側の行き過ぎた言動がもたらした反発にすぎない。

繰り広げられた好ましからざる事態は、歴史的に根深い朝米の敵対関係の実情がどれほど深刻で、関係改善のための首脳会談がどれだけ切実に必要なのかをありのままに示している。

歴史的な朝米首脳会談について言えば、われわれはトランプ大統領が、過去のどの大統領もできなかった英断を下し、首脳会談という重大な出来事をもたらすために努力してきたことを、内心、高く評価してきた。

ところが、突然、一方的に会談中止を発表したのは、われわれとしては思いがけないことであり、非常に遺憾だと思わざるをえない。

首脳会談に対する意志が欠けていたのか、もしくは自信がなかったのか、その理由については推し量りがたいが、朝米首脳の対面と会談そのものが対話を通じた問題解決の第一歩として、地域と世界の平和と安全、両国間の関係改善に意味のある出発点になるとの期待をもって、誠意ある努力を尽くしてきた。

また、「トランプ式」というものが、双方の懸念を解消し、われわれの要求する条件にも合い、問題解決に実質的に作用する賢明な方策になることを、ひそかに期待もしてきた。

われわれの国務委員長(キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長)もトランプ大統領と会えばよいスタートを切ることができると述べ、そのための準備に全力を傾けてきた。

にもかかわらず、米国側の一方的な会談中止の発表は、われわれが傾けた努力と、われわれが新たに選択して進むこの道が、果たして正しいのかを改めて考えさせている。

しかし、朝鮮半島と人類の平和と安定のために全力を尽くそうとするわれわれの目標と意志に変わりはなく、われわれは常に寛大で開かれた心で、米国側に時間と機会を与える用意がある。

一度では満足な結果を得られないが、1つずつでも段階的に解決していくなら、現在より関係がよくなるはずで、より悪くなるはずはないことぐらいは、米国も深く熟考すべきだろう。

われわれは、いつ、いかなる方法でも、向き合って問題を解決する用意があることを米国側に改めて明らかにする。

 

北朝鮮は長年、アメリカと直接対話することを最優先事項としてきた。核・ミサイルの開発もその戦略の一環だった。だから、ようやく訪れたチャンスを自ら潰すことはありえない。

トランプ大統領の脅しにまんまと引っかかり、本音をさらけ出したのは金委員長をはじめ北朝鮮首脳部がよほど慌てた証拠だろう。

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この北朝鮮の対応を受けて、トランプ大統領は満足そうにあっさりと前言を翻した。「予定通り6月12日に米朝首脳会談が行われるかもしれない」とヌケヌケと発言し、世界を再び驚かせたのだ。

全てはトランプさんが大好きな「ディール=取引」。

北朝鮮も世界もまんまと騙されたようにも見える。

ただ、よく観察してみると、市場への影響は限定的で、マーケットはトランプさんの手法をある程度見切っていたように感じる。私と同様、所詮は駆け引きではないか、と疑ったのだろう。

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とりあえず首脳会談への道を残した金正恩委員長は、韓国の文大統領に連絡し、極秘裏に南北首脳会談を板門店で開いた。先月の歴史的会談からまだ1ヶ月も経っていない。

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この会談で金委員長は非核化の意思を改めて明確に示したという。

トランプ大統領の狙い通り、アメリカが再び主導権を取り戻した形だ。こうしてアメリカのペースで交渉は進む。駆け引きが得意な北朝鮮が明らかに押されている。

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トランプ流「ディール」が幅を利かせる時代。それはとりも直さず「弱肉強食」の時代だ。

膠着してきた北朝鮮問題が解決に向かうのは喜ばしいことだが、日本も油断すると食い殺されてしまうかもしれない。

 

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