緒方貞子の時代

女性初の国際難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんが亡くなった。

92歳だった。

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緒方さんが国連機関のトップとして世界の難民たちのために尽力した1990年代、私も特派員としてボスニア紛争やルワンダの虐殺を取材してた。

あの時代、戦争は悪であり、難民を救援することは善であった。

冷戦が終わり、平和と人権という価値観が世界に広がっていくという希望があった時代だ。

報道に携わる人間としても、とてもやりがいがあった。

東西陣営のイデオロギーの対立に終止符が打たれ、世界中で繰り広げられた米ソの代理戦争は西側の勝利で終わり、戦争の犠牲になり搾取される人間は減り、世界は少しずついい方向に進んでいるように思えた。

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しかし、人間の営みは、そう簡単には変わらない。

イデオロギーで抑え込まれていた宗教的な対立が表面化し、ソ連に変わる超大国として中国が台頭する中で、世界は違った意味で危ない状況に追い込まれていく。

インターネットが世界各国でかつてない変化をもたらし、自己主張ばかりが優先され、他者を思いやる想像力や寛容さが失われていき、そのシンボルとしてトランプ大統領が登場した。

トランプさんは単なる変なおじさんではなく、インターネットが生み出した時代のシンボルそのものだ。

緒方貞子さんは、21世紀のこの変化をどのような気持ちで見つめていたのだろう?

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数日前、AFP通信が『香港だけじゃない 10月に入って世界中でデモ急増』という記事を配信していたのが目に止まった。

日本ではほとんど報じられないが、世界各地で不安定さが増幅しているようだ。

引用させていただこうと思う。

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『 10月に入ってから世界各国で抗議運動がかつてないほど相次いで発生している。主要な抗議運動について以下にまとめた。

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■チリ

期間:10月18日以来。

きっかけ:首都サンティアゴの地下鉄運賃値上げ。

現状:セバスティアン・ピニェラ(Sebastian Pinera)大統領は運賃値上げを見送り、基礎年金支給額の増額や電気料金の値下げなどの社会政策を実施すると発表。しかし、物価高や社会的格差に対する不満からデモは拡大しており、25日には、約100万人がサンティアゴで同国史上最大とみられるデモ行進に参加した。

死傷者数:死者19人。

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■ボリビア

期間:10月21日~。

きっかけ:10月20日に実施された大統領選の開票結果をめぐる論争。この選挙では、現職のエボ・モラレス(Evo Morales)大統領が4選を決めた。

現状:複数の地域で暴動が発生中。10月23日にはゼネストも実施された。

死傷者数:モラレス氏の支持者と反対派との衝突で負傷者が何人か出ている。

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■レバノン

期間:10月17日~。

きっかけ:メッセージ交換アプリを使った通話への課税案。

現状:サード・ハリリ(Saad Hariri)政権は課税案を即時撤回し、緊急経済再生計画を発表。しかし抗議デモは拡大し、デモ隊は政治エリート層の一掃を要求している。

死傷者数:なし。複数の衝突が起き、国家的なまひ状態が続いているものの、デモはおおむね平和的に実施されている。

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■エクアドル

期間:10月1~13日。

きっかけ:燃料補助金の廃止。

現状:レニン・モレノ(Lenin Moreno)大統領と抗議行動の中心となっていた先住民団体の代表が、12日間続いたデモの終結で合意した。

死傷者数:死者8人、負傷者1340人。

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■イラク

期間:10月1日~。

きっかけ:汚職や失業問題、劣悪な公共サービスに対する抗議の呼び掛けがソーシャルメディア上で自然発生。

現状:1週間にわたる抗議運動が治安部隊との衝突に発展。一度は沈静化したが、10月25日にデモが再開され、暴力行為が急増している。

死傷者数:最初の1週間で150人以上が死亡。10月4日だけで42人が死亡した。

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■その他の抗議運動

 香港とアルジェリアでも、今年に入って始まった抗議運動が現在も続いている。』

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このところ、最大の難民発生国になっているシリアでは、また新たな状況が生まれている。

来年の大統領選挙をにらみ、トランプ大統領がシリアからの米軍撤退を始めるとすかさずトルコ軍がシリア領へとなだれ込み、IS掃討のため最前線で戦ったクルド人に襲いかかった。

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米軍が撤退したシリア北部には、アサド政権軍も兵を進め、ロシアの存在感もグッと高まっている。

国を持たない世界最大の民族と言われるクルド人たちは、今度もまた大国の思惑に梯子を外され、見捨てられた。

緒方さんが活躍した時代に克服しようとした弱肉強食の論理も、今や誰も止めようとする者もいなくなり、世界を支配しようとしている。

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こうした中で、ISの指導者バグダディ容疑者が米軍特殊部隊の急襲を受けて死亡した。

世界を恐怖に陥れたテロリストが最後に潜んでいたのは、トルコ国境にも近いシリア北西部の小さな村だった。

アメリカ兵に追い詰められたバグダディ容疑者は、トンネルに逃げ込み、3人の子供とともに爆死したという。

NHKニュースでは、学校に通うことが許されないISの子供たちの現状をリポートしていた。恐怖支配の代償は、罪のない子供たちに悲劇をもたらす。

緒方さんが活躍したまだ理想が大切にされていた時代は、残念ながら遠くなりつつある。

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