新政 No.6

昨日は農業関係の方との会食だった。

そこで出された日本酒についてぜひ書いておきたい。

秋田・新政(あらまさ)酒造のお酒「No.6」。その最上級モデルがこの「X-Type」である。

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日本酒とは思えないワインのようなボトル。大きく書かれた「6」の文字。「2016年」という製造年も明示されている。

これぞ世界からも注目される新進気鋭の日本酒、地元の秋田でもほとんど手に入らない。そんな幻の銘酒を味わう貴重な機会を偶然いただいたのだ。

一口含むと、果実のような優しい甘みが広がった。

私はもともと日本酒が得意ではなかったが、その一番の理由は日本酒独特の匂いと甘ったるい口当たりだった。でも最近の日本酒はそうした部分が随分改善された気がする。

この「No.6」では、そんな私が抱いていた日本酒のイメージが完全に消えている。これはまさしく世界に通用する日本酒だと思った。

この新政酒造を取材した良質なドキュメンタリー番組がある。アマゾンプライムビデオで配信されている「PRIME JAPAN 日本のこころに出会う」という番組の日本酒編だ。

このドキュメンタリーでは日本酒の様々な側面を学ぶことができるが、「日本酒のルネサンス」として紹介される新政酒造のストーリーはとても魅力的だ。

新政酒造は少し前まで普通酒を大量生産する冴えない酒造会社だった。そんな新政酒造に革命を起こしたのが、若き社長・佐藤祐輔さんだ。

東大文学部卒で元フリージャーナリスト。蔵元の長男に生まれながら日本酒の匂いを嗅ぐのも嫌だった佐藤さんが新政酒造に戻ったのは32歳の時だった。それからわずか数年で「新政」を愛好家注目のブランドに変えた。

ボトルに大きく書かれた「No.6」の「6」は、新政の蔵で発見された「6号酵母」の「6」だという。佐藤社長は新政オリジナルのこの6号酵母と秋田米にこだわり、添加物を一切使わず、手間のかかる木の桶をあえて使うことで歴史ある蔵元に革命をもたらした。

会社のホームページには、「No.6」についてこう書かれている。

『新政の唯一の定番生酒。6号酵母の魅力をダイレクトに表現することを目的に醸造されるラインが「NO.6(ナンバーシックス)」である。本来、日本酒の生酒は冬の新酒から翌年の春先まで、つまり気温が低い時期のみ出荷するのが妥当といえる。無殺菌で酵素も失活されていない日本酒の生酒は、6度以下、つまり冷蔵庫の中でしか品質を維持できない。このため温暖期における出荷は、変敗リスクが高いため、避けられてきたのである。しかし「NO.6」は、蔵内でのマイナス5度以下の貯蔵管理体制、そして厳選された銘酒専門店のみで販売することで、鮮度の高い生酒、それも市場においてもたいへん珍しい生酛純米の生酒を、通年でお届けすることを可能にしている。』

その中でも私が昨夜いただいた「X-Type」についてはこう説明されていた。

『「NO.6」最上級モデルのX-Type(エックスタイプ)は、「eXcellent」(豪華版)を意味するフラッグシップモデルである。磨きこまれた米を用いるため、より格調高い仕上がりであり、6号酵母の清楚にして力強い存在感をもっとも鮮やかに感じ取れるのがこのX-Typeであると蔵元は考えている。なお6号酵母が発見された昭和5年、すでに精米歩合40%の酒が登場しており、6号酵母はこうした吟醸もろみから採取された。6号酵母誕生当時の槽口の味わいを、85年の時を超えて想起させる作品であるように願いつつ醸される作品である。』

何だかとてもありがたいお酒である気がしてくる。酒造りは神事であり、科学でもあるのか。

そんな日本酒の革命児・佐藤社長の考えに触れることができる記事を見つけた。

就職サイト「リクナビNEXTジャーナル」の「東大卒エリート記者が指折りの日本酒蔵元に」という記事だ。

とてもいい記事なので興味がある方はぜひ元の記事を読むことをお勧めするが、将来消えてしまうかもしれないのでここに一部を引用させていただく。

『 今のような日本酒ブームが起きる以前、国内アルコール消費量のうち日本酒の消費量がわずか7パーセントまで低迷した時期があった。「海外で賞を獲得した日本酒を逆輸入しないと、もはや日本では消費されない」と、どこの蔵元もワインを模したような薫る酒ばかりを造るようになっていた。バナナ香に、洋なし香…確かに乾杯酒にはおいしいけれど、和食と合わせるとどうも舌が疲れてしまう。そんな折、利き酒会へ出向き、ある蔵元の酒に舌を巻いた。それが秋田の「新政(あらまさ)」だ。

それまでの「新政」といえば、いわゆる“昭和の酒”である普通酒ばかりを大量生産する地方の大手蔵というイメージが強く、全量純米の地酒を丁寧に造るイメージとは程遠かった。その「新政」が、“猫も杓子も薫酒の時代”にそっぽを向いたような、まるで化粧っ気のない、真っ向勝負の酒を出してきた。聞くと、酵母も自分の蔵から生まれた六号酵母しか使っていないという。 “米の味が前面に押し出された、輪郭がくっきりとした日本酒らしい酒。今年の新政はなんだかすごい”。そんな噂が、舌の肥えたバイヤーや飲食店店主の間でクチコミで広がっていった。――2008年、現在の社長である佐藤祐輔氏が蔵に戻って、一年後の出来事だ。

東大文学部卒業で、元フリーの記者。そんな異色の経歴を持つ佐藤氏が醸し出す酒は、“新生・新政”と呼ばれ、同氏が蔵に戻って7年後の今、押しも押されぬ人気酒となっている。酒蔵の長男として生まれながら、蔵を継ぐ気など毛頭なかったという佐藤氏の転職のきっかけと仕事への原動力とは――?』

『 世界的なブランドになっている日本のメーカーって、今はあまりないですよね。閑散とした地方のビルですら、堂々とシャネルやロエベが入っている。それをヨーロッパのブランドは、世界中でやっているわけです。日本のブランドは今、そんなふうに自分の国の文化を他国にたたきつけるような強い力を失っています。 そんな現代において、外貨を獲得するのに役立っているのは、寿司や蕎麦、浮世絵といった江戸時代以前からあるもの。京都も必ず世界の人気観光都市トップ5に入ってくる。 そういった伝統的なものが世界で戦えるものであって、それを日本酒造りに置き換えるなら、江戸時代から受け継がれている生もと造りや木桶造りになるんです。日本酒を世界ブランドへと押しあげるなら、そういった古来の造りを引き継いでいくことこそ大切なんだろうなと思っています。

海外や東京向けに、味を変える蔵元さんもありますが、僕はマーケティングは一切しません。むしろ、マーケティングなんかした瞬間に、終わりだとすら思う。それよりは自分の直感で美的だと思うパーツを集めて、自分がとことん納得のいくものを出荷するほうがいい。お客さんや周りがどうとか気にせずに、まずは僕が一番いいと思ったものを出しています。すべては自分の美学の問題。人と比べるものではありません。

そもそも、葛飾北斎は21世紀のフランス人のために絵を描いていたわけではありません。北斎は自分が描きたいものを描いて、後世まで語り継がれる絵画をのこした。ただ、それだけのことです。たまたま僕の舌がキャッチーだったり、ミーハーだったりするところがあって、今は案外、僕の酒もウケていますが、これが仮にズレていたとして、自分が納得のいかない酒を世に出して売れたとしても喜べないと思うんです。それよりは自分の中の美学を、とことん追求していきたい。 僕の美学とは何かというと「世の中のためになることをカタチにしていくこと」です。マーケティングはやりませんが、それが世の中のためになり、よい取り組みになるのであれば、それは俄然やる気を出します。

無論、自分の美学を追求していくためには、毎年違うことをして、進化し続けることは必須です。昔の手法を取り入れているから、もしかすると進化と呼べるものではないのかもしれませんが、その中でも「木桶をもっと増やさなければ」とか、「無添加でもより味を安定させなければ」とか、やるべきことは山積みなんです。そっちのほうばかり考えているから、あまり他者がどうのとか、マーケティングがどうのとかは、一切考えないですね。

そんな風に日々を過ごしていると、飲み屋へ行って自分たちの酒を飲んでも、「ああ、うちの酒はほかの酒とは全然違って特徴的。やっぱりうまい」と好評価になる。この仕事をやっていて良かったな、って気になりますもんね。』

まるで学者のような風貌の佐藤社長からは、日本の将来への希望が見えるような気がする。

今後ぜひ注目していきたい人材。そしてまた機会があれば、飲んでみたいお酒である。

 

 

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