離郷、そして・・・

「テムジン」という制作プロダクションがある。

中国をテーマにした素晴らしいドキュメンタリー番組を作る会社だ。このテムジンが制作した新しい番組が昨日放送された。

BS1スペシャル「離郷、そして・・・ 〜中国 史上最大の移住政策〜」。今回も素晴らしい作品だった。

NHKのホームページには、次のようにその内容が書かれている。

『  いま、中国でかつてない規模の移住政策が進められている。へき地に住む貧困層の農民1000万人を村ごと都市近郊に移住させ、貧困問題を一挙に解決しようという試みだ。貧困層を市場経済に組み込むことで、経済の底上げにつなげるのがねらいである。番組では中国西北部の寧夏回族自治区、半子溝村の集団移住を1年にわたって記録。前編では、故郷を離れる人々の期待と不安、後編では、都市郊外の新天地での厳しい現実を描く。』

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イスラム教徒の少数民族である回族の人たちは、清朝に抵抗したため辺境の不毛の地に追いやられた。その子孫は、水も木もない痩せた土地を耕し農民として貧しい暮らしをしてきた。その村に貧困問題の視察のため、李克強首相がやってきた。「希望は何か?」と問う首相に村民たちは「ここから出たい」と言った。そしてこの村は習近平政権が進める貧困撲滅政策のモデルケースとして自治区の中心とし銀川郊外での集団移住の対象となった。村をあげての集団移住だ。

都市戸籍を持たない農民たちは、勝手に都市に移り住むことはできない。だから、彼らは自分たちが本当に都市に移り住めるとは夢にも思っていなかった。移住が決まり、村民の大半は喜び、政府に感謝した。

しかし、上から突如降ってきた移住話は住民一人ひとりの人生を根底から変えた。1人5万円の負担金を払うことができず金策に走り回る人、手塩にかけてきた農地や近くの村に嫁いだ娘たちと離れることに不安を感じる人。先祖代々の土地を捨てる、それは簡単な話ではない。

皮肉なのは誰よりも移住を望み、いち早く分担金を払い込んだ村でも裕福な夫婦だけが移住を認められなかったことだ。この夫婦の場合、妻が教師をしていたため、妻と子供たちは都市戸籍を持っていた。夫だけが農村戸籍だったため「単身者」と見なされたのだ。移住の条件は、2人以上の世帯。彼らは盛んに陳情するが結局認められず、村民全員が移住した無人の村に残された。この辺りが、いかにも中国的だ。大きな方針の前では、多少の不合理には目をつぶる。いちいち個別の事情に構っていては、事が進まなくなるという考えだ。

政府主導でダイナミックに伝統社会が変わり続ける中国。その広大な国土のあちらこちらで人々の喜びと怒りが渦巻いているのだろう。ドキュメンタリーを作るには最高の舞台だ。

移住先として新たに建設された村は、1戸の面積が100平米あまり。水道もガスも暖房もある近代的な住宅だ。地元政府が55億円を投じて建設したという。

しかし、学校にも行かず農業で生きてきた人たちは、なかなか都市で仕事が見つからない。村ではタダだった光熱費が彼らを苦しめる。それでも、次の世代のために頑張るしかないと新たな環境に対応しようと努力している。すごいパワー、すごいエネルギーがそこにはある。

人口13億人の巨大国家を豊かにするという人類史上前例のない壮大な実験の一端が、このドキュメンタリーには凝縮されていた。

こうした丁寧な仕事をするスタッフがいる限り、テレビは本当に面白いと思う。

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