<吉祥寺残日録>国連UNHCRの支援対象者がついに1億人を突破!「世界難民の日」に想うこと #220620

今日は「世界難民の日」なのだそうだ。

2000年に国連総会の決議によって制定された。

6月20日というのはアフリカ統一機構の「アフリカ難民条約」が発効した日に因んでいる。

私が初めて難民を取材したのは、バンコク支局に赴任した1986年だった。

当時はカンボジア内戦に伴う大量の難民がタイ国境に押し寄せ、巨大な難民キャンプがいくつも作られていた。

上と下の写真はどちらも私が当時撮影したものだ。

あの時代、まだ世界各国で共産ゲリラが革命を目指して活動していて、アジアでもアフリカでも難民・避難民が発生していたが、まだ国連の活動が今ほど充実していなかったため数字的に把握されることもなかった。

冷戦が終結してようやく世界が一致して難民の支援を行う機運が生まれ、国連やNGOの活動も充実していく。

それに伴って、国外に避難した難民だけでなく、国内で住む場所を追われた避難民の数も統計に反映されるようになり、年々難民の数は増加していった。

私自身は冷戦が終わって世界が少し平和になった印象を持っていたが、今世紀に入ると再び世界は急速に不安定化し、各地で大規模な人道危機が起きるようになった。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のサイトを見ると、こんなフレーズが踊っていた。

2022年5月、避難を強いられる人の数は1億人を超えました

UNHCRの支援対象者の数が1億人を超えたというのだ。

ものすごい数字である。

ウクライナの例を見るまでもなく、一度戦争が起きれば誰もが難民になるリスクがある。

普通に豊かな生活をしていたシリア人が、ウクライナ人が突然住む場所を失い、着の身着のまま避難せざるを得なくなる。

それまで築いたキャリアや財産、人間関係も奪われて、人の善意にすがって家族を養うしかない境遇に突然追い込まれるのだ。

考えるだけでゾッとする。

しかも世界の人々の関心はいつまでも続かず、次第に忘れ去られた存在となり、多くの難民たちが想像もしなかった地獄に直面することになる。

自分の生活に直接関係がないからといって、こうした人たちの境遇に想像力を働かせることのできない人は、万一自分が難民になった時、あまりの絶望のために生きていく力を失ってしまうだろう。

同じ時代に生きる人間として、今日は世界の難民の現状を知っておきたいと思った。

これが現在、UNHCRの支援を必要としている難民・避難民たちの分布図である。

アフリカを中心に、中東、中南米、アジア、ヨーロッパと広範に広がっていることがわかる。

日本で報道されるのはごくわずか。

この機会に、どういう国でどういう問題が起きているのか、UNHCRのサイトをもとに勉強しておこうと思う。

アフリカ 3826万2920人

日本ではほとんど報道されることもないが、アフリカでは各地で今も内戦が繰り広げられ、干魃による食糧不足で住む場所を追われる人たちがいまだに発生し続けている。

エチオピア、モザンビーク、中央アフリカ、そしてマリ、ニジェールといったサヘル地域等、2021年も武装勢力による暴力行為、誘拐、強奪、GBV(ジェンダーに基づく暴力)により多くの人々が国内外で避難を強いられました。さらに、5月にはコンゴ民主共和国のニーラゴンゴ火山が噴火、UNHCRは緊急支援を実施しました。
また、アフリカでは干ばつや洪水といった気候変動の影響も大きな影を落としており、カメルーンやサヘル地域では、水資源をめぐる衝突により多くの人々が避難を強いられています。
この地域における危機は世界から注目が集まらず、資金不足が続いていますが、UNHCRは暴力行為から逃れて来た人々を保護し、緊急支援を提供するのみならず、2018年12月に国連総会で採択された難民保護を促進していくための国際的な取り決め、難民に関するグローバル・コンパクト(Global Compact on Refugees)に則り、無国籍者の解消、民間企業等と連携した、タブレット、SMS等を利用した教育やコミュニケーションの促進を展開しています。

引用:国連UNHCR協会

コンゴのニーラゴンゴ火山といえば、ルワンダ難民支援の目的で自衛隊が派遣された地域である私も当時取材に行った。

火山の麓にあるゴマという街が難民支援の拠点だったが、このエリアの治安は世界最悪レベルで、役人たちは露骨に賄賂を要求してきた。

難民の中には、内戦で敗れたルワンダ旧政府軍の兵士たちもいて、まさに無法地帯と言っていい状況がそこにはあった。

ソマリアの大干魃の取材もしたが、国際社会の支援が行き届かない乾燥した大地での支援活動は過酷に一語に尽き、資金力の乏しい民間NGOが粗末な小屋を立てて行う貧弱なものだったのを思い出す。

アフリカには世界の関心が集まらない難民たちが多くいる。

世界的な食糧不足、水不足、物価高騰の流れは、真っ先に彼らの生命を脅かすことになるが、アフリカの人たちの苦しむ映像はウクライナ難民のように国際世論を喚起することはない。

アメリカ(中南米) 1697万5313人

Embed from Getty Images

2021年も情勢は収まらず、政情不安と食料難に苦しむ南米ベネズエラ、犯罪組織等による迫害・暴力行為が横行する中米エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラ、ニカラグア等から逃れる人々の数は増加の一途をたどりました。
新型コロナウイルス感染症のロックダウンによる国境封鎖は緩和されましたが、このパンデミックによる貧困はさらに悪化し、栄養失調や性暴力のさらなる増加も報告されています。
UNHCRはパートナー団体等と協力し、難民や庇護希望者のみならず無国籍者にも新型コロナ・ワクチンの接種を促進。また、ブラジル、コロンビア、エクアドル等では、保護/居住プロジェクトを展開し、27万人以上を支援しました。メキシコでも、避難して来る人々への緊急支援を実施している他、主に市民社会が運営している避難所を支援し、性暴力の被害者の保護を実施しています。

引用:国連UNHCR協会

地理的に遠いこともあり、どうしても中南米の情報は入りにくい。

ベネズエラの混乱はもうずっと続いているし、メキシコや中米のギャングの無法ぶりも時々耳にするが、こんなにUNHCRの支援対象者がいるというのは正直驚いた。

かつて「アメリカの裏庭」と呼ばれた中南米諸国だが、いつの間にか反米を掲げる左翼政権が多くの国で誕生し、アメリカの影響力は激しく弱まっているという。

ロシアによるウクライナ侵攻に際しても、中南米諸国の多くが中立的な立場を取った背景もこのあたりにありそうだ。

学生時代に旅して以来、中南米には一度も足を踏み入れていないが、あの陽気な気にいい連中も物価高騰や格差拡大に怒り、いつ何が起きても不思議ではない状況が続いていることを知っておかなければならない。

アジア・太平洋 1134万2153人

Embed from Getty Images

2021年、この地域では世界を震撼させた2つの危機がぼっ発しました ― ミャンマーとアフガニスタンです。情勢悪化と混乱によって、2021年だけでミャンマーでは3万1000人以上が、アフガニスタンでは少なくとも15万8000人が国外に逃れ、国内でも数万人が避難を強いられました。
UNHCRは情勢悪化後も現地にとどまり、アフガニスタンの2021年8月の混乱において、約100万人に支援を提供。救援物資を提供するのみならず、人々の生活を守るための現金給付、零下を記録する冬の防寒支援、そして女性保護を実施しました。 ミャンマーでは、非常に弱い立場に置かれた国内避難民28万7000人を支援。救援物資や新型コロナ対策の設備も提供しています。
バングラデシュでは、今も約90万人のロヒンギャ難民が避難生活を送っており、難民キャンプの混雑を緩和するためにバサンチャー島に新たな居住設備を建設。また、中央アジアでは、無国籍問題を解消するため、ウズベキスタンで3万8000人が国籍を取得しました。

引用:国連UNHCR協会

こちらは地理的に近いせいで、日本でも報道されることが多く、ミャンマーとアフガニスタンのニュースは日本でも関心を集めた。

そのため、UNHCRの支援対象者が意外に少ないというのが率直な感想だ。

アジアでは強権的な国家が多いとはいえ、アフリカや中南米に比べると政権がしっかり国内を掌握しているということだろう。

ヨーロッパ 1209万7566人

新型コロナによる国境封鎖を続ける国が残る中、難民・移民は増加し、2021年には12万3000人以上が地中海を渡りました。しかし、多くの人々は粗末なボートや小さな漁船等での航海を強いられ、3130人が命を奪われる、または行方不明となっています。このような避難の旅をする人の中には、人身売買や性暴力の危険にさらされやすい、親や保護者のいない子ども、LGBTIQ+といった非常に弱い立場に置かれた人々も多く含まれています。UNHCRは地元当局と協力し、緊急の保護活動を継続しています。
また、UNHCRは2021年もウクライナ東部において、非政府統制地域、接触線を越えて支援活動を展開。シェルターの修繕、孤立した地域の人々へ法的支援等の基本的サービスを提供するための地域プロジェクトを実施しました。アルメニア、アゼルバイジャンでも、紛争で被害を受けた人々へ支援活動を実施しています。

引用:国連UNHCR協会

ヨーロッパにおける支援対象者はウクライナ危機によって急激に増加した。

それ以前は、地中海を命懸けで渡ってくるシリアやアフガニスタン、アフリカからの難民の対応が中心だった。

世界の中でも最も理想を大切にするヨーロッパだが、それでも難民の受け入れは極右勢力の台頭につながり、結局はヨーロッパに入れない難民たちがトルコなどで立ち往生しているのが現状だ。

中東・北アフリカ 1598万5782人

Embed from Getty Images

10年以上となったシリア危機は今も続いており、2021年も避難を強いられる人の数は増加。新型コロナウイルスのパンデミックにより人々の経済状況はさらに悪化し、シリア難民の貧困が深刻化していることが報告されています。また、イエメンでも国内各地で攻撃は継続され、多くの国内避難民が栄養失調・飢餓等の人道危機に瀕している他、イラクやリビアでも、国際的な支援が必要とされる状況が続いています。
UNHCRはシリア周辺地域・難民・回復計画(3RP)を基に、シリア難民570万人と受入国の支援を進めていく共に、子ども保護、現金給付等を実施。また、イエメンでは10万5000世帯以上にシェルターと救援物資を提供し、飢餓の危機にある140万人に現金給付を実施しました。

引用:国連UNHCR協会

シリア、イラク、リビア、イエメン。

どこも戦争が大量の避難民を生み出している。

「アラブの春」から始まった民主化運動がまさか自分の国を崩壊させ、生活の基盤を全て奪われるとは誰も予想していなかっただろう。

シリアの悲劇は実の多くのことを教えてくれる。

10年の内戦を経験したシリア人の一部は世界最強の兵士として、今やリビアやウクライナの最前線で戦っている。

残された女性たちは、生きるために異国で身を売ったり臓器を売ったりして地獄の日々を送っているのだ。

他人の苦しみを理解するためには想像力が必要である。

そして想像力を働かせることができるようになるためには、ネットで情報に接するだけでなく、自らその現場に足を運び、私たちが暮らす地球で今何が起きているのか知ろうという努力も不可欠なのだ。

私は世界の各地で難民を取材した。

しかし難民キャンプに来る前の彼らの生活ぶりを想像するのは容易ではない。

アフリカや中東の難民はテレビや写真で見慣れてしまっていて、彼らがキャンプに来る前に普通の生活を送っていた人間だということをついつい忘れてしまう。

ウクライナ難民が世界中の同情を集め、難民に厳しい対応を取り続けている日本でさえ受け入れに異論が出なかったのは、ウクライナの人たちは白人でしかも美形であることが一因なのは間違いない。

そして強大なロシア軍の理不尽な侵攻によって街を破壊されたことを、誰もがリアルタイムで目撃していることも彼らへの同情につながったのだろう。

しかし難民の多くは私たちの目の届かない場所で発生する。

幸い日本人は難民になった経験がほとんどないが、敗戦時の満州などでは必死で日本を目指した悲惨な逃避行があった。

戦争が起きれば、必ず難民が発生する。

日本人もいつか難民になる日が来ないとも限らないのだ。

自国の防衛力を強化することばかりに熱心で、難民に対して門戸を閉ざし続ける日本の有り様は、やはり間違っていると私は強く思うのである。

<吉祥寺残日録>BS1スペシャル「レバノンからのSOS」が描く“コロナ地獄” #200714

コメントを残す