<吉祥寺残日録>1ドル=150円!インフレに苦しむ西側世論はウクライナと台湾を見捨てるのか? #221021

とうとう1ドル=150円の大台を突破した。

バブル絶頂の1990年以来、32年ぶりの円安水準だという。

円安は輸入物価の高騰を招き、今年度上期の貿易赤字は11兆円を超え過去最大の赤字となった。

「円安は日本経済にとってプラス」というこれまでの常識は崩れようとしている。

背景にはメイドインジャパンの国際競争力が落ちていることがある。

FRBによる相次ぐ利上げによって各国通貨の価値が対ドルで下落しているものの、日本円の下落率は主要国の中でトルコリラに次いで大きくすでに20%を大きく超えている。

ようやく解禁された訪日外国人の目からは今の日本全体が「バーゲンセール」のように見えるそうだ。

一部の業種にとって円安は追い風にはなるものの、国民全体から見れば家計を圧迫し、長年デフレのぬるま湯に慣れきった日本人にはキツく感じるだろう。

こうして物価高が生活を苦しめ始めると、国民の関心はどうしても身の回りのことに集まって、救いを求める外国からの声がどんどん届かなくなる。

ロシアに対する経済制裁が物価高の要因の一つと指摘されると、物価対策として制裁を止めようという意見が国民の間に広がっていくことも予想される。

それは日本に限ったことではない。

対ロシア最強硬派であるイギリスでは20日、就任したばかりのトラス首相が退陣を表明した。

就任からわずか44日目の退陣表明はイギリス史上最短である。

トラス氏がつまづいたのは物価高対策として打ち出した大幅な減税策が市場の不振を買い、ポンドと国債の急落を招いたことが原因だった。

金融市場の混乱を鎮めるためにトラス首相は看板政策だった大幅減税を撤回、それを主導した財務相も更迭して体制の立て直しを図ったが与党内からも批判が高まり完全に行き詰まってしまった。

後任の首相は1週間後には決まると見られるが、ジョンソン、トラスという積極的なウクライナ支援を牽引してきた2人のリーダーが相次いで失脚する中で、イギリスが内向きに転換することも考えられる。

アメリカも物価高対策に必死だ。

バイデン大統領は原油高に対応するため、国内の備蓄を放出する方針を発表した。

一部の州では中間選挙の予備投票も始まる中で、与党民主党は苦戦を強いられている。

アメリカ国民の関心も、ウクライナや台湾よりも一向に収まらない物価高に集まっている。

そんな中、野党共和党のマッカーシー院内総務は、世論調査で現在予想されている通り同党が下院で多数派になれば、ウクライナへの追加支援の法案成立が難しくなることが予想されると発言した。

「景気後退に入れば、ウクライナに白紙の小切手を切らないだろう」とも発言しているとされ、中間選挙で共和党が多数派を奪還すれば、バイデン政権が続けてきたウクライナに対する大規模な支援が止まる可能性がある。

窮地に立たされているプーチン政権にとってこれは願ってもないことで、ワシントンでは激しいロビー活動が展開されているに違いない。

ウクライナで反転攻勢に直面するロシアは、ウクライナ国内のエネルギー関連施設への攻撃を強めているという。

厳しい冬が迫り、エネルギーに対する需要が高まるのに合わせてウクライナ人から電力やガスの供給を奪い、厭戦気分を高めることを狙っているのだろう。

さらにロシアは、一方的に併合したウクライナ南東部の4州に戒厳令を布告した。

これらの州に残るウクライナ人を徴兵したり、強制的にロシア領内へ移住させる可能性も取り沙汰されている。

こうした苦しい状況の中にあっても、ウクライナの人々は節電に協力し、勝利を信じて戦い抜く覚悟は揺らいでいない。

南部へルソン州では占領されていた村々をウクライナ軍が次々に奪還し、州都へルソンに迫っているという。

こうした秋以降の反転攻勢を支えているのは、西側による巨額の軍事支援である。

もしも西側諸国に支援疲れの動きが広がり、支援が止まればたちまちウクライナ側の反撃も止まるだろう。

ウクライナの戦況の鍵を握るのは、西側の世論の動向だと言っていい。

ここにきて俄に注目を集めているのが、イランの存在だ。

武器の消耗が激しいロシアは、イラン製の自爆ドローンを使った攻撃を増やしている。

首都キーウでもたびたびイラン製無人機による攻撃があり、市民に死傷者が出ている。

アメリカは、イランがクリミア半島に技術者を送り込みロシアのドローン攻撃の手助けをしていると非難のトーンを高めていて、西側諸国とロシアを支援する陣営の対立がエスカレートしつつある。

「アメリカ・EUを中心とする西側陣営」vs「ロシア・中国を中心とする専制国家」。

新たなブロック化が急速に進んでいる。

しかし国民の意識は従来のまま、いつ核戦争が起きてもおかしくないという冷戦下の緊張感を国民に強いるのは西側の指導者にとっては極めて難しい仕事になるだろう。

そんな中で、日本人にとって最も心配されるのはやはり中国の動向だ。

現在開かれている中国共産党大会で、習近平総書記は台湾統一について「決して武力行使の放棄を約束しない。必要なあらゆる措置をとる選択肢を持ち続ける」と強調した。

これを受けてアメリカでは、台湾への武力侵攻が想定よりはるかに早まるとの見方が浮上している。

米海軍のギルデイ作戦部長は19日、中国による台湾侵攻の時期を問われ次のように答えた。

「中国は過去20年間、やると言ったことは何でも、想定より早く実現してきた。2022年や2023年の可能性も排除はできない」

つまり、今年、来年に軍事侵攻があってもおかしくないというのだ。

日本の国会ではようやく軍事費の増強について議論が始まろうとしているところ、とても来年には間に合わない。

韓国で保守政権が誕生し、日米韓の連携は強化されつつあるものの、要のアメリカ世論が内向きとなれば台湾は見捨てられることも十分想定しておかなければならないだろう。

その場合、日本はどうするのか?

アメリカの背後についていくだけでは、台湾有事に対応できないことは確実だ。

ブロック化が進む世界の中で、私たちはどのように生きていくのか?

目先の物価高よりもずっと根源的な問題である。

<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 EUがロシア産石油の9割禁輸で合意!欧州の未来をめぐる和平派と強硬派の綱引き #220601

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