<吉祥寺残日録>シニアのテレビ📺 BS世界のドキュメンタリー『プーチンの陰で 大富豪”オリガルヒ”の闇を暴く』 #231113

長い長い猛暑が終わると、もう冬の気配。

今朝は、岡山にも冷たい雨が降った。

テレビをつけると、イスラエル軍に包囲されたガザ最大のシファ病院の惨状が映し出される。

こうした悲惨な映像を目にするたびに気分が落ち込むと、意図的に目を背ける人も多い。

自分たちの生活とは直接関係のない異国の話・・・。

でも、本当にそうなのか?

悲劇を止めることができない分断された世界に生きる私たちに、もしもできることがあるとすれば、自分たちがどんな時代を生きているかを知ろうと努力することだ。

醜い現実から目を背けるのではなく、他人の痛みを理解しようとする努力を怠れば、世界はどんどん劣化していき、やがて自分が住む社会も知らぬ間に壊れていくだろう。

日本社会にも、不寛容と無関心の空気が充満している。

昨夜、私はそんな空気に抗うかのように、録画しておいたドキュメンタリー番組を続け様に見た。

気分がどっと落ち込む。

その中の1本が、9月に放送されたBS1スペシャル『ボクと自由と国安法と 香港600時間の映像記録』である。

「自由を求めることは罪なのか」

少したどたどしい日本語のナレーションで始まるこのドキュメンタリーは、香港人の報道カメラマン、クレ・カオルさんが主人公。

漫画やアニメで日本語を覚えたカオルさんは、香港の民主化運動が挫折し国外に逃れた後、ウクライナの戦場を取材し発信を続けている。

カオルさんは自らが撮影した600時間に及ぶ香港の4年間の記録と自由のために戦っているウクライナの人々を対比しながら次のように発言する。

「自由って闘わないと手に入らないものって、改めて認識しました。自由って一人一人が主張しなければ、あっという間になくなっちゃう」

淡々とした口調だが、自由を奪われた人の言葉は重い。

「2019年から2021年までの香港、このままだといつか忘れ去られてしまうので、世界中の人に真実を知ってほしい。知ってくれれば、それでいいです。香港人、最後まで戦いました。その記録です」

香港のことも、ウクライナのことも、私たちはリアルタイムで目撃した。

でも、何も手を差し伸べることができずにいる自分がもどかしい。

寛容さを失い分断が進む世界を象徴するのが難民の急増だ。

NHKスペシャル『混迷の世紀 第12回 “難民漂流”人道主義はどこへ』は、イギリスを舞台に急増する難民に苦慮するヨーロッパの現状を伝えていた。

アフリカから地中海を渡ってヨーロッパを目指す移民の波。

ボートが転覆し命を落とす死者・行方不明者は今年だけですでに2000人を超えているという。

アフリカ各地で続く紛争に加え、気候変動が人々の生活基盤を破壊、絶望の中で多くの人が故郷を離れ命懸けの旅に出る。

かつては人道主義でそうした難民を受け入れてきたイギリスでも、急増する難民申請に苦慮し、一時収容施設予定地では住民や極右団体と人権保護団体の間で対立が起きていた。

そして政府は、イギリスに不法に入国した難民をルワンダに移送する計画を発表、物議を醸している。

かつて大量虐殺で世界の耳目を集めたルワンダも近年は急速な経済発展を遂げ、医師など能力の高い人材を積極的に受け入れており、イギリスからの資金援助と引き換えに、イギリスからの難民移送に合意したのだという。

ヨーロッパでは近年移民排斥を掲げる極右政党が支持を伸ばし、人道主義は大きく後退している。

先進国がみんな内向きとなる中、拡大する富の偏在は今後も人の流動化を加速するだろう。

番組では一切触れられていなかったが、日本も難民に門戸を閉ざしている国の一つである。

世界の分断を一層加速しているのが、権力者たちが意図的に流すフェイクニュースである。

BS世界のドキュメンタリー『ロシア 洗脳される国民』は、ロシアにルーツを持つジャーナリストが両親の故郷であるソチで取材したものだ。

ショイグ国防相が2016年に創設した「ユナルミヤ(青少年軍)」も取材。

18歳以下の子供たちに武器の扱いなどを教えるユナルミヤは現在全国に124万人の隊員を抱え、愛国教育の一環として学校が入隊を奨励しているという。

学校現場での愛国教育も取材していて、ウクライナ侵攻直後に教育省が制作したビデオは2000万人の小中高校生が学校で試聴した。

国家に忠誠を誓うセレモニーも頻繁に行われ、各学校が競うように、特別軍事作戦への支持を示す動画をアップする。

街ではウクライナ侵攻が始まった2022年を独ソ戦開始の1941年と対比するキャンペーンが行われ、軍ではウクライナによるロシア人への弾圧について兵士たちに教え込まれる。

国営放送から流れる情報はロシア政府によるプロパガンダばかりで、多くのロシア人はそれを真実であると信じている。

同じくロシアを描いたBS世界のドキュメンタリー『プーチンの陰で 大富豪”オリガルヒ”の闇を暴く』は、真実が知らされない社会で何が起きるかを知る意味で興味深い。

フランス南部コートダジュールには、オリガルヒたちの豪邸が立ち並ぶ。

イギリスのサッカーチーム「チェルシー」の元オーナー、ロマン・アブラモヴィッチの邸宅は推定価格165億円、鉄鋼業で財を成したヴィクトル・ラシュニコフの邸宅は200億円、モスクワ・シェレメチェヴォ国際空港のオーナー、アレクサンドル・ポノマレンコの邸宅は110億円。

コートダジュールに大邸宅を構えるプーチン大統領の柔道仲間で建設業などを営むアルカディ・ローテンベルクの資産は推定3000億円と言われる。

世界にある全長100メートルを超える大型クルーザーの4分の1はロシア人の所有だという。

その中でも最大の全長154メートルの「ディルバー号」はおよそ800億円、所有者のアリシェル・ウスマノフは金属、電気通信、メディアなどで財を成し、推定資産は1兆8000億円とも言われる。

西側の経済制裁を逃れるため、オリガルヒたちは大型クルーザーをトルコなどに移動させ差押を逃れようとした。

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オリガルヒの資金洗浄に利用されているのが地中海の島国キプロス。

第二の都市リマソールは住民の4分の1がロシア人で、オリガルヒたちはキプロスに何十ものペーパーカンパニーを設立して制裁逃れをしているという。

キプロスには1人で数十社、数百社の役員を引き受ける「ストローマン」と呼ばれる人たちも存在する。

その目的は、秘密にしたい資産があって所有者を隠すために利用されるのだ。

キプロスでは2020年までおよそ3億円の投資と引き換えに国籍を取得することができたという。

オリガルヒの多くがこの制度を利用してキプロスの国籍を取得、その半数以上はキプロスの要人に賄賂を贈り違法な手段により入手したものだった。

その一人がイーゴリ・ケサエフ。

4000億円の資産を持つとされるこのオリガルヒは、ロシアの軍需産業の大株主であり、EU加盟国であるキプロスの国籍を獲得したことにより制裁をかいくぐり、安全保障上重要なフィンランド国内の島を購入することに成功したという。

オリガルヒたちはプーチン体制を支える要とされる。

しかしウクライナ侵攻後、少なくとも15人のオリガルヒが不審な死を遂げているという。

ウクライナ侵攻に反対していた石油大手「ルクオイル」のラビル・マガノフ会長は去年9月に入院中の病院の窓から転落死した。

取材班は死亡したロシア人実業家ヴァレリー・プシェニチニーの家族から克明な証言を得ることに成功する。

プシェニチニーのもとにある日ロシアの情報機関がやってきて彼を連行、数日後彼が独房で自殺したと当局から連絡があったという。

息子のデニスは、きっかけは受注した数十億円のビッグプロジェクトだったと経緯を説明した。

「父は国防省から3Dモデルの制作を受注していました。潜水艦のリアルな立体モデルです。ある日FSB連邦保安庁の連中がやってきて、「おたくはとてもいい契約を結びましたね」と言い「慣例に従って支払われた金額の一部はリベートとして戻してもらわねばならない」と言ったんです。手始めとして彼らは150万ユーロ(約2億円)を要求してきました。」

家族はプシェニチニーの検死報告書を手に入れた。

「背中に殴られた跡があります。これはこめかみを殴られた跡です。全身に電気ショックの傷があります。舌や口の中、唇にも。指先には28箇所もありました。腕には深い切り傷が何箇所もついています。手首のところにも。静脈は全て切り裂かれていました。この後、父は自殺を図ったと捜査官は言ったんです。」

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フランス南西部のリゾート地ビアリッツはプーチン大統領のお気に入りの場所だという。

大西洋を望む崖の上に立つ邸宅はプーチンの家族のために購入されたと、ロシアから亡命した人権活動家ウラジーミル・オセチキンは話す。

「ロシアのあらゆる企業が、プーチンとその親族の支配下にあります。ダイヤモンドや金の鉱山、油田やガス田も全てです。そこから彼らは莫大な利益を吸い上げているのです。協力を拒んだ者は容赦無く刑務所に送られ、そこで死ぬことになります。」

「調査の対象にしたのは、内務省の将校たちと刑務所のシステム、FSBです。徐々に明らかになってきたのは、汚職と拷問が最上層部の命令で行われているということでした。情報機関のトップとプーチン大統領がこういった恐ろしい犯罪に直接関与しているんです。」

「オリガルヒにはプーチンの信任を得た者が選ばれています。まずそのことを理解すべきです。プーチンは彼らがロシア連邦の予算を使って莫大な利益を得ることを許しました。オリガルヒは国の金をプーチンの親族の懐に入れるための存在であり、その活動はいわば大規模な特殊作戦なのです。」

「オリガルヒは国の金を奪っただけでなく、プーチンと組んでロシアの明るい未来を奪いました。私たちの国を何十年も後退させました。KGBが権力を振るい、強制労働が行われていたソビエト連邦の時代を再び作り上げようとしているんです。」

このインタビューの数週間後、オセチキンは自宅で暗殺されかけた。

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自分の国が誤った方向に向かう時、情報統制と監視の中で異論を口にすることはどんどん困難になる。

「自由を求めることは罪なのか」

穏やかな口調で語りかける香港人報道カメラマン、クレ・カオルさんの言葉が妙に耳に残った。

<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 軍事侵攻から5ヶ月!昔のドキュメンタリーから知る「プーチンのロシア」の長期戦略 #220724

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