ロシアによる大規模な軍事侵攻から24日で1ヶ月が経った。

当初の予想に反してウクライナの抵抗は激しく、ロシアの支配地域は広がっていない。
数日で陥落すると見られていた首都キーフや第二の都市ハリコフ、さらに南東部の要衝マリウポリなど主要都市もまだウクライナが死守している。
ここにきて、首都キーフ周辺ではウクライナ側が攻勢を強めロシア軍を押し返しているとの報道も見られるようになった。
しかし、抵抗すればするほど街の破壊は進む。
特に被害の大きいマリウポリでは、東部の親ロシア派軍事組織などを交えた攻撃に加えて、アゾフ海にいるロシア軍艦からの艦砲射撃も受けて、すでに住宅の8割が被害を受けたと伝えられている。
その悲惨な様子は、ドローンによって空撮され世界に配信されている。
これまでは誰も見ることのできなかった戦場のリアルである。

ロシアの侵略1ヶ月に合わせて、ここ数日、さまざまな動きがあった。
順を追って振り返っておきたい。
まずは23日の夕方、ウクライナのゼレンスキー大統領が日本の国会でオンライン形式による演説を行った。
戦争当事国のリーダーが国会で演説するのは初めてのことで、どんな発言が飛び出すか大きな注目を集めた。
「ウクライナへの本当に具体的な支援に感謝する。アジアで初めてロシアに圧力をかけ始めたのが日本だ。制裁発動の継続をお願いする。」
ゼレンスキー大統領はアジアのリーダーとして日本がさらなる圧力をロシアにかけることを求めたが、北方領土や日露戦争などへの言及はなく、比較的穏便な演説だった。
これでゼレンスキー大統領はG7全ての国の国会で演説を行ったことになる。

さらにゼレンスキー大統領は侵攻1ヶ月にあたってのビデオメッセージを公開した。
「世界中の人々がウクライナを支援し、平和と自由を大切にしていると街頭に出て示すべきだ」と世界の人々に訴えかけた。
しかし時間が経つにつれて、大統領による巧みなビデオメッセージにも慣れてしまい、国際世論の反応は鈍くなっているように感じる。

それを顕著に示しているのが株式市場。
急激な円安や世界的なインフレを背景に8日連続で値を上げて、日経平均も2万8000円台を回復した。
マーケットは、戦争とそれに伴う経済制裁の長期化と資源高を織り込んで、「インフレトレード(円売り・株買い)」を仕掛けているのだという。
先日テレビ東京の番組で、海外の投資家たちが日本株の先物を大量に買い、現物を大量に売っているという報道を見た。
それが何を意味するのか私にはよく理解できないが、FRBと日銀の方向性が真逆を向く中で、投機マネーが日本をターゲットにし始めているようで、それが気になる。

軍事侵攻1ヶ月に合わせて、西側諸国の首脳外交も活発化している。
24日にはG7の緊急首脳会議がブリュッセルで開かれ、岸田総理も急遽駆けつけた。
会議後に公表した首脳声明では、ロシアへの追加の経済制裁について「必要に応じて講じる用意がある」と宣言したが、制裁の具体案には触れなかった。

侵攻開始後、矢継ぎ早に発表した経済制裁で新たに切るカードはあまり残っていないように見える。
懸念されるロシアによる生物・化学兵器の使用についても警告は発したが、もし現実に使われた場合にどう対応するのか具体的な言及はなかった。
また中国を念頭に「全ての国に対し、ロシアが侵略を続けるための軍事やその他の支援を行わないよう求める」ことでも一致した。

一方、ニューヨークの国連総会では24日緊急特別会合が開かれ、ロシア軍によるウクライナでの民間人やインフラ施設の無差別攻撃を非難し、即時停止を求める決議を140カ国の賛成多数で採択した。
しかし前回の国連総会同様、5カ国が反対、中国・インドなど38カ国が棄権し、ロシアを取り巻く勢力図は全く変化の兆しがない。
ゼレンスキー大統領は日本向けの演説の中で、国連改革の必要性を訴えたが、常任理事国の一つであるロシアが当事者となった戦争を前に、国連の無力さは誰の目にも明らかになってしまった。

こうした中、ウクライナが最も強く求めているのは大規模な軍事支援である。
G7に先立って行われたNATOの緊急首脳会議では、東欧防衛をめぐり、ブルガリアとハンガリー、ルーマニア、スロバキアに多国籍の戦闘部隊を設けることに合意した。
ウクライナへの軍事支援も強化し、対戦車兵器の供与や防空支援を急ぐほか、ロシアによる生物・化学兵器や核兵器による攻撃を想定した装備品を供与も決定したが、ゼレンスキー大統領が求める飛行禁止区域の設定や航空機の供与などについてはNATOとロシアの戦争につながるリスクを避けるため事実上の凍結されたままである。

一方、ロシア国内でも少しずつ変化が出てきているようだ。
ロシアの第1副首相を経験したこともあるチュバイス大統領特別代表が23日までに辞任し、すでにロシアから出国したことが注目を集めた。
ウクライナ侵攻に反対したとの分析がされていて、プーチン側近にも足並みの乱れが表面化してきたと前向きに捉える論評も見られた。
しかし、ロシアの国営放送がロシア政府のプロパガンダを伝えるのと同様、西側のメディアの情報にも程度の差こそあれ西側のバイアスがかかっている。
断片的な情報で一喜一憂すると、ウクライナ危機の全体像を見誤ることになる。
戦争のようなさまざまな人の思惑が絡んだ国際ニュースはついつい大局を見てしまう。
侵攻当初の衝撃が徐々に失われ慣れてしまうと、人間は徐々にその戦争に対する興味も失ってしまうものだ。
しかし戦線が膠着すればするほど、多くの人命が失われ、人知れず人道危機が進んでいく。
私たちにとって重要なことは、世界で起きている悲惨な事象から目を背けないこと。
関心を持ち続けることだ。
それはウクライナに限ったことではない。
シリアでも、アフガニスタンでも、ミャンマーでも、香港でも、新疆ウイグルでも・・・。
忘れることは生きていくうえで大切な機能だが、がんばって関心を持ち続けることこそが自由を守るぬく唯一の道だと信じたい。
<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 ロシアの軍事侵攻始まる!世界史の転換点になる可能性があるこの危機を記録する #220224