<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 戦線膠着で20日目!第二次大戦と変わらぬロシア、デジタルで戦うウクライナ #220315

ロシアの軍事侵攻から20日が経過した。

世界最強と恐れられたロシア軍はウクライナの猛烈な抵抗の前に予想外の苦戦を強いられ、戦線は膠着状態に陥っている。

南部の要衝マリウポリではロシア軍の包囲でライフラインが止められ、食糧も底をつく悲惨な状況となっているようだが、ロシアの支配地域は数日前からさほど広がってはいない。

当初2日で陥落すると専門家が指摘したキエフは、三方からロシア軍が迫り総攻撃間近と見られてはいるが、今も中心部はほぼ無傷のままでウクライナの首都として立派に機能している。

「キエフ」という呼び名はロシア語で、私もそろそろウクライナ語の「キーフ」と呼ぶようにした方がいいだろう。

キーフには、今も200万人が止まっているという。

ウクライナ政府が18〜60歳の男性の出国を禁止したためやむをえず残っている人もいるのかもしれないが、多くの市民は領土防衛軍に志願したり、ボランティアとして高齢者を支えていたり、祖国を守るために自分ができることをして貢献しようとしている。

ロシア軍のまさかの軍事侵攻で突然奪われた日常生活。

祖国防衛のためとはいえ、短期間で戦時モードに移行したウクライナの人たちの団結力と闘争心には本当に驚愕し、敬意を表する以外ない。

果たして日本人にこんな離れ業ができるだろうか?

プーチン大統領の最大の誤算は、ゼレンスキー首相という人物を完全に見誤ったことだ。

支持率も低調なコメディアン出身の素人大統領をプーチンさんは完全に舐めていたのだろう。

それは私も同じで、多くの専門家たちもゼレンスキーという男の持つ映画さながらの演説力、リーダーシップをまったく理解していなかった。

ひょっとするとゼレンスキー氏本人も今回の事態が起きるまで自分の才能に気づいていなかったかもしれない。

前代未聞のゼレンスキー劇場は、スマホで自撮りした動画をSNSでアップしたところから始まる。

これまで一国の指導者が誰一人やったことのないデジタル戦争の新基軸だった。

世界最強のロシア軍を前に、ウクライナはデジタルを最大限に活用して抵抗を続けている。

先日テレビの取材に応じたデジタル庁のトップは、ロシア軍の侵攻初日に市民を組織化するいわば「デジタル軍」を立ち上げたと語った。

市民がスマホで撮影した戦場のリアルな動画を発信して国際世論に訴える。

これがかつてない国際世論の高まりを生み出し、ウクライナ支援の輪を急速に広げていった。

だがデジタルの活用はそれだけではない。

日本経済新聞の記事を引用しておこう。

ウクライナ政府は侵攻が始まった直後の2月下旬、通信アプリ「テレグラム」に「ロシアの戦争を止めろ」と題した専用の窓口を設けた。市民の力を得てロシア軍の位置情報を把握する狙いだ。

市民はフォーマットに沿ってアプリに、ロシア軍を目撃した場所、時間、何を具体的に見たのかなどを送る。その情報をウクライナ軍が精査のうえ作戦に役立てるという仕組みだ。同国当局は8日、情報提供をもとにキエフ郊外でロシア軍車両を破壊したとする写真を投稿。効果があがっていると強調した。

9日には、ウクライナ政府がロシアの戦争犯罪を証明するためのサイトも立ち上げた。国民にロシア軍による市民への攻撃や人権侵害について、写真や動画、具体的な被害状況などの情報を求めている。

ロシアは侵攻の目的を「ロシア系住民の保護」と説明しており、いまだに戦争と呼ぶことすら認めていない。病院への空爆も「病院は兵士が使っていた」などとして、医療機関への攻撃を禁じた国際法違反にあたらないとの立場を貫く。

ウクライナ政府は市民から戦争犯罪に関わる生情報をできる限り集め、国際司法裁判所(ICJ)などへの申し立てで活用する方針だ。ロシア軍の残虐行為や国内の惨状をできるだけ多く世界に公開することで国際世論をさらに味方につけ、ロシアの情報工作に対抗する狙いもある。

米シンクタンク、ランド研究所のウィリアムズ上級国際防衛政策研究員は「市民の投稿は相手部隊の装備の種類や活動場所の特定などに貢献し、軍事資源が限られるウクライナ軍の敏しょう性につながる」と話す。一方で敵軍の偽情報にだまされるリスクもあるため「情報組織の中に、投稿の真正性の確認や他の機密情報と組み合わせた分析をするチームが必要になる」とも語った。

引用:日本経済新聞

さらにこんな記事も目にした。

「ウクライナIT企業、アプリで抵抗運動 防空壕で開発継続」

こちらも日本経済新聞からの引用だ。

キエフに本社を持つマックポーはコソバンCEOが本社に残る傍ら、チームを国外や西部のイワノフランキフスクの事務所に移すなどして事業を続けた。技術者はどのアプリがロシアとつながっているかを確認できる「監視防止」のソフトを作成。避難時に充電が難しいiPhoneの電池消費を抑えるソフトを作ったり、正しい戦況をネットで受信・共有できるよう無料のVPN(仮想私設網)機能を開発したりした。

「領土の防衛に参加する人もいれば、防空壕(ごう)から情報や技術面でウクライナのIT軍を支援する人もいる。(すべては)社員の選択によっている」

英文の文法訂正や文章の盗作検知など人工知能(AI)を使った言語処理サービスを手がけるウクライナ企業のグラマリーは、ウクライナについて文書を書く際にネット上の関連リンクに誘導するように設定し、資金面での支援などを呼びかけやすいようにした。サービスも報道機関向けに無償提供した。

1991年に旧ソ連から独立したウクライナは、重工業の基盤がない中でソフトウエア産業の強化を進めてきた。同国投資庁によるとIT企業の数はロシアの侵攻前で5000社超。ITウクライナ協会によればコンピューター関連サービスの2021年の輸出額は68億ドル(約8000億円)と、18年から2倍以上に拡大した。IT部門の収益は国内総生産(GDP)の4%以上を占めていた。

引用:日本経済新聞

一見、軍事とは関係なさそうなIT技術も工夫次第で役に立つということなのだろう。

現代の戦争は、デジタルの「総力戦」という様相を呈している。

こうした市民たちから寄せられた膨大な映像は、かつてない戦争のリアルを世界中の人たちに見せつけた。

虐殺の危機にさらされるロシア系住民をネオナチから守るための特殊軍事作戦というロシア側の主張がいかにデタラメな偽情報であるのか、その映像を見れば普通誰でも判断ができる。

ロシアを非難する世論が世界中で巻き起こり、それに押される形で各国の政府はロシアへの制裁とウクライナ支援に動き、グローバル企業も一斉にロシアとのビジネスを中止した。

歴史上初となるデジタル戦争で、にわか作りのウクライナのデジタル戦は緒戦で華々しい成果をあげたのだ。

ロシア軍は占領した南部の町で市長を拉致し、親ロシア派の市長を擁立したが、ロシア軍が市長を拉致する瞬間の街頭カメラの映像が世界中に流れ、謀略の一部始終が明らかになった。

これまでの戦争ではお互いに非難するだけで、第三者にはどちらの言い分が正しいのか判断できないケースも多かった。

ジャーナリストも戦争取材は当局の情報に頼らざるを得ず、客観的な情報を得る手段はほとんどなかったと言ってもいい。

しかし誰もが映像を撮影して発信できる時代には、膨大な映像の中からいかに早く敵に打撃を与える映像を探し出し、適切な情報と共に発信することが勝敗を決する。

その点、ロシアがやっていることは、第二次世界大戦当時とほとんど変わらない。

戦前の日本軍部が実行した施策と驚くほど瓜二つと言っていい。

先ほどの占領地の首長を逮捕して、自分に都合のいい人物にすげ替えるのも、日本がアジア各地でやったことだ。

そして反ロシアの国際世論が盛り上がると、そうした情報がロシア国内に流れ込まないように徹底した情報統制に乗り出した。

これまた戦前の日本と全く同じだ。

街頭で戦争反対を叫ぶデモ隊は全て力づくで逮捕し、メディアはロシア政府の主張をあの手この手で拡散しようとする。

侵攻当初はインターネットを通じて他国からの情報も得られたが、今では全てが遮断された。

街にはウクライナ侵攻支持のシンボルとされる「Z」の文字が至る所で掲示されているという。

戦前の日本が敵を「鬼畜米英」と呼び、「アジアの解放」の大義を宣伝して国民を洗脳したように、ロシアでもNATOの脅威をことさらに煽り、ウクライナをファシストが支配するネオナチ国家と位置付けて正義の戦いだとロシア人を納得させようとしているのだ。

私たち外国人からすれば、どうしてロシア国民は見え透いた偽情報を信じるんだろうと感じてしまうが、戦前の日本もそうだったではないか。

人間は身の回りにある情報をもとに判断するのが普通だ。

報道機関からもたらされる情報、友人知人からの口コミ情報・・・自分から積極的に異なる情報を取りに行く人は少数派なのだ。

しかし、勇気がある人というのもどこの社会にいるもので、ロシア国営テレビで放送中に戦争反対を訴える女性が乱入した。

手には「戦争反対。戦争を止めろ。プロパガンダを信じないで。ここの人たちは皆さんにうそをついている」と書かれた紙を持っていて、ロシアのテレビで流されている偽情報を信じている人たちに直接訴える抗議行動だった。

ロシアでは4日、今回の軍事行動に関し「虚偽」情報を広げた場合に最大15年の懲役や禁錮を科す改正法が成立した。

ロシアはウクライナでの軍事行動は戦争と認めておらず、「戦争」や「侵略」と呼ぶことも法律に抵触するため、彼女はすぐに逮捕されたという。

しかし、女性が乱入した瞬間、キャスターの女性が振り向くこともなく、カメラも異常な動きをしていないことを見ると、テレビ局の人たちは彼女の抗議行動を事前に知っていて黙認したのではないかとの疑念も湧いてくる。

国営テレビに乱入した女性は、国営テレビ「第1チャンネル」に勤める編集者、マリナ・オフシャニコワさん。

テレビの現場で働く人間として、嘘の情報を流し続けることに耐えられなかったのだろう。

元テレビマンとして彼女の気持ちはとてもよく理解できる。

オフシェニコワさんは事前に収録した動画をネットにアップして、ウクライナで起きていることは「犯罪」で、侵略者はロシア、責任はウラジーミル・プーチン大統領1人にあると発言した。

NHKが彼女のビデオメッセージの全文を掲載していたので引用しておく。

「いまウクライナで起きていることは犯罪だ。そしてロシアは侵略者だ。侵略の責任は、ただ1人の道義的な部分にかかっていてそれはプーチン大統領だ。私の父はウクライナ人、母はロシア人で、敵対したことは1度もない。私の首にかかるネックレスはロシアがこの同胞を殺し合う戦争を直ちに止めなければならないという象徴だ。兄弟国である私たちはまだ和解できるはずだ。残念ながら私は過去何年もの間、『第1チャンネル』でクレムリンのプロパガンダを広め、今はそれをとても恥じている。テレビ画面を通してうそを伝えることを許してきた自分を恥じている。ロシアの国民がだまされるのを許してきたことを恥じている。すべてが始まった2014年、クレムリンがナワリヌイ氏を毒殺しかけたとき、私たちは抗議集会に行かず、この非人間的な政権をただ黙って見ていた。そして今、世界中が私たちに背を向けている。今後10世代にわたる子孫はこの同胞による戦争の恥を洗い流すことはできまい。私たちは思考力があり、賢いロシア人だ。この暴挙を止めるには、私たちの力しかない。抗議集会に加わってほしい。当局は全員を拘束することなどできず、何も怖がることはない」

引用:NHK

とはいえ、彼女のような人がどれだけロシア国内にいるのかははっきりしない。

日本を含む西側では、ロシア国内の反戦運動が盛り上がり、プーチン大統領の権力基盤が揺らぐことが期待されている。

しかし、全ロシア世論調査センターが発表した直近の支持率を見ると、ウクライナ侵攻後プーチン大統領の支持率は急上昇しているように見える。

この数字が信頼できるとは思えないが、戦前の日本でも国際社会から孤立すると逆に愛国心に燃える人間が増えたように、マクドナルドやユニクロが閉店し目に見える形で経済制裁を突きつけられたロシアの人たちが、制裁を仕掛けた西側諸国に対して敵愾心を燃やすことは十分に考えられる。

今のロシアを見る時に、戦前の日本、当時の日本人の心境を学ぶことは役に立つかもしれない。

経済制裁の一環でグローバル企業が提供するSNSが利用できなくなったロシアでは、今ロシア版のフェイスブックと言われる「フコンタクテ」の利用者が急増しているという。

フコンタクテではウクライナへの侵攻に関して賛成・反対を掲げた投稿やページが入り乱れている。「平和のために、勝利のために」というページには、ロシアの侵略に反対する投稿が相次ぐ。18万人以上の登録者がおり「ウクライナにネオナチはいない。ファシストはクレムリンに座っている」などの書き込みが目立つ。

一方、約17万人が参加するプーチン大統領を支持するページでは「ウクライナのファシストに死を」という投稿に対し参加者から「素晴らしい」「わたしたちの英雄に栄光を」などのコメントが殺到している。

引用:日本経済新聞

ネットを自由に操る若者たちの間では、賛否が分かれているものの、冷戦崩壊後の混乱を知る高齢者になればなるほどプーチン支持の岩盤は硬い。

我々が期待するように、ロシア国内で反プーチン運動が盛り上がるのは簡単ではないだろう。

しかし、プーチン大統領がこの20日間で窮地に追い込まれたことは間違いあるまい。

第二次大戦当時から変わらぬ思考回路の中にいるロシアと、デジタル時代に適応した新しい戦争を開発するウクライナ。

これはまさに時代の変わり目を象徴する戦争であり、ハードvsソフトの戦いでもある。

西側の経済制裁はこれから本格的にロシア経済を締め上げていく。

戦前の日本人が「ぜいたくは敵だ」とがんばったように、制裁慣れしていると言われるロシア人がどこまで生活苦に耐えられるのか。

この戦争がどんな結末を迎えるのか全く予断を許さなくなっていること自体、ウクライナが事実上勝利しているということだと私は理解している。

ウクライナ

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