<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 「スプートニク」が報じたチェチェンの「ロシア特殊部隊大学」とコソボ情勢 #220802

8月に入ってもウクライナの情勢に大きな変化は見られない。

東部2州のうちルハンシク州を完全制圧したロシア軍は残るドネツク州の攻撃に全力を挙げるとしていたが、ウクライナ軍がロシアの支配下にある南部で反転攻勢に出たことにより、ロシア軍も東部の部隊を南部へ転進させたとも伝えられる。

いずれにせよ、地図を見る限り、お互いの勢力図は大きく変わってはいないようだ。

そんな中、国連とトルコの仲介により、ウクライナの港で何ヶ月も倉庫に眠っていた穀物の輸出が動き始めた。

昨日ウクライナの穀物を積んだトルコの貨物船がオデーサの港を出港するのが確認された。

ウクライナでの戦闘長期化によって、中東やアフリカでの食糧危機が深刻化していることに対応する人道的な取り組みで、積荷はトルコでのチェックを受けた上でレバノンへと運ばれるという。

しかし一方で、ロシア軍は南部の港湾都市への攻撃を激化させていて、31日にはミコライウ州に数十発のミサイルが撃ち込まれ、ウクライナ有数の穀物輸出業者の夫婦が自宅で殺害された。

ウクライナ側の軍事施設を破壊したとするロシア側の発表とは裏腹に、この夫婦の自宅をあえて狙った可能性も指摘されている。

東部では、親ロシア派の支配地域にあったウクライナ捕虜の収容施設で29日大きな爆発があり、捕虜40人が死亡、130人が負傷したと伝えられる。

ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアがテロ支援国家であることを法的に認め、米国が行動を起こすべきだ」とロシアによる犯行だと強く非難した。

ところが、この捕虜収容所への残虐な攻撃もロシアメディアの伝え方は全く異なる。

私が時々チェックしている「スプートニク」というロシア通信社のサイトではこう報じられていた。

ウクライナ軍がドネツク人民共和国イェレノフカ村にある捕虜の収容所を米国製高機動ロケット砲「ハイマース」で攻撃したとされる事件で、ロシアは公平な調査を実現するため、国連及び国際赤十字の専門家らを正式に招聘した。ロシア国防省が表明した。

引用:スプートニク

『ウクライナ軍が「ハイマース」で攻撃したとされる事件』、すなわちウクライナ軍が自国の捕虜を攻撃した自作自演だという前提で伝えているのだ。

先にドネツク人民共和国のデニス・プシーリン首長はこの攻撃について計画的なものであり、この収容所に収監されていた「アゾフ大隊」(ロシアで刑事事件で告発されている)の元戦闘員らが供述を始めたことから、ウクライナ軍が口封じとして砲撃を実施したと主張している。

引用:スプートニク

現在「ドネツク人民共和国」のトップを務めるデニス・プシーリンという人物は、「MMM」と呼ばれるネズミ講のような団体で活動した後、2014年に勃発したウクライナ東部の紛争に乗じて「ドネツク人民共和国」最高評議会の議長に就任した。

こういう人たちがロシアの手先となって、ウクライナ国内で対立を煽ってきたのだ。

この「スプートニク」のサイトを見ていると、日本では全く伝えられることのない、ロシア国内の興味深い情報を得られることもある。

たとえば、7月20日に配信された『特殊軍事作戦の義勇兵志願者はどんな訓練をしている? チェチェンのロシア特殊部隊大学に潜入取材』という記事などは実に面白い。

これはスプートニクで働く日本人記者・徳山あすかさんが書いたもので、彼女のプロフィールを調べると時事通信を退社後ロシアに渡り、サンクトペテルブルクやモスクワの大学で勉強したのちロシアの国営通信社に入社したという異例の経歴の持ち主のようだ。

世の中には本当にいろんな人がいるものである。

それでは彼女の記事を引用させてもらおう。

筆者は現在、チェチェン共和国グデルメスという町にある、ロシア特殊部隊大学という、一風変わった名前の場所にいる。ここはチェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長のイニシアティブによって2013年に開校した特別訓練所で、ロシアや友好的な諸外国を対象に、プロの軍人から趣味の民間人まで、様々な分野であらゆるレベルの訓練を行ってきた。現在ここではウクライナにおける特殊軍事作戦に参加するため、いわゆる義勇兵と呼ばれる人たちが訓練をしている。その模様を現地からお伝えする。

そもそも義勇兵とはプロの軍人ではなく、元々は一般人であるが、限られた期間、自分の意思でロシア国防省と契約を結び、軍事作戦に参加する人たちである。自分の身を守り、現地で必要な技術を身につけるため、ロシア中のあらゆるところから志願者が集まってくる。元職業軍人だったという人から、全く軍事には縁遠かった人まで、実に多様だ。

引用:スプートニク

ウクライナの最前線にチェチェンの精鋭部隊が送り込まれていると聞くが、これは必ずしもチェチェン人を意味するのではなく、ロシア各地から集められた義勇兵も含まれているのだろうかとこの記事を読んでまず最初に感じた。

初日からたくさんの志願者と会話することができた。年齢層は、下は19歳から上は53歳までと幅広かった。ボルゴグラード出身のアルメニア人男性は、自分は民族的にはアルメニア人だが、ロシア人のメンタリティを理解していて、軍人として働いたこともないが、この状態を黙って見ていられないと義勇兵に応募した。

インストラクターの一人は好ましい義勇兵の素質として「チーム精神が大事」と指摘するが、共通の目的で集まっているだけあって、年齢差が大きくてもチームワークに問題はないようだ。クラスノダール出身の53歳の男性は、すでにウクライナに行って戻ってきた19歳の男性のことを「彼のことを男として尊敬している」と話した。この若者は、帰還後2度目の訓練を受けている最中だ。

義勇兵になった理由は「現在の状況を座って見ているのが耐えられない、自分も貢献しなくては」という人がほとんどだが、ヴォロネジ出身の23歳の青年は「ロシア人は誇り高く強い精神を持っていると証明したいから」と話した。この人もまた、2度目の訓練中だった。2か月間ウクライナで職務をこなし、上官の命令で戻ってきた。

引用:スプートニク

写真を見れば、どこにでもいる気の良さそうな男たち。

彼らは口にしないが、カネが目的という人もきっといるに違いない。

しかし、こうした素人ばかりではない。

この施設では実践慣れしているというチェチェン部隊も訓練をしていた。

ここでトレーニングをしているのは、義勇兵志願者だけではない。プロの軍隊、主にはロシア国家親衛隊のチェチェン人部隊だ。ピストル射撃の訓練場に行ってみると、先程、義勇兵のインストラクターをやっていた人の姿があった。その人は、腕を鈍らせないため、午後は自分のトレーニングの時間にあてているのだという。15人同時に撃つので、見学していると鼓膜がすごいことになる。

また、自動てき弾銃の訓練も見学した。投射機を使用して爆弾を遠くへ飛ばす。2人1組で携帯し、1分以内に組み立てて標的を狙う。まずは角度や気温など、あらゆる要素を考慮して正確に組み立てることを目標にし、それがクリアできたらスピードを追求する。

訓練が終わってみると、特殊部隊という名とは裏腹に、とてもフレンドリーな人たちだ。「女性はスナイパーに向いているからどう?」と訓練のお誘いを受けた。もちろんプロとは別だが、冒頭で紹介したように、この大学では民間人も学べ、期間や内容をカスタマイズした「マイコース」も組めるというから、驚きである。筆者が宿泊するホテルは大学の敷地内にあるが、そこにはたくさんの民間人が宿泊していて、実に人気があることがわかる。

引用:スプートニク

所詮は提灯記事なので、ロシアに対する厳しい指摘は当然一言も書かれておらず、文字通りプロパガンダの一環ではあるが、私たちが知らないロシア側の一面を覗くことができる。

ここ「ロシア特殊部隊大学」では、民間人が参加できるコースも用意されているという。

徳山さんの記事の後編『チェチェンのロシア特殊部隊大学に一日入学してみた 屋上からビルに侵入、スナイパー講習など日本人も参加可能』からの引用。

最初の訓練は懸垂下降である。よく映画などで、建物の入り口から正面突破できない場合、特殊部隊の隊員が屋上からロープをつたって下に降り、窓ガラスを足で割って中に侵入するシーンがあるが、まさにそれだ。

引用:スプートニク

私もフランスで似たような訓練を受けたことがある。

当時はボスニア紛争の真っ只中で、フランス外人部隊の基地で戦場取材をするジャーナリストのための特別訓練というのに参加したのだ。

軍隊に同行取材する際には時にこうした特殊な技術や知識が必要になることもある。

ガスマスクの使い方や雑誌やペンを使って身を守る方法なども教えてもらった。

続いては3種類の射撃訓練だ。筆者の指導にあたってくれたのは、この大学で唯一の女性インストラクターであるアンナさん。チェチェン共和国ラムザン・カディロフ首長の招聘により、2017年からここで働いている。チェチェンは保守的な土地柄で、かつては女性がスポーツをすることはあまりよく思われていなかった。しかし今ではスポーツを楽しむ女性が増えており、射撃も例外ではない。チェチェン女性が家族や親戚以外の男性と接触することはご法度だ。ただし射撃のようなスポーツは、インストラクターが、手や身体に触れて指導する必要があるので、女性インストラクターが重宝される。

引用:スプートニク

「射撃訓練=スポーツ」という紹介の仕方が私たち日本人には普通なかなかできない。

でも、アメリカでもロシアでも、身の回りに銃が普通にある国では射撃もレジャーになるのだろう。

そういえば、初めてグアムに行った時、私も勇んで射撃場に出かけて生まれて初めて銃を撃ったことを思い出した。

でもここは単なる観光地ではなく、軍の施設。

素人でも射撃の才能があると認められればきっとスカウトされたりするに違いない。

ロシア特殊部隊大学では、ロシアで唯一、民間人がスナイパー講習を受けることができる。練習場は高台にあり、腹ばいに寝そべる。そこから遠くの山にある標的を狙う。インストラクターの手元のカメラで、弾が標的に当たったかどうか瞬時にわかり、命中の瞬間の動画も撮れる。スナイパー銃は安いものはおよそ30万円で買えるが、狙いを定めるには、高い銃の方が使いやすい。色々な銃を使い比べることができたので、素人でもその違いはよくわかった。

引用:スプートニク

民間人にスナイパーの講習を行うというのはいかにもロシアっぽい。

ウクライナでの戦争が始まってから、ウクライナやロシアの戦争映画をいくつか観たが、その中に『ロシアンスナイパー』という作品があった。

クリミアを併合しウクライナ東部での戦闘も始まった2015年に制作されたロシア映画で、第二次大戦でナチスと戦い309人を射殺して「死の女」と恐れられたソ連の女性狙撃手リュドミラ・パヴリチェンコの姿を描いた戦争映画だ。

スナイパーは、茂みや雪の中にじっと身を潜め、何日も敵が現れるのを何日も待ち続ける根気が必要とされる兵士だということがこの映画で知った。

そうしたスナイパーとしての訓練を受けたロシア兵士がウクライナ各地にも配置されているに違いない。

「スプートニク」では、ウクライナ侵攻後最大の激戦地となったマリウポリの復興ぶりについても伝えていた。

マリウポリは今年4月21日、ウクライナ軍との激しい戦闘の末、ロシア軍の管理下に置かれた。それから現在に至るまで、市内ではインフラの復旧や住宅の再建など、復興へ向けた作業に追われている。

また、市は6月、ロシアのサンクトペテルブルクと姉妹都市提携を締結。同市からの援助を受け、マリウポリの公共交通機関は回復しつつあるという。

引用:スプートニク

破壊されたビルを修復する重機。

作業を行っているのはロシア国防省の建設隊だと紹介されていた。

ビーチでくつろぐ市民の写真も掲載されていた。

こうしてロシア国民向けに「ロシアが解放した地域」には平和が戻ってきたとアピールしたいのだろう。

しかしウクライナ側は欧米から供与された最新兵器を配備して南部地域の奪還を本格化させていると西側メディアは伝えている。

西側メディアだけを見ていると、ロシア軍の窮状を伝える楽観的な報道も散見されるが、プーチンさんが失脚でもしない限りロシアがウクライナの併合を諦めることはなさそうに見える。

そして、「スプートニク」が最近伝えた記事で気になったのは、ロシアと西側の対立がウクライナから他の地域に飛び火する気配があるとの情報だった。

それはセルビアとコソボの対立である。

7月31日夜、コソボの状況は、急激にエスカレートした。その原因は、未承認国の警察が隣国セルビアとの国境の検問所を閉鎖し、8月1日以降、コソボ領内で、セルビア語で記された書類が禁止されることになったことにある。このため、セルビア語表記の自動車のプレートが、強制的に撤去されるという事態が発生した。一体、何が起こっているのか。

状況は暴動に変わり、いくつかの場所では、銃撃へと発展した。この地域では民族紛争がさらに複雑化している(コソボの主な住民はアルバニア人だが、北コソボではセルビア人が過半数を占めている)。 コソボ当局は特殊部隊を国境に結集させた。セルビア人は主要幹線道路に集まり、コソボ警察が制圧するのを妨害するためにバリケードを組み始めた。

引用:スプートニク

コソボはかつてセルビアの一部だったが、2008年に一方的に独立を宣言し日本を含む93カ国が承認した。

しかしセルビアはもちろん、国内に民族問題を抱えるロシアや中国、さらにはスペイン、ギリシャ、ルーマニアなど85カ国は今もコソボを独立国として承認していないのだ。

コソボの住民の大半はアルバニア系だが、歴史的にはセルビア人の故郷とされる土地でもあり、今もセルビア系住民が集まって暮らす地域が点在する。

ロシアがロシア系住民たちの要請を受ける形でウクライナに侵攻したように、セルビア系住民を守るという名目でセルビアとコソボの間で再び紛争に発展する可能性もある。

セルビアは東欧の中でもロシアとの結びつきの非常に強い国であり、コソボがロシアと西側の代理戦争の舞台となる可能性には留意しておく必要がありそうだ。

第一次世界大戦はセルビアの一人の青年がオーストリアの皇太子を暗殺した事件から始まった。

ウクライナに目を奪われていると、全く別の場所から世界大戦が始まることもあるのだ。

今夜、アメリカのペロシ下院議員が台湾を訪問する。

「ペロシ米下院議長が台湾地区を訪問すれば、中国軍は決して座視せず、必ずや断固たる対応と強力な対抗措置をとって、自らの主権と領土的一体性を守る」と強く牽制する中での訪問だ。

米中が直接衝突する最悪の事態も想定され、米軍は空母を台湾近海に派遣したとも伝わる。

世界中がきな臭さを増している。

各国のリーダーが国内向けに勇敢さをアピールしようとすればするほど、戦争は思わぬところから始まるというのが人類が幾たびとなく経験してきた教訓である。

<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 要衝マリウポリ「陥落」とフィンランド・スウェーデンのNATO加盟申請 #220518

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