2国家共存

トランプ大統領がまた危険球を投げた。今度は「世界の火薬庫」、中東だ。

イスラエルのネタニヤフ首相と会談したトランプさんはこんな発言をした。

「2国家でも1国家でも(イスラエルとパレスチナの)双方が望む方でいい。どちらでも受け入れ可能だ」

中東和平を巡りこれまで唯一の解決策としてきたパレスチナ国家とイスラエルとの共存を目指す「2国家共存」には必ずしもこだわらない考えを表明したのだ。

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いまでは、イスラム国やシリア情勢の陰に隠れて印象が薄くなったが、第二次大戦後の地域紛争でパレスチナ問題ほど長く激しく敵対してきた歴史はない。イギリスの植民地政策が生み出した悲劇は、解決の糸口が見えないままイスラエルとパレスチナ人を中心としたアラブ諸国の対立が続いてきた。幾度も戦火を交え、多くの難民を生み、テロと暴力の温床となってきた。

その中東問題解決の切り札として考え出されたのが「2国家共存」という考え方だ。2国家共存とは、パレスチナ国家の樹立を認め、イスラエルとの共存を目指す中東和平の解決案だ。1993年のオスロ合意で始まった和平プロセスを仲介した当時のクリントン米大統領が、パレスチナの独立を認める和平案を提示した。

共和党のブッシュ政権に代わってからも、2003年にアメリカやロシア、国連、EUが発表した中東和平のロードマップ(行程表)で「2国家共存」が明確に打ち出された。その後政権を担った民主党のオバマ大統領も2国家共存が「唯一の解決策」という立場を維持した。

トランプ大統領の発言は、こうしたアメリカ歴代政権の努力を一気に吹き飛ばしてしまう可能性がある。ユダヤ人が多いアメリカは、もともとイスラエル支持だった。そのアメリカがイスラエルに圧力をかけることで初めて和平の糸口がみつかる希望が生まれた。

トランプ氏は選挙中からイスラエル寄りの発言を繰り返していた。そういう意味では、特段予想外なことではない。メキシコ国境に壁を作るという発想も、パレスチナとの境界線に壁を築いたイスラエルを模しているとも考えられる。

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保守的なアメリカ人が普段会話しているレベルの知識で中東問題に口を挟むと、再び激しい地域紛争に逆戻りする危険性がある。トランプさんに中東問題を抜本的に解決する秘策があるとは到底思えない。であるなら、安易に前任者たちが敷いたレールをぶちこわすべきではない。

トランプ氏はネタニヤフ首相に、イスラエルが進める入植地の拡大について「少し自制してほしい」と釘をさした。その一方で、アメリカ大使館を現在のテルアビブからエルサレムへ移すことも前向きに検討すると話した。一体何がしたいのか。

アメリカ大使館をエルサレムに移すと言うのは、エルサレムをイスラエルの「首都」と認めることだ。エルサレムはユダヤ教の聖地であると同時にイスラム教の聖地。キリスト教の聖地でもある。世界の三大宗教にとって、決して譲ることができない場所。だからこそ、その位置づけを意図的にあいまいにしてきたのだ。エルサレムは世界最大の火薬庫である。それをもてあそぶ愚は、とても見ていられない。

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フリン補佐官の辞任で、トランプ政権とロシアの関係にスポットライトがあたりつつある。大統領選にからみ、ロシアの関与が明確になることがあれば、さすがのトランプ氏も軽口が叩けなくなるだろう。「フェイク・ニュース」とトランプ氏が呼ぶアメリカのメディアは今必死でその証拠を見つけようとしている。

14日付のニューヨーク・タイムズは、ロシアが地上発射型の巡航ミサイル「SSC8」を新たに実戦配備したと報じた。中距離核戦力(INF)全廃条約に違反する可能性がある、と指摘している。ロシアとの関係改善を目指すトランプ氏を意識した記事に見える。

やはりトランプ大統領を権力の座に置いておくのは、世界にとって危険すぎる。今回の中東問題での対応を見ていて、ますますそう思うようになった。

 

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